没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第百五十三話 儲かる裏にある事情
翌日、俺は朝からクラスのみんなにレオールさんから聞いたことを伝える。もちろんサージュの素材を使った装備の加工についてだ。
「――ってことなんだ、だから貯金がどれくらいあるか確認しておいて」
「オッケーだ! いやあ、でもいよいよ武器が手に入るのか……めちゃくちゃ強そうじゃね? 俺、わくわくしてきた」
「僕、なにを作ってもらおうかな……」
「やっぱりわたしは斧がいいかな? でも防具も欲しいなあ」
昨日のギルド部でリーダーシップを取っていたリューゼがぐっと拳を握りにやりと笑う。森林ウルフや暴れイノシシといった肉と毛皮が獲れる魔物を狩っていたらしい。バスレー先生が引率だったけど、賑やかすぎたとウルカが苦笑いしていた。
「オラは多分大きくなったら冒険に出ないけど、武器にしようかなー」
「僕はショートソードと胸当て、それと鱗をなめしてマントが欲しいかな。学者が調査する時、やっぱりある程度は装備が必要みたいなんだ」
ノーラとヨグスもやっぱり装備という。そこへまだ時間があるからとクラスに残っていたルシエラが口を開く。
「私はダガー二本と爪の先をネックレスにしたいわね。ラース、私はお金あるし行くとき連れて行ってよ」
「お姉ちゃんが行くなら私も行きたいよ! 私は帽子とかブレスレットにして欲しいな。あ、でも包丁にしてもらったら役に立ちそう」
ルシエールも珍しく興奮気味に手を上げてぴょんぴょん跳ねて主張する。まあ、職人って気難しいって言うし、最初はやっぱり俺と兄さんで行こうかな?
「おはよう子供達!」
「おう、ルシエラ。お前向こうの棟だろうが、間に合うのか?」
やいのやいの話していると先生達が入ってきて、ティグレ先生がルシエラに言う。ルシエラがやばいという顔をして、慌ててクラスから出ていく。
「【増幅】で走ればなんとか……! それじゃまたお昼にねー!」
「うん」
「廊下は走るんじゃねぇぞー!」
「ルシエラちゃん慌ただしいねー、ふふ」
「今年で卒業だから、もうちょっと大人しくなると思ったけどあまり変わらないなあ」
ティグレ先生がもっともなことを言って嘆息し、俺達は苦笑しながら席に着く。そんな喧騒の中、大人しいなと思ってマキナを見ると――
「うーん……装備……騎士になって自前の装備……それは許されるのかしら……」
ずっとぶつぶつと何を作るか呟いてた。マキナがドラゴンの装備で入団したら嫉妬されそうだなと思う。ルツィアール国の騎士を見る限りだと階級で支給されるものが変わるみたいだったから、もしかしたら自前の装備は使えないのかもしれない。
まあ、もう少し先の話だし騎士になるかはまだ分からないためとりあえず作っておくのもアリだと思う。
「それじゃ今日はわたしが語学を教えますよ! 26ページを開いてください。えー、今日はこの髭の生涯についての話ですかね。レフレクシオン国の代43代目の王はそれはそれは毛深く、とても悩まされていたそうです」
「どこにも書いてねぇよそんなこと!? 適当言うんじゃねえええ!」
「昨日は結構頑張ってたのに……」
「あれ!? ちょっとした冗談で人気がダダ下がり!?」
相変わらずのバスレー先生がリューゼとクーデリカに呆れられ、笑いが起こる。そんないつもの一日が終わり、今日も無事放課後になる。
「マキナは聖騎士部?」
「うん。私もギルド部に行きたいんだけどね。うーん、辞めてもいいのかしら……? ま、いいか。また明日ね!」
「またね。今日は俺もギルド部かな? みんなは?」
「俺は行くぜー」
リューゼは相変わらず行くらしい。するとジャックは申し訳なさそうな顔で手を合わせる。
「今日は家の手伝いだ、悪い! じゃあな!」
「わたしも今日はお休みするから、また明日!」
ジャックの後を追ってクーデリカもクラスを出ていく。最近はAクラス全員揃うことが少ない代わりに他のクラスの子が混ざるという状態だ。
「私は行くよ?」
「オラはどうしようかなぁ。デダイト君が行くなら行こうかなー?」
「あたしも行きますー!」
「僕も行こうかな? ドラゴン装備のお金、稼がないとね」
ノーラは兄さん次第、というかアイナに会いたいだけだと思うけど、未来の義姉になるし親睦を深めて欲しい気はする。などと思っていると、兄さんがクラスへ来て俺達に言う。
「僕達は屋敷に帰るよ。アイナと遊んであげようかなと思ってるんだ。サージュばっかりに世話してもらっていたら兄失格だし、ラースばっかりに懐いていてずるいし」
「オラもお姉ちゃんしたいからまたねー!」
結局、兄さんとノーラは家に帰り、リューゼ、ルシエール、パティ、ヨグス、ルシエラとイーファで依頼を受けることになった。引率はバスレー先生が来てくることになり、学院を出てギルドへ向かう。
