嫁ぎ先の旦那様に溺愛されています。

なつめ猫

借金の真相(1)




 車はUターンをして神社の境内へと続く階段下へと到着する。

「櫟原さん! ありがとうございます」

 私は、頭を下げる。
 すると、彼は運転席から降りてくると――、

「高槻様をよろしくお願い致します」

 ――そう頭を下げてきた。

「よろしくはされませんけど、話はきちんとしてきます」
「それで構いません」

 彼は、頭を上げると真剣な表情で私をみてくる。
 どんな思いや考えが櫟原さんにあるのか分からないけど、私は私のしたい事をする! それだけを胸の内に抱いて石で組まれた階段を掛け上がり鳥居を潜り抜け境内を通る。
 
 そして――、鍵の掛かっていない母屋のドアをスライドさせて玄関に足を踏み入れると、「櫟原か?」と、言う声と共に高槻さんが姿を現すけど、「……どうして、宮内がこんなところにいるんだ?」と、疑問を呈してきた。

 その呆けたに近い姿に私はよく分からないけど怒りが込み上げてくる。

「私が居たら駄目なんですか!」

 思わず声を荒げてしまう。
 自分で考えていたより、私はずっと怒っていたみたい。
 それを今さながら気が付く。

「もう、ここで暮らしたくはないんじゃないのか?」

 拒絶の意を含む言葉。
 私は、頭を左右に振る。

 ――だって! そんな言葉を聞きたかぁつた訳じゃないから!

「総司さんは、何時も何も話してくれません!」
「何を言って……」
「そもそも私のお父さんに総司さんは本当にお金を貸したんですか!?」
「それは本当だ」

 間髪入れて帰ってくる答え。
 
「それじゃ、その担保は何だったんですか? 3000万円なんて大金を貸せるほどのモノなんですか?」
「それは……」

 そこで初めて彼は言い淀む。
 やっぱり何か理由があった。
 ――でも、それを話すことは出来ない。
 何て身勝手なんだろう。

「総司さん、私だってお金を借りている事になっているんですよね? だったら、理由をキチンと説明してくれないと困ります。債務者として内容を聞く義務があるはずです」
「……ならいい」
「――え?」
「借金はチャラでいい。それで問題ない」
「――ッ!」

 私は両手でスカートを強く握りしめる。

「……ふ」

 怒りの余り、思わず言葉を区切ってしまう。
 でも――、

「ふざけないでっ!」

 続いて私は怒鳴っていた。

「何が! 借金がチャラでいい! ですって! たしかに、お父さんは最低ですけど! 総司さんも同じくらい最低です! 私の私生活を散々、乱しておいて! 何が! 何が! 何が、いまさらいいって! どういうことですか! そんなの私は納得できません! きちんと理由を説明してくれるまで、私は此処を動きません!」

 全部、言い切ったところで私は肩で息をしながら、俯いていたけれど顔を上げると高槻さんが、額に手を当てて私を見てきているところだった。
 それは何かを思案している時のような表情。

「すまなかった。事情を全て説明する訳にはいかなかった」
「それじゃ、説明してくれるという事ですか?」
「ああ……。だが、事情を聴くなら覚悟をしてもらわないと困る。それだけの覚悟がお前にあるか? 話しを聞くなら一蓮托生と言う事になるが問題ないか?」

 その声色は、重苦しく聞いたら戻れないと言った感じを受けるけど……。
 すでに借金があるばかりか住む場所もない私には選択の余地なんてない。
 それに――、このまま引き下がったら負けだと思うし。

「もちろんです! 何も知らないまま蚊帳の外に置かれるのは絶対嫌ですから!」
「分かった。それじゃ上がれ」
  
 靴を脱いだあと、囲炉裏のある部屋へ通される。
 そして彼は畳に座ると私にも座るように促してきた。

「――さて、まず事の発端から端的に説明しようか」

 彼は、重々しく口を開く。

「この神社を守りたいんだ」

 私の考えていた理由とは、まったく違う意味合いの内容が彼の口から語られた。



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