没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第百六十五話 救出劇


 「サージュ、止まって! あれ、人じゃないか? それに……魔物に追われている!」

 チラチラとした火が森から街道へ移動し、フラフラと困惑したように走っているのが見え、その後ろには狼のような獣が三匹追いかけている。

 「俺が先に行く、サージュも降りてくれ」
 <承知した。着地しよう>
 「気を付けてね!」

 サージュが降下を開始を始め、俺がレビテーションで飛ぶと学院長先生も俺と一緒に飛び降りる。

 「私も行こう!」
 「援護は任せてくださいなっと! それ【致命傷クリティカル】をっと!」
 「きゃうん!?」

 バスレー先生が狙いを定めて先頭の狼を狙い、投げナイフが吸い込まれるように先頭の狼の背中に刺さる。
 
 「さすが……! 次は! <ファイヤーボール>!」

 俺はすぐに着地すると、二匹目の狼にファイヤーボールを放ち絶命させる。最後の一匹は学院長先生のアクアバレットが頭を貫通し息絶えた。

 「大丈夫ですか!」
 「ラース君! それに学院長先生も!」
 「ル、ルシエール! 無事だったんだね!」

 俺が振り返ってみると、怯えた表情のルシエールが目を丸くして叫び、そのまま俺に抱き着いて話を続ける。

 「……ここがどこだか分からなくて街道には出たんだけど、どっちに行っていいか困っていたの……きゃ!?」
 「うあああん、良かったああああ! ごめんね、わたしが不甲斐ないばっかりにいいい! というか誘拐犯は?」

 バスレー先生がルシエールに抱きつき鼻水を流しながら歓喜の声をあげ、俺達の疑問を口にする。それと同時にリューゼ達も降りてきた。

 「大丈夫かルシエール!?」
 「良かった……けど、その服は?」
 「ちょっとドキドキしてます……見つかって良かった……」

 リューゼとマキナ、クーデリカがルシエールに駆け寄り声をかけると、ルシエールは感極まって涙を零しながら口を開いた。

 「ぐす……眠らされた後のことは分からないの……気づいたらお姉ちゃんの服を着て森の中で、倒れてたわ……目が覚めた時、さっきの狼に追いかけられて街道に出て来たところだったの……」

 ルシエールなら魔法で倒せそうだけど、動揺している状況で狼の魔物……フォレストウルフ三匹相手に立ちまわるのは難しいと思う。まして夜だしね。それより、俺はさっきから嫌な予感がして仕方がない。

 「近くにルシエラはいねぇのか?」
 
 ティグレ先生の言葉に首を振るルシエールに、学院長先生が口を開いた。それは俺と同じ見解で、イコールまだ危機的状況は続いているということだ。

 「……恐らくだが、どこかのタイミングでルシエラ君と入れ替わったのかもしれない」
 「で、でもお姉ちゃんの髪は私より長いし、すぐばれるんじゃ……!」

 入れ替わったと聞いてルシエールはびくっと体をこわばらせ学院長先生へ叫ぶ。しかし、ティグレ先生が服に着いた髪の毛を手に取り表情を曇らせる。
 
 「ルシエールの服に長い髪がついている、学院長の言うことはまちがいねぇな……! こうしちゃいられねぇ、急ぐぞ!」
 「うむ。どちらにせよ誘拐犯は捕まえねばならん。サージュ君、追撃をお願いできるか? 子供たちはかごに乗ったままで捕まえるのは我等だけで行おう」

 学院長先生がそう言うとティグレ先生とバスレー先生が頷き、サージュが再び飛び立ち、眼下を目を皿のようにして探す。低空で木のてっぺんギリギリを飛んでもらい捜索を続ける。

 「くそ……声を出してえ……」
 「迂闊に呼ぶと、誘拐犯を刺激することになる。見つけたら一気に強襲をかける必要がある」
 「……」
 「ラース君……」

 俺の嶮しい顔を見てマキナが俺の手を握り一言呟く。ルシエラはようやく色々なものを吹っ切ったのにこんなことってない……必ず見つけて助けないと……!
 俺も下を見ながら目を細めていると、パティが指さしながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 「あれ……! あそこに馬車が走っているよ!」
 「本当だ!」

