没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第百六十一話 計画通り
「――決行は“土の日”、狙いは学院帰りだ」
「それはいいが……陽が落ちてからの方がいいんじゃないか、マルトー?」
ガストの町にある宿。
その一室でブライオン商会で宝石を鑑定した冒険者四人が集まり、話し合いをしていた。
陰気な雰囲気をまとった男が、偵察係のマルトーへ尋ねる。
「その点だが、あの娘は学院が終わるとギルドで依頼をするか家の手伝いを一日交代でやっている。で、水の日である今日はギルドで依頼をやっていた」
マルトーが口の端を上げながら笑うと、短髪の男が口を開く。
「なら土の日もギルドってことだな? 後は行動に移すだけか、俺とタニーでギルドから出て来たところを抑える。マルトーとファーンが町の外で馬車を待機させ、娘を連れて出発だ」
「ガダル、ギルドは仲間の子供や先生らしき人物と一緒に行動している。どうやって連れてくる?」
「なあに、そこは考えてあるさ――」
大きな体をしたガダルという男は、ルシエールをさらうためのいい手段があると嫌らしい笑みを浮かべていた――
◆ ◇ ◆
「明日はいよいよ鍛冶屋だな! 母ちゃんには言ってあるし、このままラースんちに行くぜ」
「うん。夕食もみんなウチで食べられるように母さんに言ってあるから」
「わー、お屋敷の料理食べたいね。でも私は家で食べてからお父さんとお姉ちゃんとラース君の家に行くね」
ルシエールがウチでご飯を食べられないのを残念そうに言い、今日倒した暴れイノシシを引きながらジャックが口を開く。
「最近Aクラスだけで集まらないし、いいかもしれねえな」
「そうね、ウルカやヨグス君、最近他のクラスとの子と遊んだりすることもあるし久しぶりかも?」
マキナがそれに同調しながらてくてくと歩く。
疎遠という訳ではないけど、スキルや考え方に同意できる友達ができればそっちに行くことは珍しいことじゃないしね。
「あ、夕食の前にお風呂を借りてもいい?」
「ああ、いいよ。クーデリカ、最近オシャレになってきたよね」
「本当? ……えへへ、わかる? ギルド部で稼いだお金、服に使ってるんだよ」
「いいと思うよ。冒険者でもオシャレな魔法使いさんもいるしね」
俺がそう言うと、満足気な顔でクーデリカが鼻歌を歌い前を歩く。俺達がだべりながらゆっくり歩いているのを、引率で来てくれているバスレー先生が手を叩いて声をあげた。
「ほらほら、子供達、陽が暮れる前に町へ戻るわよ。夜に出発なら夕食時間を含めて急いだほうがいいでしょ」
「はーい」
「ウルカ達も屋敷に来る予定になってるし、急ぐか」
イノシシを引く手を強め、俺達はギルドへと戻っていく。程なくして到着すると、ルシエールが言う。
「それじゃあ私、先に帰ってお夕食すませてくるね」
「俺が家まで送るよ」
「ううん、ラース君はみんなをお家に案内しないといけないでしょ? まだ暗くないし大丈夫!」
「うーん、物騒だしなあ……」
この前の二人組のようなパターンもあるし、ルシエラが前に言ってたみたいに変な人も注意したい。
「バスレー先生、お願いしていい?」
となると先生にお願いするのが一番いいと思い、俺は声をかける。するとバスレー先生はフッと笑ってから髪をかき上げて言う。
「ええ、ええ、構いませんとも。どうせこの後は学院の用意した教員用の寮に帰るだけ……彼氏もおらず、つまみを買ってひとりお酒を飲むだけですからね! って余計なお世話ですよチクショー!!」
「いや、勝手に暴露してそんなこと言われても……それじゃあ暇な先生にお願いします!」
「丁寧な言葉に刃が混じる!? はいはい、じゃ、行きましょうかルシエールちゃん」
「ありがとうございます!」
バスレー先生はぶつくさ言いながらルシエールを連れてギルドを出ていく。バスレー先生なら騒ぐし、何かあっても周囲の人が助けてくれるだろう。
