没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第八十四話 帰還へ向けて
――騎士達も回復し、暗くなりつつある空を見ながら俺は一言呟く。
「これで一件落着かな?」
すると、グレース様が俺の横でサージュと兄さんたちを見ながら口を開く。
「そうですわね。これでドラゴン騒動は終わりですし帰還しましょう。とりあえずあの瓦礫を何とかしてもらわないといけませんわ」
「あ、そうですね。サージュ、悪いんだけど瓦礫を撤去してもらえないかな?
<む、そうかもう暗くなってしまったな。我の背に乗せても良いのだが、流石にこの人数は厳しいか。少し離れてくれ>
サージュがそう言ってズシンズシンと瓦礫の前にやってくると、ひとつずつ大岩をどけて通路を確保してくれる。拳で壊すのかと思ったけど、丁寧な仕事だ。
「ありがとー!」
<なに、友達の頼みだ気にすることは無い。ではノーラ達は背に乗ってくれ、騎士達は自力で下山できるだろう>
「お、マジで! すげぇな、同世代でドラゴンの背中なんて乗ったことあるやついねぇぜ? 自慢しまくれるな!」
「……余計なトラブルが起きそうだけど、自慢できるのはいいわね。クーデリカ達も紹介したいわね。驚きそうだけど」
<そういえばマキナよ、手は大丈夫か? 子供相手に本気で放ってはいないが、アレを殴りつけるのは流石に痛かったろう>
マキナがルシエール達が驚く顔を目に浮かべて心底嬉しそうに笑ってると、サージュがぬっと顔をおろし心配そうな口調で尋ねる。
「あ、ラース君が癒してくれたから大丈夫よ!」
<……一応、飲んでおけ>
「あ、いいの?」
「オラも飲むー」
「じゃあ僕のいいかな?」
俺達も血を分けてもらい、一滴ずつ飲み干すとなんとなく力が湧いてくる気がする。そして母さんとベルナ先生に、俺達がサージュの背に乗り、ティグレ先生を待つ。
「……申し訳ない、他国の者に迷惑をかけてしまったようで……」
「気にすんなって。俺達は俺達の用事を済ませただけだ。それに俺も何もしてねぇ。ドラゴンと友達になって戦意を失くさせた子供たちに言うこった」
「うむ。……しかし、みっともないところを子供たちに見せてしまったなあ。騎士にがっかりしなければいいけど」
「はは、ドラゴンは魔法障壁を崩すための集中的な火力が絶対に必要だ。剣や槍でもいけるが、魔法の方が効率がいい。見ていたか分からないが、あそこにいる兄弟みたいに魔法で対抗するのがベターだな」
ベストではないけどベターって感じか。……ティグレ先生は戦ったことがありそうな口調だけど、どうなんだろう? あとで聞いてみようかな? そこへジャックが団長のヴェイグさんに手を振る。
「騎士団長さん! 俺はがっかりしていないぜ! 友達になったけど、サージュに立ち向かうってだけでも凄いよ!」
マキナもそれに乗じて笑顔で叫ぶ。
「そうですよ! 私、騎士になるため頑張っているんですけど、皆さんみたいに強くなりたいです!」
シーナ様がその様子をみて微笑み、ヴェイグさんの肩に手を乗せる。
「ふふ、良かったですねあなた?」
「いやはや、将来が楽しみな子供たちだ。では、我らは下山させてもらう。後程、城でお会いしましょう!」
「必ず来るのですよ! ドラゴンでそのまま帰ることのないように!」
グレース様が拳を突き上げて何度もそう言い、最後の騎士たちが出ていくまで見送った後、サージュが羽を動かし、少しずつ上昇していく。
「わあー、サージュすごいねー! あ、でもラース君は飛べるんだよねー」
「そうだね。でも、魔力がもうないから背中に乗せてもらうよ」
「僕も久しぶりに疲れたよ……」
「ラース君とデダイト君、頑張ったものねえ。ノーラちゃんにマキナちゃん、ジャック君もね♪」
ベルナ先生が俺達の頭を撫でていると、ティグレ先生が右腕の包帯を外しながら悪態をつく。
「ったく誰のせいだと思ってんだ! だから学院に部屋を借りとけっていったんだ!」
「な、なによう! わたしだってグレトーには気づいていたけど、今更、国へ帰るように言われるとは思わなかったんだもん!」
「だもんじゃねぇ! ……薬草の畑も花壇も学院長に言って何とかするから、近くにいろ」
「……うん」
ありゃ、ケンカしているのかと思ったけど、ベルナ先生が少し涙ぐみながら微笑み、胡坐をかいているティグレ先生の肩に頭を預けていた。すると母さんが渋い顔をしていたので尋ねてみる。
「どうしたの母さん?」
「……まずいわね、あの二人確定じゃない」
「確定って?」
兄さんが首を傾げて尋ねると、母さんはフッと遠い目をして、俺と兄さんとノーラにしかわからない答え合わせをしてくれた。
「……ニーナより先にベルナに恋人ができたってことよ……」
「あ」
「あ」
「あー」
うん、俺達は黙っておこう。
「こ、恋人……ラース君は誰を選ぶかしら……」
「アピールしといた方がいいんじゃねぇの?」
……マキナの言葉が聞こえてくるが、俺は聞かなかったことにした。
初恋はルシエールだけど、姉というアンハッピーセットもついてくるのがやはりネック。それと、多分うぬぼれでなければクーデリカも俺のことが好きだと思う。
みんな可愛いし、個性的だから正直、選べない。それに、俺は学院を卒業したらこの町を恐らく出ることになるだろう。選んでしまっていいのだろうかという思いが、実はある。
……ま、おいおい考えようかな。まだ十歳だし。するとマキナが話しかけてきた。
「わあ、綺麗! ラース君、お月様が見えてきたよ!」
「ああ、本当だ。普段空なんて見ないから新鮮だよね」
「うん! わあ……」
俺は本当に嬉しそうなマキナに苦笑しつつ、ごろりと寝転がる。ちょうど上昇が終わり、サージュが口を開く。
<では城まで行くぞ! しっかり掴まっているんだぞ? まあ落ちても我がすぐ拾いに行くがな>
それ、とサージュが移動を始める。
だが、この移動は俺達にとって最悪の結末を迎えることになるとはこの時誰も思っていなかった。
「うわああああ!? ゆ、揺れるー!?」
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