 クーデリカもみつけたらしく声を上げる。俺もクーデリカ達の方へ向かうと、確かに木々の間を抜けていく馬車があった。

 「あれか……!」
 「おい、ラース無茶すんな!? くそ、サージュ! 急いであの馬車の前に回り込め!」
 <任せろ!>

 後ろでリューゼが叫ぶ声が聞こえるが、俺は先にかごから飛び出しレビテーションで背後から一気に詰め寄る。上空の影が俺の頭上を越えていくのが分かった。

 「はあああああ!」
 
 もし違ったら弁償すればいい。俺は剣を抜き、幌を屋根からバッサリ切り裂いた! 直後、ぐったりとしたルシエラが目に入る。

 「な、なんだ!? 子供だと!?」

 三十代くらいの鎧を着た男が屋根の上に居る俺を見て驚愕の表情を浮かべ困惑の声を上げる。俺はその言葉には耳を貸さず、ルシエラを背にするように荷台の中へと踏み入った。

 「見つけたぞ……! ルシエラは返してもらう!」
 「娘の知り合いか? ……まさかドラゴンに乗っていたのはお前……!?」
 「その通りだよ。他にも居るけどね。何のつもりでこんなことをしたのかは分からないけど、とりあえずルシエールとルシエラを怖がらせたことを……後悔させてやる!」
 「ぬかせ! この狭い荷台で何ができるってんだ!」

 揺れる馬車の中で俺に掴みかかろうとする陰気な顔をした細身の男。俺は剣を向けて行動を遮ると、ルシエラを抱え、足元に向かって叫ぶ。

 「<ドラゴニックブレイズ>」
 「「「!?」」
 
 直後、馬車の荷台は爆発して大きく吹き飛んだ。

 「ぐああああ!? な、なんだ!?」

 御者の男は何がなんだか分からない内に地面に投げ出され、荷台に乗っていた三人も爆発の衝撃で地面を転がる。スピードが出ていたから全身を打ち付けられているはずだ。
 俺はすぐに空に逃げていたので問題は無い。ルシエラを背負い地面に降り立つと、男は呻きながらも剣を杖代わりにして立ち上がり斬りかかってきた。

 「ガキがふざけた真似を……!」
 「うるさい! お前達はもう終わりだ!」
 「でけえ口を叩きやがる! もういい、その娘ごと死ね!」

 鋭い斬撃を繰り出す男はベテランであることを物語る。だが、ティグレ先生ほどの強さがある人間はそうはいない。俺は男の剣を避け、相手が返しをする前に手首を掴む。胸当てや腰、足回りに小手はあるが、手首までは覆っていない。

 「は、離せ……!?」
 「いいよ。ほら」
 「あが!?」

 離す直前に手首を捻ってやると、ゴキリと骨が折れる音がし男は剣を取り落とし膝から崩れた。他の三人も立ち上がりそれぞれ武器を抜いて迫ってくる。だが、目の前の光景を信じられないといった感じで口を開く。

 「ガ、ガダル!? ガキ、今何をした!」
 「……別に特別なことはしていないよ。手首を捻っただけさ。まあ骨は折れたみたいだけど?」
 「……!?」

 俺の言葉に戦慄を覚えたのか一歩下がる誘拐犯たち。

 そして――

 「さて、もう逃げられないよ。観念するんだ」
 「ド……ドラ、ゴン……!?」
 <我の友達を傷つけたこと、許すまじ……!>

 サージュが誘拐犯三人の後ろへ着地し、怒りの咆哮を上げ、かごからリューゼや先生達も降りてきた。

 「さて、ウチの生徒をさらったんだ、覚悟はできてんだろうなあ?」
 「死んだ方がマシだと思うがいい」

 正直、俺も見たことが無い顔で、ティグレ先生と学院長先生が誘拐犯へ言い放った。今日は誰も止める者がいない。今までどんな悪行を繰り返してきたかは分からないけど、こいつらは……ここで終わりだ……!

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