没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第百四十八話 取り巻く環境に感謝を


 「こんばんは、ラース君」
 「おう、お邪魔するぜ。ベルナと一緒にお前の母ちゃんから誘われてな。お祝いに来させてもらったぜ。ほら、ケーキとジュースだ」
 「あ、うん……ありがとうございます。で――」

 来客はティグレ先生とベルナ先生で、Aクラスの担任二人にも母さんは声をかけていたらしい。それはいいんだけど……

 「こんばんはー! Eクラスの副担任バスレーでーす!」

 なんか、余計なのが居た。

 「いやいやいや、バスレー先生は自分で今言ったけどEクラスでしょ!? なんでここに来るのさ!」
 
 するとバスレー先生がハンカチを手にしくしくと泣きながら話し出す。

 「そりゃもう聞くも涙、語るも涙の話ですよ」
 「ロクなことじゃない気がするけど……一応聞くよ?」
 「ありがとうございます坊ちゃま。わたしどうも学院を追い出されそうなんですよね……Eクラスのみんなも気づいたら誰も居なくなってたし……だからわたし決めたんです!」
 「……何を?」
 
 俺が尋ねると、バスレー先生がふふんと自信ありげに口を開く。

 「このお屋敷でメイドとして雇ってもらおうと! 三食昼寝付き! あわよくば玉の輿! どうですかね!? わたし結構役に立ちますよ! 囮とか!」
 「何に使うんだよ!? 要らないよ、それに俺が決められることじゃないし。今からパーティなんだ、悪いけどお引き取りをお願いします」
 「ノウ!? いいじゃありませんか、お坊ちゃま。わたしが色々教えてあげますよ……? ふふふ……」

 そう言ってしなを作るバスレー先生。美人だけど性格がアレなので絶対に嫌だ。ルシエラとならと言われれば迷わずルシエラを選ぶだろう。何て言ってやろうかと思っていると、先に動いた人物が居た。

 「……うふふ」
 「十歳のラース様になんてことを言っているんですかね、この人は……?」
 「ひい!? どっかで見た光景がフィードバック!?」

 ベルナ先生が背後からバスレー先生の両肩に手を置き、ニーナがアイアンクローの体勢に入る。バスレー先生は首を振って抵抗するが、ベルナ先生の手は緩まない。
 料理のいい匂いが漂って来たので、賑やかだしバスレー先生も入れて始めるかと思っていたところで、玄関から声がかかった。

 「バスレー先生! ここにいるのは分かっておりますのよ! 早く出てきなさい!」
 「この声はオネットちゃんですねぇ?」
 「え、ここに来る前にEクラスに何かしてきたの?」
 「絶望のプレリュード!? ……って、そんなことはしていませんよ? だいたい誰も居なかったから、先輩の頼みを断りにくいベルナ先生についてきたんですから」
 
 嫌なことをズバズバ言うなぁ。
 裏表がないという意味ではとても重宝する人だとは思うけどやっぱり関わりたくない。とりあえずオネットの声が響くので俺は玄関を開ける。

 「やあ、こんばんは。バスレー先生はここに居るよ」
 「あらラースさん、こんばんは。ご子息自らお出迎えとは珍しいですわね」
 「ちょうど玄関に居たからね。どうぞ」

 オネットを招き入れると、バスレー先生を見て怒声を上げた。

 「探しましたわよ! Eクラスでパーティをするため、宿のレストランを取っていると朝言ったじゃありませんか!」
 「え? 全然覚えてないんだけど……っていうか行っていいの!」
 「当たり前です! あなたはEクラスの副担任ですよ? いいに決まっているじゃありませんか」
 「オネットちゃん……!」

 オネットがにっこりと微笑み手を差し出すと、バスレー先生がその手を取り瞳を潤ませる。

 「すみません、わたし……行きます!」
 「おう、さっさと行けよ」
 「こら、ティグレ、ダメよぅ。良かったですねぇ」
 「ええ! それでは!」
 「さ、急ぎますわよ」

 オネットに手を引かれ玄関を出ていき扉が閉じられる。

 「ふう、良かった、引き取り先があって……」
 「さ、それじゃみんなを食堂に呼びましょうか」

 ニーナが踵を返してリビングへ向かい、俺達もベルナ先生を案内し奥へ行こうと歩き出す。

 (あ! みんなも迎えに来てくれたんですね! もう、先生のこと大好きなんですからー!)
 (良く見つけてくれてくれたオネット! 囲めぇぇぇ!)
 (え!? なんですかそのロープは!? チィ、謀りましたね!)
 (いいえ、レストランへは行きますわ……ただし、わたくしたちのお仕置きを受けてからね!)
 (よくも罵倒してくれやがったな!)
 (ダークカメムシの恨みを思い知れ!)
 (それは逆恨みでしょ!?)
 (先生に挑むとは愚か……あああああああ!?)

