没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第四十六話 終わる休みと閃きひとつ
「じゃあラース君はスライム十匹だから四千ベリルだよ」
「ありがとうございます!」
「私は四匹で千六百……一個四百ベリルなのね」
「わたし五匹でした! ミズキさん、ありがとうございます!」
「なに、将来の同僚かもしれないんだ、協力は惜しまないさ」
そう言って俺の手を握ってドヤ顔をするミズキさんはさておき、俺達はスライムの核をギルドで換金する。このまま帰ることもできたけど、反省会をした方がいいかとふたりに声をかけた。
「反省会? ……いいわね!」
「わたしもやってみたいかも」
「それじゃギブソンさん、テーブルを借りますね」
「ああ、ごゆっくり」
にこやかにそう言ってくれ、俺はふたりとテーブルを囲む。ミズキさんは少し後ろで俺達を見ていて、さっそく俺は口を開く。
「とりあえずマキナはお疲れ様。服は大丈夫?」
「ええ、ちょっと気持ち悪いけど、タオルを貸してくれたから後は家で綺麗にするわ、ありがとう」
ニコッと微笑むマキナはこうしていると脳筋には見えない。それはともかく、次にクーデリカの方を向いて言う。
「ホント頑張ったと思うよ、殴るたびに爆散するんだもんね……。で、クーデリカのスキルについてなんだけど【金剛力】って腕力しか上げられないの?」
「え? うーん……わ、わたしはそうでしか使ったことないから分からないや」
「さっきスライムに攻撃する時ジャンプしてただろ? クーデリカはお世辞にも高く飛べたとは言えないんだけど、もしかしたら足に【金剛力】を集中したら高く飛べたりしないかなって」
筋力を上げるというスキルなら、脚力をあげることもできるのではないかと思ったのだ。クーデリカの通常生活と、おばあちゃんの家で石を持ち上げたことを考慮すると、常時発動しているわけでもないみたいだし。
「や、やってみるね! ……えい!」
ギルドの天井は三メートルほどあるので頭はぶつけないだろうとチャレンジするクーデリカ。思った通り、四十センチ程度だった高さが一メートルくらいまで上がっていた。
「ひゃあん!? す、すごいよ、ラース君が言った通り足に集中したらぐんってなった!」
「うんうん! なら今度はそれを応用して防御力を上げたりできるかもね」
「やってみるね!」
興奮気味のクーデリカがなにやら試行錯誤を始めると、マキナが期待したまなざしで俺を見ていることに気づく。
「……」
「……えっと、どうしたの?」
「私には何かないの?」
「え? うーん【カイザーナックル】は見ての通りのスキルっぽいしなあ。あ、そうだ」
「なになに!」
「強弱はつけられないの? スライムを全部爆散させていたけど、もっと弱くしたら潰すだけで済んだかも……?」
「あ、そっか。うん、多分できるわ! フフフ、楽しくなってきたわ。部活で実戦が始まったら……ありがとうラース君」
実戦が始まったら何をするつもりなんだろう……そんなことを考えつつ、スライムはチームでやれば囮ひとりいればすぐ倒せるみたいな話を陽が暮れるまでしていた。
うん。友達ができるのはかなり嬉しいけど、こういう時って男の子じゃないかなあ。リューゼとジャックはともかく、ヨグスとウルカは好戦的じゃないから仕方ないか。
◆ ◇ ◆
「――ってことがあったんだよ。でもミズキさんのおかげでいい勉強になったね」
「スライムなら逃げ切れるし、いい選択だったなラース。女の子を気遣っているのもいい」
「えー、クーちゃんとマキナちゃんも一緒だったのー? オラも混ざりたかったー」
今日はノーラも夕食を囲み、クラスメイトと遊んでいた俺を非難の眼でジトっと見てくる。
「兄さんとベルナ先生のところへ行ってたんだろ? どうだったんだい?」
「はは、ノーラは魔力制御を褒められていたよ。僕も水魔法はかなりいい感じだって言われた」
