【書籍化決定】前世で両親に愛されなかった俺、転生先で溺愛されましたが実家は没落貴族でした! ~ハズレと評されたスキル『超器用貧乏』で全てを覆し大賢者と呼ばれるまで~
第百二十八話 ダンスを越えたダンス
[魔物の名前を答えるだけ……なのに、体力を使う白熱した競技でしたねぇ♪ それではぁ続いてダンス競技に移りますよ! この競技は一人ずつ前に出て披露してもらい、審査員の先生方がポイントを入れる仕組みです。先生は別の学年の先生が審査するので、自クラスに入れる、みたいなこともできませんのでご安心ください♪」
というわけでダンス競技の始まりだ。相変わらずのくじ引きで、Aクラスはラストだ。衣装はまだ着ていない。見た目のインパクトも必要だからテントの奥で着替えていざダンスをするその時まで誰も見ることは出来ない。
それはさておき、他のクラスだけど、流石に妨害もなく、音楽も静かなものばかりなので先ほどまでの喧騒が嘘のように優雅な時間が流れる。
「あ、Cクラスのアンシアの番か」
「知ってんのか?」
「ちょっと練習の時に一回だけ会ったんだよ、さて――」
――あの時のダンスは見事だった。ダンス系のスキルでも持っているんじゃないかと思えるほどに。でも、恐らく彼女はダンスが好きなんだろう。芸術は好きでないと続かないし、心を震わせるものはできないのだと聞いたことがある。俺も昔は絵などを描いたことがあったけど続かなかったことを思い出す。
「ふわあ、凄いねー」
ノーラが口をあんぐり開けて見入っていると、他のふたりも口を開く。
「気持ちよさそうに踊るね、同じ歳なのにキレイでいいなあ……」
「クーちゃんにはクーちゃんの良さがあるから気にしなくていいと思よ? あ、終わったね……見た感じCクラスが一番みたい」
ルシエールがクーデリカに声をかけつつ、Cクラス、アンシアのダンスが終わるのを見届けて感想を言う。確かにあの時よりもキレが良い……と思う。
「そうね、現時点ならアンシアが優勢……だけど最後を飾るのはアタシよ♪」
そこへラストを飾る我等がAクラスのヘレナと、
「ね、ねえ、やっぱり止めない……私これはちょっと……」
「何言ってるのよう、折角練習したんだから行くわよ」
お供でマキナが出て来た。
もちろん衣装も着込んでいて、俺が覚えている限りのアイドルの服。白を基本にし、赤の縁取りと刺繍、スカートはチェック柄で、膝より少し上と短いけど中にキュロットを履いている。もちろんキュロットはこの世界に無いので、俺のオリジナルということになる。
「わ! めちゃくちゃ可愛いー!! ラース君、オラのは無いの!?」
「本当……わ、私も着たいかも!」
大人しめなルシエールですら若干興奮気味で、顔の前で手を合わせて目を輝かせていた。マキナはメインではなく、バックダンサーみたいなもので、ポンポンを持たせている。素材は鞭にする皮を上手いこと裂いて束ねて作っている。
[Cクラス、四十七点が出ましたぁ! 文句なしの現在一位です! 美しい舞いが目を安らいでくれましたねぇ! さあ、最後はAクラス、どんな演技が出るでしょうかぁ]
ベルナ先生ひとりの実況はとてもスムーズに進み、相手を褒めることを忘れない。ヘレナは満を持して、フィールドに立つ。
「おお……なんだあの衣装は?」
「見たことが無い」
「しかし見事な衣装だぞ」
ざわめく観客席にヘレナと俺は笑みを浮かべる。学院の服に近いけど、もっと「衣装」って感じにしている。
「ラース様が考案して、わたしが作ったんですよー! ふっふ、伊達に【裁縫】のスキルを持っていませんからね!」
「おお、流石ニーナさんだ!」
「ほう、あれは興味深い……」
父さん達の取引相手のレオールさんと、裁縫を手伝ってくれたニーナとハウゼンさんがギリギリまで寄ってきてはしゃいでいた。ニーナはノリノリで作ってくれたので、俺としても大変助かったことは言うまでもない。
[事前に聞いていましたけど、どうやらAクラスは本当にふたりで出てきましたねぇ。どうするのでしょうか、期待が高まります!]
「ふん、私に勝てないからって新しいことを始めるつもり?」
演奏する人達にも注文をしてそれっぽい曲を作ってもらった。微妙に怪しいけど、耳コピなんてできないので勘弁してほしい。
[それでは演技をお願いしますねぇ!]
ベルナ先生が合図をし、すまし顔のヘレナと顔を真っ赤にしているマキナが一礼をすると、ポップな音楽が流れ始める。
「なんか陽気な感じだなぁ……」
そして――
「憂鬱な雨の日は~気持ちも下がっちゃう、こんな日に限って~好きなあの人にかっこ悪いところを見られちゃうの~♪」
「ついてないわ~♪」
華麗なステップで踊るヘレナに、バックでポンポンを振りながらマキナの合いの手が重なる。歌詞は俺の考えを元に、ニーナとヘレナ、それとマキナで考えた。
「何、あのダンス! カッコいいじゃない!」
「さっきまでのしっとりとした曲もいいけど、なんだか気持ちが高揚するねえ」
「衣装もオシャレよ、どこで買えるのかしら? 一着欲しいですわ!」
最後のセリフはお嬢様のオセットで、彼女の目から見ても欲しいと思わせる逸品だと俺も誇らしい。マイクに見立てた棒はメガホンの魔法を込めているので声の通りも完璧。
「ヘレナって名前なんだって? いいぞーヘレナちゃーん!」
「かわいいー!」
「黒髪の子も恥ずかしがってるけど、可愛いぞー!」
「「「はい! はい! はい!」」」
いつの間にか観客席の人達が立ち上がって手拍子が始まり、演奏者もそれを受けてかノッてきた! やがて、あの練習の時より万倍もの笑顔で歌って踊るヘレナの演技が終わる。
「――だから、あなたの隣に入れて欲しいの~♪」
「雨はまだ止まないで~♪」
演奏と歌が終わり、スッとおじぎをするヘレナとマキナ。一瞬シン……となるが、すぐに割れんばかりの拍手が鳴り響いた。
「良かったよー!」
「また聞きたいわ!」
[素晴らしい歌と踊りでしたねぇ! 採点は……文句なしの全員十点! Aクラス、先ほどの魔物名前当て競技を挽回しました!]
ベルナ先生も少し声が高いので、相当嬉しいのだと思う。
「ヘレナー! 凄かったわ! いつものダンスよりとても良かったわよ!」
「お母さん! へへ♪」
見れば、観客席から褐色の肌をした女性……母親がヘレナを褒めちぎっていた。ヘレナもブイサインで答え、ニカっと笑う。
「くうぅぅぅ……なによあれ……! めちゃくちゃ楽しそうじゃない……!」
後ろではアンシアが衣装の帯を噛みながら悔しさと羨ましさが入り混じった表情でヘレナを見ていた。観客席の人達に手を振りながら、ヘレナとマキナが戻ってくる。
「勝ったわよう、ラース♪」
「や、やったわよ! うう……明日から顔を隠して町を歩かないと……」
満面の笑みで戻ってくるヘレナと、顔を抑えて頭を振るふたりに俺は苦笑しながら握手をするのだった。
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