没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第六十八話 姉妹
「みんなぁ、暴れイノシシは正面に立っちゃだめよ。脇から一気に攻めてね」
「おう! 焼きイノシシになりやがれ! ”魔法剣・ファイア”」
「えいえい!」
「ブルモォォォ!?」
「【カイザーナックル】! 脳天に……一撃!」
ベルナ先生が戦術を言って俺達が動く。
今日は魔物討伐の依頼をするため町の外の森へ来ていた。野草やキノコなどを取りに来た人が追いかけまわされることがあったらしく、何頭かまとめて倒して欲しいとのこと。
とりあえず一匹目がリューゼ、クーデリカ、マキナの三人で倒されたところで、リューゼもファイアしかできないけど剣に火をまとわせて戦うことができるようになっていた。火でびっくりしたところにクーデリカのスキルがのった剣が胴体に突き刺さったところで足が止まり、マキナが全力で眉間を撃ちぬいた。
「ああ!? とどめは俺がって言ったじゃんかよ!」
「仕方がないじゃない、倒しちゃったものは」
「まあまあ、わたしたちの初大物ゲットだし、喜ぼうよ!」
リューゼがクーデリカの言葉に、それもそうだなと返している横で、ヨグスとヘレナ、ルシエールが野草の採取を行っていた。
「……これはタマゴタケモドキみたいだ。猛毒のキノコ」
「ええー、タマゴタケそっくりじゃない。こんなのわからないわ……」
「私の【ジュエルマスター】みたいにキノコを専門にしているスキルを持った人とかなら分かるのかな?」
「確かに居そうだけど、会ったことは無いね」
「そういう時はヨグスの【鑑定】は便利だよな」
「ありがとうラース。僕もそのうち戦闘に加わりたいからその時はよろしく頼むよ」
「もちろんだよ、ウルカも……ウルカ?」
「ああ……そうなんだ……僕たちは……うん……」
「……ちゃんとスキル使ってるんだな……」
何か怪しいのと話しているらしいウルカはさておき、こんな調子でギルド部を始めて二日ほど経っていたりする。今日は兄さん、ノーラ、ルシエラが居ないけど、昨日はヘレナとマキナが居なかった。
……想像にお任せしたいところだけど、親御さんの許可ってやつを取るためである。先生が一緒だからすぐ許可されたんだけどね。
「それじゃもう一匹行こうぜー!」
「俺もやるかな【コラボレーション】はいつも通りマキナとクーデリカでいいよな?」
「うん!」
「ふふふ、一撃で片付けるわ……!」
「気を付けるのよぅ」
今度はジャックを含めた四人で倒すらしい。何だかんだで癖のあるスキル持ちが多いけど、バランスはとれているような気はするかな。
俺は興奮気味に暴れイノシシに襲い掛かる四人を見ながら苦笑し、ルシエールに話しかける。
「今日、ルシエラは?」
「あ、今日はお店のお手伝いだよ。すごく来たそうにしてたけどね」
「あいつってよくルシエールと一緒に居るよね? 休みの日も一緒じゃなかったっけ。クラスに友達はいないの?」
「あ、えっと……」
俺がそう聞くと、ルシエールは表情を暗くして俯く。
「あ、悪い……言いにくいことだったら無理に聞かないよ!」
慌ててルシエールにそう言うと、ルシエールは顔を上げて困り笑いをしながら俺に言う。
「ううん。大丈夫。えっとね、私、今はそうでもないんだけど小さいときは体が弱かったの。ラース君と会ったころはよく熱を出して寝込んでいたわ」
「え、そうだったの? ……今は?」
「今は平気よ! それでも八歳くらいまではお外に出ることがあまりできなかったわ。それでお姉ちゃんいつも私を心配していて、付きっきりで看病してくれたりしていたんだけど、それが癖みたいになっちゃったのか、一緒にいることが多いの」
「なるほどね。過保護気味になったのか……」
そういうことであればいつまた倒れたりするか分からないからいつも一緒にいるのはわかる。八歳というとギルドで仕事をし始めたくらいだけど、町でルシエールを見かけなかったのはそういう経緯もあったからみたいだね。
案外いいところがあるじゃないかと思ったけど、次のルシエールの言葉でがっくりしてしまう。
「お、お友達はね……一年生の時に商家の娘だって自己紹介して、自慢したみたいなの。それが気に入らないからって男の子と喧嘩になったって聞いた……」
「ええー……」
リューゼがやりそうなことをルシエラがやっていたのか……。確かにブライアン商会と言えばこの町でかなり大きいお得意さんを抱えていたりするからなあ。
「それを助けてくれたのがデダイト君だったみたい。今はクラスにお友達、いるみたいだよ」
「ああ、それで兄さんが好きなのか……」
「でも、この前ラース君に助けてもらってから、デダイト君の話が減った気がするの」
「うーん……」
兄さんにはノーラがいるし、残念な恋で終わるけど、あいつは見た目がいいので困らないはずだ。
ただ、この前の帰り道といい、今のルシエールの話といい、嫌な予感がするのは気のせいだろうか……
背筋が寒くなるのを感じていると、ルシエールが俯き加減で言う。
「私もお姉ちゃん離れしないといけないかなー。私につきっきりだと、お友達と遊んだりできないと思うし」
「ギルド部に入ったけど、兄さん目当てとルシエールの保護を兼ねてるつもりかなあ……」
「かも? それとお姉ちゃんって好奇心が強すぎて、興味があることはすぐ首を突っ込んじゃうんだよね。この前みたいに危ない目に合うこともあるからこれからは気を付けるように言ってみる」
「それがいいだろうね。特にルシエールは【ジュエルマスター】なんていう悪い奴に知られたら誘拐されそうだからさ」
ルシエールがきょとんとした顔で俺を見た後、顔を赤くしてから微笑んで言う。
「……その時は、初めて会った時みたいに助けてくれるかな……?」
「……っ! そ、そりゃもちろんだよ!」
「ふふ、ありがとう! それじゃ、私もベルナ先生に魔法を教わりたいからいくね」
「あ、うん」
手を振りながら俺から離れていくルシエール。ベルナ先生が笑顔でルシエールと会話を始めたのを確認し、俺は深呼吸をする。
……不覚、自分でも顔が赤くなっているのが分かってしまった……やはり可愛いなと思いつつ、俺は姉のことを考える。
過保護が双方にとって良いことならいいけど、ルシエールの口ぶりから、妙なことに巻き込まれることが多いような気がする。
「やっぱり問題はルシエラか……うまくルシエールがひとり立ちすることを伝えられればいいんだけど」
こればかりは口を挟むのはお門違いかと俺は頭を掻きながらリューゼ達に混ざる。
結局その日は累計四匹の暴れイノシシを倒し、みんなで報酬を受け取って笑いながら帰っていった。
そして俺達は、いわゆる夏休みのような大型連休に入ることになるのだけど――
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