「それじゃ解体をお願いして報酬を貰おうか」
「おう!」
「元気だね、では――」
暴れイノシシの査定をギブソンさんが行う間、俺達はしばらく待ち時間となった。だけど、この時、やっぱりついて行くべきだったと俺は後悔することになる。
◆ ◇ ◆
「……出て来たぞ」
「ひとりじゃないな」
ガダルとタニーと呼ばれていたふたりがギルドの入り口を見張っており、ルシエールとバスレーが出てくるのを確認していた。
鎧などは身に着けず、普段着で距離を置いてからルシエール達の後を付けていた。
「どうするんだ? あの女も連れて行くか?」
「それもいいが、ひとつ手を打ってある。その時が来たら行くぞ」
ふたりが角を曲がり、少し間をおいて曲がりながら怪しまれないよう和やかな表情で追う。
「わーたしーは無敵の~おーんなー♪ どんな相手も怯みま~す~♪」
「なんですかその歌?」
「わたしのオリジナル歌ですよ! いつかヘレナちゃんに歌ってもらおうかと!?」
「いや、多分ダメだと思いますけど……」
「ええー、いいと思うんですけどね『デストロイヤー女教師』。さいきょ~う」
「あら、バスレー先生、今日も元気ですね」
「こんばんはー!」
にこにこしながら近所のおばさんに挨拶をするバスレー。その後もルシエールの手を繋いだまま謎の歌を歌いながら歩いていく。
「……うるせえなあの女……」
「目立ってんな……」
注目が集まると誘拐がしにくいと、ガダルが渋い顔をしながら呟いていた。
「別の日にするか?」
「いや、もう二週間が経つ。依頼主がこれ以上は待てないと伝言があった。なあに、あれくらいなら大した害にはならんよ」
「しかし、もうすぐ娘の家だぞ」
「まあ焦るな……来たぞ」
ガダルがそう言った瞬間、バスレー達の前に二人組の男が立ちはだかった。バスレーが訝しみながら脇を抜けようとしたところ、進行を塞ぐように男が移動する。
「……何ですかあなた達は?」
「ちょっと道に迷ってな、道を教えて……っててめぇはこの前騒いでいた女!?」
「……え? 誰です、怖い」
「こっちはこの前ぶつかってきた娘じゃねえか」
進行を妨害してきた男たちは先日ルシエールがぶつかり難癖をつけてきた男達だった。バスレーがルシエールを庇うように立った瞬間――
「あ……!? せんせ……むぐ!?」
「え!? ルシエールちゃん! あんた達どこから!?」
「……」
「急げ」
ルシエールの手が離れたと感じ、振り返るとガダルとタニーがルシエールの口に布を当て、麻袋をかぶせているところだった。
本気でまずいと背筋が寒くなったバスレーはすかさず大声で人を呼ぼうとする。陽が暮れ、人通りは無いがルシエールの家も近い。まだ店は開いているはずなので助けは来る、と。
「誰かぁぁ! 誘か――」
「おっと、叫ばれちゃたまらねえ」
「うぐ……!?」
すると、最初に因縁をつけてきた二人組の内ひとりがバスレーの腹を殴り、叫ぶのを止めさせる。バスレーはせき込みながらルシエールが入った麻袋を抱えて去っていくふたり組を追おうと這いずる。
「よし、俺達も逃げるぞ。この町とはこれでおさらばだ」
「ま、ちな、さい……! ぐっ!?」
「先生も大変だな! あばよ!」
最後に倒れているバスレーに蹴りを入れ、ふたりも走り去る。
「<ファイア……ランス>!」
バスレーは倒れこみながら魔法を放つと、男の背中に突き刺さる。
「熱ぃ!?」
「くそ、俺も足に……!? かまうな、逃げるぞ!」
「狙いが……ごほ……定まらなかったです、ね……まずい……ティグレ先生に知らせないと……覚えてやがりなさい……」
バスレーはよろよろと立ち上がり、ブライオン商会へと向かい始めた。
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