「ギルド部も人が増えたけど、意外と一緒に行ける人が少ないよね。逆にイーファはよく毎日行くよね」
「そりゃミズキさんに会うためだからな! マッシュのやつも王都からたまに帰ってくるし、油断できないんだって!」
相変わらずミズキさんにお熱なイーファは俺に熱弁をふるう。そこまで人を好きになれるのは凄い――
「あの尻と太ももは俺の理想そのもの! 絶対うんと言わせて見せる……!」
――と思ったけどそうでもなかったね。張り切るイーファをよそに、ヨグスが言う。
「あんまり人数が多くても報酬が減るからかもしれないけどね。パーティを分けていくのもいいかも? そういえば最近、おばあちゃんの依頼が来てないけど何かあったのかな?」
「あ、そういえばそうだね。今度挨拶しに行こうよ、お菓子とかもらってたからお土産もって……きゃ!?」
「危ない!」
ヨグスの言葉に名案だと、ルシエールが振り返った瞬間、角から出て来た男にぶつかり、ルシエールがバランスを崩す。それを抱きとめていると、男から怒声が浴びせられた。
「気を付けろよガキ! 足を踏みやがって……」
「す、すみません……」
「誠意を見せろってんだ、その制服、オブリヴィオン学院の生徒だろう? なら金を持ってるんじゃないか? ああん?」
俺達に顔を近づけて意地汚いことを言う男を睨みつけながらルシエールを後ろにして返す。それにリューゼものっかってくる。
「謝っているんだからいいだろ? 子共からお金をむしり取ろうだなんて、それでも大人……いや、男かい?」
「そうだぜおっさん。というかルシエールみたいな軽い子に足を踏まれて怪我すんのか? 鍛え方が足りねぇんじゃねぇか?」
「うるせえ! ガキだろうが悪いことをしたらそれなりのもんがいるってことを教えてやるってんだ、いいから有り金だせ」
「こいつ……!」
俺が殴りかかろうとしたところで、
「待ちなさい! チンピラごときにわたしの大切な生徒を傷つけさせませんよ!」
「なんだぁ姉ちゃん? 先生か? へへ……ならあんたが相手をってこいつらの友達じゃねぇのか……?」
「ああ、先生にしちゃ、なあ?」
「カチーン! よくもわたしのことをへちゃむくれのちっぱいちびっ子ボディなどと抜かしてくれましたね!?」
そこまでは言ってない。
けど、バスレー先生が俺達を守るため男達との間に出てくれた。こういう時は頼りになるなあ。
「誰かー! 襲われそうです! 助けてくださいぃぃぃぃ!」
そう言ってバスレー先生は大声で叫び、人を呼び始める。直後、通りで遠巻きに見ていた人達もなんだと集まってくる。その様子に男たちはまずいと思ったのか俺達から距離を取って吐き捨てるように言う。
「チッ、うるせえ女だ。行くぞ」
「……ああ」
「……?」
「あーああー! たーすけーてー!」
二人組の男はすんなり引き下がりまだ叫ぶバスレー先生……ではなく、俺とルシエールを一瞥して逃げるように消えていった。
するとこちらに集まってきていた中でひとりのおばさんが声をかけてきてくれた。
「大丈夫だったかい? 最近景気がいいけど、ああいう連中も町に来るようになったのは頂けないねえ……」
「最近多いのよね、ああいう馬鹿」
ルシエラも男たちが去った方を見ながら毒づく。
聞けば珍しいものが入荷しているものが口コミで広がり、この町に商品を買い求めに来る人が増えているらしい。
ブライオン商会は潤い、宿も料理屋、商店街も儲かっているけどああいうチンピラみたいな手合いも少なくないのだとか。
「父さんに警備強化を掛け合ってみるよ。町に変なのがいるのは困るしね」
「ハウゼンさんのところの冒険者も色々やってくれているようだけどね。それじゃ気を付けるんだよ」
おばさんは笑いながら立ち去り、確かに弊害もあるよなと妙に納得してしまう。
「大丈夫、ルシエール?」
「う、うん、ちょっと怖かったけどラース君がいてくれたから良かったよ」
「そ、そう? ありがとう」
「私がお礼を言うんじゃないの? ふふ、おかしなラース君」
ルシエールがころころと笑い、俺はドキッとする。
「ま、まったく今から依頼だっていうのに迷惑な人達だったね、行こうか」
「うん!」
「誰かぁぁぁぁ!」
「バスレー先生もう居ないから早く行こうよ」
俺達はギルドへ向かい、依頼を済ませる。それにしても何であいつら、俺達をじっと見ていたんだろう? あとでやり返しに来るつもりかな? ……だったらその時は容赦はしないけど。
と、思っていたもの、それから次の休みまで特に何もなく過ごした。
明日と明後日は休み。
前日である今日の夜、俺と兄さんはサージュと共にオーファ国を目指す――
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