異世界になったこの世界を取り戻す

文戸玲

あれから二年⑦~家族会議前夜~

 嵐のような一日だった。森に行ってジャックベアをやっつけて鼻を高くしていたことがはるか昔のことのようだ。これからどんどん強い敵と戦うことになるだろう。今のままではかなわない敵がたくさんいるはずだ。でも,じっとしてはいられない。まずこれからやるべきことはじいちゃんが言っていた書斎にある日記を見ることだ。じいちゃんの言い方だと,この世界では何かが起きつつあるか,もうすでに何かが起こり始めているのだろう。きっと,それを解決するために旅に出て,なにかの巡りあわせで突然この家に現れることになったに違いない。
 さまざまな憶測を頭の中でたてていると,窓からこちらを見ているような視線を感じて振り向いた。しかし,そこには誰もいなかった。窓を開けてあたりを見渡しても怪しい人影は見えない。ただ風に木がなびいてはかさかさと音をたて,枝にとまったつがいの小鳥が楽しそうにさえずっているだけである。気のせいだったのだろう。だけど,なんだか変な感じがする。

見えないものを気にしていても仕方がない。すぐに書斎に行きたくなり,

「今からじいちゃんの日記を探してくる」

と告げた。そのまま返事も待たずに二階への階段を駆け上がろうとすると,

「待て。気持ちはわかる。だけど,今日は休め。明日一緒に探そう。おれも見たい。明日,一緒に見ようぜ。絶対」

とジャンは言った。いつもより強い意志を感じさせる瞳で念押しされるような言い方をされると何も言い返せなかった。「今日はもう休め」と言われそのまま部屋へと上がった。もやもやした気持ちを抱えたまま部屋のベッドにあおむけになり,天井の模様を見つめた。書斎の日記が消えてしまうわけではない。焦っても仕方がないのだから明日ゆっくりと読んで,じいちゃんが気付いてほしかったことを読み解きたい。それに,もしかしたらジャンと母さんはもうその日記の存在について知っていたのかもしれない。気になっているのはまるで自分一人のような感じがする。でも,もう自分のやるべきことは決まっている。明日,この世界で何が起きているのかひも解くための糸を見つけ出したい。
 ベッドから起き上がり,窓を開ける。外に腰かけると,月はもう空の高い位置にありこの世界を明るく照らしていた。町のいたるところで光が灯っていて近くを流れる川では水車が規則正しく回ってエネルギーを生み出している。いつもと変わらぬ風景。この世界で何が起ころうとしているのだろう。明日はそれを知りたい。そして,もし危険が迫っているというのなら,自分にできることがあるのなら,この世界を守りたい。
 よし,明日は早起きをして特訓だ。そしてジャンが起きてきたら一緒に書斎に向かおう。網戸を絞めてベッドにダイブした。ほどなく,深い眠りに落ちた。空では流れ星が一つ,糸を引くように流れては消えていった。

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