 「……」

 近所迷惑にならなければいいなと思いながら俺はリビングへみんなを呼びに行く。だいぶ疲れているため、だらっとしてソファや床に寝転がったりしていた。

 「そろそろ食堂へ行こうか、夕食ができるみたいだよ、ベルナ先生とティグレ先生も来たよ」
 「あ、本当? やっぱりクラスみんなでお祝いしたかったから嬉しいね。お姉ちゃん立って」
 「自分で起きれるわよ!?」
 
 ルシエールが笑いながら立ち上がり、ぐだっとしているルシエラを起こす。

 「お! 来たか! やべぇ、もう限界だぜ!」
 「あ、それケーキ? わーい!」
 「ご飯食べた後にね、ノーラ」

 Aクラス全員と、兄さん、ルシエラという大所帯でぞろぞろと食堂へと向かう。メイドさんやお母さん達がせわしなく動いている中、父親たちはもう椅子に座りお酒を前にして『早く』と言わんばかりにそわそわして待っていた。

 「何か手伝おうか?」
 「いいわよ、多分役に立たないでしょ?」
 「う、うむ……」

 中にはジャックの親父さんのように手伝おうとするお父さんも居たけど、いつもしないんだろう、役立たずの称号をもらっていた。

 「うわあ!」
 「これは凄い……」

 ウルカとヨグスが並べられた料理に目を輝かせる。ステーキやビーフシチュー、サラダに魚介のスープ、パスタやふかふかのパンにピラフのような料理にから揚げなどなど、さらに普段俺でも食べないような珍しい料理も所狭しと並べられていた。ある程度の料理以外は、他のテーブルにあり、頼めばメイドが持ってきてくれるようになっていた。

 「いつもより豪華な食事が食べられるわねヨグス!」
 「や、やめてよ母さん」

 「クーちゃんもいっぱい食べて大きくならないとね」
 「うん!」

 「これは凄いねラース……」
 「屋敷に戻ってきた時もここまでのことはしなかったからねえ……というか兄さんとルシエラはみんなとお祝いしなくて良かったの? 一位だったのに」
 「うーん、実は今日はみんなが気を使ってくれて、今日は一年生であるラース達のお祝いを優先しなよっ言ってくれて今日はやらないんだ。だから明日することにしているんだ」
 「ええ!? なんか悪いなあ……」
 「僕達はもう二年間先にやってるからね。こういうのは初めての一年生、ラース達がいいと思うよ?」

 兄さんがにこにこしながら言う。
 多分兄さんが促したんだろうな、というかノーラも居るし、一緒にお祝いしたかったのもあると思う。そんな会話の中、全員が席に着き飲み物がそれぞれ手に渡る。

 そして――

 「それじゃ、代表してラースが一言なんか言ってくれよ」
 「え? 俺? いや、みんなで頑張ったし、父さんとかで――」
 「ううん、Aクラスのみんなの練習に付き合ってくれたりしたのはやっぱりラース君だから、お願いしたいかな?」

 俺が困惑していると、リューゼが片目をつぶり、口元に笑みを浮かべながら俺へ言う。

 「そうだぜラース。お前は俺達なんかより能力も高いし、まあ、気にしているかもしれねぇから言い方は悪いけど領主の息子だ。なのに偉そうな態度も取らないで俺達のことばっかり気にかけてくれる。俺達ぁそんなお前が好きだぜ? だから頼むよ」
 「だな! こんなパーティをしてくれる友達だし」

 リューゼがイシシと笑い、ジャックがちゃっかりしたことを言う。俺は不意に涙が出そうになるが、みんなの前で泣けないとぐっとこらえて、俺は笑う。

 「ありがとうリューゼ、それにみんな! でもやっぱり対抗戦はみんなのおかげで勝てたと俺は思う。これからもみんな仲良く、協力して頑張ろう! Aクラス一位を祝して乾杯!」

