没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第百二話 対抗戦に向けて


 「よーく考えろよ? 途中変更はできないし、当日休んでも代理は無し。体調管理維持も必要だからな。冒険者になるやつは特に覚えておけよ?」

 と、ティグレ先生があくびをしながら椅子に背を預けて言う。
 この一年、領主騒ぎやベルナ先生の誘拐事件と忙しいくて厄介なことが多々あったけど、ようやくクラス対抗戦という楽しい行事に目を向けることができる。

 「わたしは初めて見るけどぉ、種目が色々あるのねえ?」
 「クラスは必ず十人なんだが、これだと必ず複数種目に出場する必要があるだろ? 連続で出場すると疲れるからその辺を考えたり……というメニューも含まれてるんだぜ」
 
 ティグレ先生の解説にベルナ先生が感心する。運動会もそうだけど、先生たちは良く考えているなと俺は感心する。さて、その種目だけど――

 ・戦闘競技(魔法無し)
 ・パン食い競争
 ・戦闘競技(魔法のみ)
 ・投擲競技
 ・鑑定/探索競技
 ・乗馬競争
 ・ロープ引き競技
 ・計算早解き競技
 ・妨害徒競走
 ・魔物名前当て競技
 ・ダンス競技
 ・お姫様抱っこ競技
 ・詰め放題競技
 ・一万ベリル競技
 ・戦闘競技(無差別)

 こういうラインナップだった。
 対抗戦は運動会じゃないので計算なんかが混じっている。こうやってみると、俺達が得意な種目はあるけどそうでもないものもちらほらある。
 投擲と探索、魔物の名前当て、計算の早解きは俺もさっぱりで、乗馬なんかやったこともない。ちなみに詰め放題競技は見ていて熱かった競技のひとつだ。
 去年の兄さんを思い出しながら種目を見ていると、その中でひときわ気になるのが一万ベリル競技。

 「一万ベリル競技ってなんだ……? 去年兄さんの応援に来た時は無かったんだけど」
 「お金で殴り合うのか?」

 俺が紙を見て呟くとリューゼが絶対違うであろう答えを言ってくる。そこでティグレ先生が説明を忘れてたと椅子から立ち喋る。

 「あー、今回加わった新しいやつだ。もっと運動できないやつでもできる競技を作れと貴族のババ……お母さん連中が口を揃えてなあ。だからちょっと面白そうなやつを考えてみたんだ。Cクラスの担任の案だな」

 内容はそんなに難しいものではなく、フィールドに用意された商品を一万ベリルに近い分手に取ってゴールに持っていくだけ。

 「これ、競技になるのかなあ。ノーラちゃん、わかる?」
 「んー。お買い物には孤児院のお使いで行くけど、計算ができたら簡単じゃないかなー?」

 ノーラがクーデリカに答えていると、ベルナ先生が紙をよく見てと言い、続ける。

 「この競技、商品に値段が書いていないみたいよぅ? 一応、ルシエールちゃんのお家の値段を参考にしているみたい。値段は暗記すればいいんだけど、結構難しいわねえ。品物は当日まで分からない上に、高額商品もあるわぁ。紙袋が無いから小物ばかりを集めても持っていくのに手間がかかる……一万ベリルを越えたらアウト。少なかったら一番一万ベリルに近い子が勝ちみたい」
 
 結構しっかりした競技だった。となると、暗記と計算は必須。さらに品物の価値が分かると尚いい。そうなるとウチからは

 「なら、ジャックかルシエール、ヨグスもありかな」
 「私?」
 「お、ラースいいとこに目をつけるじゃん」

 困惑するルシエールにジャックが口笛を吹いて言う。そこへヨグスが口を開く。

 「僕は恐らく【鑑定】があるから分かると思ったんだろう? ルシエールは商会の娘でお手伝いもしている。だけどジャックはどうして?」
 「そうね、アタシも気になったわ。あ、ダンス競技は任せてね♪」
 「ダンスはヘレナ以上の適任は居ないよ。で、ジャックは、魚屋だから商店街に行くのに苦労しないんだよ」
 「ああ、そういうことか。確かに俺んちやウルカの家は住宅街だから母ちゃんが買い物に行ったあとは俺だけで行くことはねえな」

 リューゼが納得し、ジャックが得意げになる。一万ベリルはともかく、十五種目中、最低でも二種目にはエントリーしなければならない。さらに戦闘競技は五人選ぶ。
 開催は一か月後で、競技を決めたらそれに向かって練習をするのだ。授業が午前中で終わり、午後は練習に当てられる。先生に提出し、学院長先生まで渡ればもう変更はできないので慎重に選ぶ必要があった。
 そこでルシエールが俺に尋ねてくる。

 「ラース君はやっぱり戦闘競技、かな?」
 「そうだね。三種類あるけど、全部出ようかなって。ルシエールは?」
 「私は戦いが苦手だから、一万ベリルと詰め放題がいいかなあ」

 商会の娘なら妥当な線だ。運動が苦手ではないけど、走る系の競技はあまり似合わないなと思う。俺は戦闘競技三種類にエントリーした。

 「点数制みたいだから、みんなで協力すれば多分勝てるよ。マキナとクーデリカは魔法無しの戦闘競技に出るんだね? よろしく!」
 「うん! わ、わたし頑張るよ!」
 「アンデッドに比べたら全然楽勝よね」

 他にはノーラの乗馬競技や、ウルカの投擲。ヨグスの魔物当て競技など、なんとなくいけそうなやつを選んでいく。リューゼも色々考えていたけど、諦めたのか椅子に背を預けて俺に言う。

 「俺も戦闘競技三種類だな。ラースと同じでいいや」
 「魔法は大丈夫かい?」
 「ベルナ先生が来てからお前ほどじゃねぇけど使えるようになったから、試してみるつもりだぜ。負けるつもりはねぇけどな!」

 リューゼがにやりと笑って火を指先に出す。
 お、制御できるようになってるんだ。さすがベルナ先生だと思いながら、あれやこれやと競技について話し合う。とりあえず五人選ばないといけない戦闘競技各種だけは先に決め、メンバーが決まった。

 ・戦闘競技(魔法無し)
 俺、リューゼ、マキナ、クーデリカ、ジャック

 ・戦闘競技(魔法のみ)
 俺、リューゼ、ノーラ、ヘレナ、ヨグス

 ・戦闘競技(無差別)
 俺、リューゼ、マキナ、ウルカ、クーデリカ

 これで行く。
 魔法無しなら文句なしでクーデリカが強い。ジャックは魔法はそこそこで武器を使った戦闘の方が得意で、魔法ならヨグスの方が上手いという理由がある。
 魔法戦は小さいころからベルナ先生に師事していたノーラがエントリー。兄さんは怒りそうだけど、志願したのはノーラなので俺は悪くない。先日判明した天然なところが自由な魔法発動に一役買っている。指五本から魔法を出すのを編み出した功績は何気に大きい気がする。
 最後に無差別だけど【霊術】で試したいことがあると、ウルカが珍しくにやりと笑ったので決めた。ルツィアール国へ行ってから自信がついたみたいで、積極的に嫌いだったスキルを使っている気がする。

 「よし、それじゃ他のも決めてしまおうか」
 「「「「おー!」」」

 まあ、ウチのクラスってなんだかんだで上手くやるし、楽勝だと思っていたんだけど、他のクラスも癖が強いんだこれが……

「没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「文学」の人気作品

コメント

コメントを書く