没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで

八神 凪

第五十八話 情けは人の為ならず


 領主を辞退する旨を口にした父さん。その様子を見ていたハウゼンさんが不敵な笑みを浮かべて、立ち上がる。

 「フフフ、その心配は無用だ!」
 「え?」

 俺が呆けた声で聞き返すと、ハウゼンさんは続ける。

 「一千万ベリルはある! 町の人からかき集め、ブラオがクソ医者と分け前をした金額も入れてな。それがそっくり病院の金庫にあったから手続きを踏んで回収しておいたぜ!」
 「「えええええ!?」」

 本当に!? いや、確かに詐欺にあったようなものだからお金が返ってくる可能性はあるけど、まだ残ってたのか……

 「あの医者、相当貯めこんでいたぜ? ……医者は金持ちが多いと聞くが、あれは多すぎる。金にはまったく興味が無さすぎて気味が悪いくらいだ」
 「おかしな男だったからな。苦痛にゆがむ顔を見るのが好きだったとかぬかしていたぜ」
 「……」

 ティグレ先生の言葉で部屋が静まり返る。俺も正直、何度も相手をしたいとは思わない。気を取り直して国王様が口を開く。

 「というわけで、ハウゼン君がどうしても君をというのだ。もちろん、町民の了解は得ている」
 「しかし……私は子供のために私財を投げうち、領主を降りたんですよ? それは町のみんなを苦しめることになりかねないと分かっていて……」
 「過ぎたことは言っても、な。自分の子のためにできることをするのは親として当然だろう? ……あんたに世話になった人はそんなこと思っちゃいねえよ。ブライオン商会も出してくれたんだぜ」
 「ソリオが……?」

 ブライオン……って確か、ルシエールの家だった気がする。親父さん、ソリオって名前なのか。父さんを避けるようにしていた気がしたけど、お金を出してくれた……?

 「ブラオに脅されてお前の野菜を買いたたいてたって告白したよ。多分、後で謝罪に来ると思う。ま、ラースが姉妹を助けたってのが大きいみたいだけどな」
 「そうか。ソリオ……」

 父さんとブラオとソリオの三人には何かあったのかもしれないね。父さんはハウゼンさんに、笑いかけられると力強くうなずいた。

 「……分かりました。そこまで言われて及び腰になるほど衰えてはいません。国に貢献できるよう、務めさせていただきます」
 「あなた……良かったわね、ラース」
 「うん……」

 できるなら俺の手で。そう思っていたけど、やはりひとりですべてを行うには限界があることを悟る。中身が年を食っていても、前世のひとりぼっちの生き方がここで影響を及ぼすとは思わなかった。
 これからはもっと周りを頼ろう、そう心に誓う。

 「さて、詳しい話は後程にして、今度は私から頼みたいことがあるんだがいいかね?」
 「頼みたいこと? 俺達にですか?」
 「近いけど、少し違う。お母さんの隣にいる……ベルナさんと言ったかな?」
 「は、はひ!?」

 急に名前を呼ばれて少し眠そうなベルナ先生が飛び上がるように叫ぶと、ティグレ先生がにやにやと笑う。

 「寝てんじゃねえっての」
 「ね、寝てないわよぅ!」
 「ウトウトしていたくせによ」
 「す、スケベ!」
 「ベルナ、国王様の前でケンカしないの」
 「ティグレ先生も口を慎みなさい」
 「も、申し訳ねえ……」

 学院長の喝でしゅんとなるふたり。学院長はコホンと咳ばらいをして話を続ける。

 「それで、ベルナさん。もし良ければ我が学院へ教師として働いてもらえないだろうか? もちろんお給料はそれなりにだが出すし、望むなら学院内の宿舎を提供してもいい」
 「え!?」
 「ふえええ!?」

 俺は今日何度目になるかわからない『え!?』を口にする。もちろんベルナ先生も寝耳に水のようで、ガタンと立ち上がってから叫んでいた。

 「わ、わたしが、ですかぁ? 薬草と魔法しか取り柄が無いんですけど……」
 「いやいや、あの時見せてもらった魔法は申し分ない実力。……それに、ラース君の魔法の先生と聞いています。ラース君があそこまで魔法を使えるのはあなたの教えのおかげだと見ますがね」
 「あれはラース君の【超器用貧乏】のおかげです。わたしは少し背中を押しただけです……」

 ありゃ、最近自信がついてきたと思ったけど、昔の喋り方に戻っちゃったなあ。国王様の前は流石に緊張するよね……

 「超? うむ、ラース君のスキルが【器用貧乏】だということは知っている。ハズレだと言われているのに、あそこまで鍛えたのは自身の努力と先生の力もあったと私は思うのだ。どうだろうか?」
 「う、うう……」

 顔を真っ赤にして呻くベルナ先生に、俺は言う。

 「ベルナ先生は教えるのが上手いし、楽しく教えてくれるから先生だよやっぱり。俺もベルナ先生じゃなかったらここまで頑張れなかったかもしれないしね。学院にベルナ先生がいたら俺も嬉しいよ?」
 「ラース君……」

 ベルナ先生は俺の言葉を聞いて目を瞑ると、全員が見守る態勢に入った。しばらくしてゆっくりと目をあけたベルナ先生は、先ほどのように困惑した目ではなく、決意をした目に変わっていた。

 「わ、わかりました。お受けします!」
 「おお! ありがとう! 優秀な魔法使いを獲得できた! ティグレ先生、よくやってくれた」
 「い、いや……」
 「え? あ、あなたが?」
 「うむ。是非にと言っていたのだよ。確かに私も目の当たりにして凄いと思っていた。ティグレ先生がお母さんに頼み込んで連れてきてもらったのだ」
 「あはは、実は知ってたのよねー」
 「母さん……」
 
 俺が呆れていると、ベルナ先生が母さんとティグレ先生にぺこりと頭を下げて着席する。山の家はそのままにしたいからと、家から通う形にするのだそう。そして国王様が再度場を仕切る。
 
 「さて、ではあと二つあるうちの案件を片付けるか。まずブラオだが、ローエンの恩情があり、極刑は無し。五年間王都の牢獄で過ごしてもらうことになった。リューゼは母親が引き取り、領主邸から住宅街へ引っ越すことが決定した。彼は引き続き学院へ通う」
 「……! 良かった!」

 もし極刑なら俺は進言するつもりだったからこれは僥倖というやつだと思う。……ブラオには罪をしっかり償ってほしいと思う。なにより、リューゼのために。

 俺が少し涙を流していると、それが引っ込むくらいの言葉を、国王様が発し場が静まり返った。

 「もう一つの案件は……ラースよ、お前王都に来ぬか?」

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