 「「「「かんぱーい!!!」」」

 「よっしゃ酒だ、母ちゃんもたまには飲め!」
 「あら、いいのかしらね……」
 「マキナちゃんのお母さん、こっちの蒸し鶏、美味しいですよ」
 「本当ね、どうやって作るのかしら」

 「ローエンさんこっちも……」
 「おっと、ははは、ありがとうございます」

 乾杯の音頭が終わると、父親はお酒とつまみ、母親たちは料理の品評に入り、一気の場が騒然となる。

 「しかし、ヨグスも明るくなったよなぁ。このクラスのみんなは本当に信頼しているようだ」
 「そうだね。僕は多分みんなより劣る部分が多いんだ。剣にしても魔法にしても。だけど、それを笑ったりしないし、どうすればいいか一緒に考えてくれる最高のクラスメイトだよ」
 「はっ、言うねえ息子!」

 「んまっ!? ルシエール、これ、この貝のバター焼きめちゃくちゃ美味しいわよ、食べて食べて!」
 「そ、そんなに食べられないよ……」

 「デダイト君、パンだよー」
 「ありがとうノーラ。はい、エビの姿焼き」
 「わー!」

 「ラース君にこれをあげよう……」
 「マキナちゃん抜けがけはダメだよ……」

 「ティグレ先生の持ってきたジュースも美味しいね!」
 「そりゃベルナが作ったやつだ、ミックスジュースらしいぜ? あ、すんません」
 「うふふ、食後のケーキは食べられるかしらねぇ?」

 「この香辛料がかかったチキンはアタシのお母さんの故郷”ルシード国”の料理なのよう」
 「へー、ちょっと辛いけど美味……親父、取るんじゃねぇよ!?」
 「ジャック、これは酒のつまみだ。まだまだだな」
 「くそ……魚屋のくせに【加速】のスキルなんてもちやがって……!」

 と、あちこちで会話が繰り広げられる。普段親子でどういう風にやっているのかは知らないのでこういうのは新鮮だなと俺は頬が緩む。

 幸せだ、俺はこの世界に来て本当に良かった。心からそう思う。両親も、兄さんも前と全然違うし、友達もみんないい奴ばかり。願わくばこのままで、そう思わずにはいられなかった。

 「やあ、ラース君」
 「あ、レオールさん、食べてますか?」

 そんな俺に話しかけて来たのは商人のレオールさんだった。優しそうな微笑みを見せながら俺のジュースにグラスをチン、とぶつけて口を開く。

 「まずは一位、おめでとう。正直、傍目で見ていても見事だったよ」
 「ありがとうございます。兄さんがいますからね、練習はおろそかにしなかった結果ですよ」
 「謙虚だね。私は体があまり丈夫でなくてね【猛き意思】というスキルをもらいながら戦いはまるっきりできないから羨ましいよ」
 「へえ、かっこいいスキル名ですけどどういう効果が?」
 「ああ、それは後から話させて欲しい。私はあのヘレナちゃんが来ていた衣装、あれについて交渉をしたいと思っているだけど」
 「アイドルの?」
 「アイドル? よく分からないけど――」

 衣装に何の用があるんだろうと、思っていると母さんが居る方向がざわつき、騒然となった。

 「うっ……!」
 「奥様、どうしました!?」
 「に、ニーナ……洗面台に……連れて、行って……」
 「わ、分かりました!」
 「マリアンヌ、どうしたんだ!?」

 母さんが青い顔をして口に手を当ててニーナと共に出ていく。俺達は呆然としてその様子を見た後、俺はハッとして母さんの後を追おうと席を立つ。

 「まさか毒……!?」
 
 いや、でもそんなことをする必要はないはず……なら一体……
 冷や汗が噴き出し食堂の扉の前に来た時、逆に開け放たれた。そこにはニーナだけが立ち、微妙な表情で俺達を見る。

 「に、ニーナ母さんは……?」
 「えっと、その、奥様は……」

 歯切れが悪いニーナが顔を赤くしながら意を決して頷き、ひとこと、言う。

 「……奥様は、おめでたでございます……」
 「おめでた……おめでた!?」

 俺が反芻すると、母親たちがわっと声を上げる。

 「ええ!? 三人目ですか! これはおめでたいですわ!」
 「いいわねえ」
 「え? え? 本当に……?」

 おめでた、ということは母さんは妊娠したということだ。ってことは……

 「「弟か妹ができるんだ!?」」

 俺と兄さんが同時に叫んだ瞬間である。

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