「ふたりとも流石だね。兄さんは学院の授業の時どうしてるの?」
「入学したてのころは良く分からなかったから全力でやってたけど、今はセーブしているよ。たまには全力で撃ちたいからベルナ先生のところは助かるんだ」
「オラはトレーニングよりも友達と遊びたいよー」
ノーラがぷんすかして口を尖らせ、それを見て笑う兄さん。俺も苦笑していると母さんから声がかかる。
「私達の見ていないところで無茶するんじゃないわよ? 特にラースは魔物討伐も始めちゃったし。あなたたちが居なくなったら本当辛いからね?」
「わかってるよ。お金が入っても死んだら何の意味もないからね」
死ぬことだけは必ず避けようと誓っている俺は強くうなずき、母さんが困ったように笑う。そうこうしているうちに、父さんと兄さんがノーラを送り、俺は疲れもあって玄関でノーラに挨拶をするとすぐにベッドへ寝転がる。
「……スライム一匹で四百ベリル……一千万はいつになるやら……」
ブラオを追い落としてもお金は必要だ。計算をするのが嫌になり目を瞑ると、心地よく眠りにつくことができた。リューゼの動向も見ないとなあ……
――翌日
「おはよう」
「おはよー」
「ああ、おはよう」
「おっはよん♪」
俺はノーラとクラスへ入り、すでにいたヨグスとヘレナに挨拶をする。今日はルシエール達とは会わなかったので二人だけ。そんな日もあるかとカバンを机にかけていると、リューゼが入ってきた。
「おはよう……」
「おはよ♪ って、どしたのほっぺた?」
「ちょっと転んでな」
「あらら、痛そう……気をつけないとね」
ヘレナにウインクされ、サンキューと言って椅子に座る。……転んだ、のか? 転んで頬をあんなに腫らすだろうか……? この休み中になんかあったと考えるのが妥当か? リューゼを見ながら考えていると、ルシエールが入ってくる。なぜか姉を引き連れて。
「おはようヘレナちゃん、ヨグス君……リューゼ君も」
「おはようルシエールさん。……それと」
ヨグスがルシエラを見てきょとんとした顔をするが、そんなことはお構いなしにルシエラがリューゼに向かって質問を投げかけていた。
「ねー、昨日病院の前であんたを見かけたんだけど、なにやってたの?」
「……!? み、見てたのか?」
「ルシエールと散歩中に、ねえ?」
「う、うん……」
病院か……何か動いたのかと思ったけど、頬の腫れからすると病院でもおかしくはないかな?
「……見ろよこれ。これの治療に行ってたんだよ」
「痛そう……!?」
リューゼが面倒くさそうに言い放ち、ルシエールが顔を顰めて口に手を当てて言う。やっぱりそうかと思ってノーラと話でもしようと思ったその時だった。
「あー、マジで痛そうね……でも、なんでお父さんと一緒に病院へ入らなかったの? お父さんの後をつけてたみたいだけどもしかしてお父さんに叱られたから?」
……俺はリューゼが一瞬顔色を変えたのを見逃さなかった。ルシエラがどうしてそんなことを気にするのかわからないが、彼女もまた探るようにリューゼを見る。
「……そういうことだよ! 父上に叱られて殴られたんだ。で、屋敷を飛び出して病院に行こうと思ったら追いかけてきてな。病院に先回りされたから身を隠していたんだよ。ったく、気持ち悪いなお前! あとをこそこそつけてくるんじゃねぇよ!」
「父親のあとをつけてたくせに」
「うるせぇな! わかったんならあっちいけよ……」
シッシと手を払いルシエラを追っ払うリューゼ。ルシエールが困惑顔で席につき、ルシエラは俺を見てにやりと笑い、クラスから立ち去った。
なんなんだ一体……?
それにしても病院にブラオも行っていたのは気になる……
「ん? 病院? ……待てよ、もしかしたら――」
俺はひとつ、思い当たることができた。可能性はゼロじゃない、探ってみるか?
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