没落貴族の俺がハズレ(?)スキル『超器用貧乏』で大賢者と呼ばれるまで
第四十四話 依頼解禁とまさかのふたり
「おはようラース」
「ん……おはよう兄さん……」
「昨日はベルナ先生のところ?」
「うん。魔法の成果を見てもらいたくてさ……ふあ……兄さんはノーラと遊んでたんでしょ?」
ベルナ先生とのトレーニングをしていた翌日、俺はリビングで食パンを食べながら声をかけてきた兄さんに、寝ぼけ眼で返す。
「僕はいつも通りって感じかな。ノーラはラースも居てほしそうだったけどね」
「まさか、デートの邪魔をするわけにはいかないでしょ」
「それは……助かるけどね」
兄さんが苦笑しながらそう答え、俺も笑って返す。なんとなく表情が暗いような気がしたけど気のせいかな?
「今日もノーラと遊ぶの?」
「ううん。今日はふたりでベルナ先生のところに行くんだ。ラースはギルドでしょ?」
「そうだね。昨日だったら良かったけど、噛み合わないね」
「まあ、ラースは色々やっているからねえ……僕もギルドで働こうかな……」
「兄さんは勉強とノーラとの仲、頑張ってよ。俺はほら【器用貧乏】だからもっと覚えないといけないことが多いんだよ」
「うーん……」
まあ、兄さんがデートする時を狙ってベルナ先生のところへ行ったのだから噛み合うはずもない。それに勉強を頑張ってほしいのも【器用貧乏】の能力を上げていくのも嘘ではない。
いつになるか分からないけど、ことが済んだらふたりとまた遊びたいね。
「それじゃ、行ってくるよ!」
「気を付けてね」
母さんが微笑みながら手を振ってくれ、俺も振り返す。そこへ父さんが俺に向かって声をかけてきた。
「……あ、ラース。お前も十歳になったし、魔物退治の依頼を受けてもいいぞ。ハウゼンさんに『彼は逸材です!』とか言われてなあ……許可することにしたよ。ベルナ先生からもラースとデダイト、ノーラは他の学生よりも強いと聞いている。でも、あまり危険なことはしないでくれよ?」
「……! うん! ありがとう父さん!」
やった……! ついに魔物退治の許可を貰えた! これで少し高い金額の依頼ができるようになるから貯金も容易になるはずだ!
俺は丘を急いで駆け下りていく。すると、ノーラがウチへ来るため丘を登ってきているのが見えた。制服ではなく、今では懐かしい緑のだぼっとした服である。
「おはようノーラ!」
「わわ……おはよう、ラース君ー! なんか嬉しそうだけど、楽しいことあったの-?」
「ああ、今日からギルドで魔物退治の依頼を受けられるようになったんだ! 早速行こうと思ってね」
「あー! いいなあ。オラも行きたいー」
ノーラがぴょんぴょんと可愛く跳ねてそう言う。だけど、俺は目を瞑ってにやりと笑い、指をチッチと振ってから返す。
「ノーラは兄さんと一緒にベルナ先生のところ、だろ? クラスじゃ多分もう最強だけど、せっかくだから強くなっておこうぜ。ノーラは可愛いし、誘拐されたりしたら困るもんな」
「か、可愛い……。んー、でも最近ラース君と一緒に遊んでないからちょっと寂しいよー?」
口を尖らせて抗議してくるノーラだが、クラスでは会っているのでいいと思うんだけど。
「ま、そこはクラスにいない兄さんと会ってやってよ。じゃあなー」
「あ、ラース君! 気を付けてねー」
にこにこしながら手を振ってくるノーラに、片手だけあげて返す俺。足取りも軽く、俺はギルドへと向かう。
……しかし喜んでもいられない。リューゼがブラオに告げ、そこから何か始まる可能性を考慮して情報収集もしないといけないからだ。
「……やることが盛りだくさんだな。リューゼが鍵か……」
少しだけ昨日のことを後悔しながらギルドへと到着する。
「おはようございます!」
「おはようラース君!」
「お、おはよう!」
「ええ!? どうしてふたりが!?」
俺は入ってすぐにずっこけそうになる。それもそのはずで、目の前にはマキナとクーデリカが居たからである。何故かマキナは干し肉を齧りながら片手を上げ、クーデリカはちょこんと椅子に座っている。そこで、苦笑しているギブソンさんが口を開いた。
「いやあ、モテモテだよねラース君。かなり早くからこの二人待っていたんだよ。昨日も来てたんだけど、ラース君が来ないのは知っていたから帰ってもらったんだよ」
「クーデリカはなんとなくわかるけど、マキナはどうして?」
「修行よ!」
まったく答えになっていない彼女に、ああ、面倒な子だ……と頭を抱える俺。
「じゃあ、ひとりで依頼を受けるの?」
するとマキナは顔は笑ったままでびくっと体をこわばらせてからギギギ、と首を俺に向けた。
「……ひとりは怖いから嫌よ……」
「訓練だろうに……」
身の程を知っているという意味では好感が持てる。さて、クーデリカを問い詰める時間に変えよう。
「……マキナに言ったの?」
「う、うん……ギルドに来ればラース君に会えるかなと思って、入り口で待っていたらマキナちゃんに話しかけられて……」
「そういうことか。うーん、依頼に付いてくるつもり?」
「私達はそのために来たからそうね」
「お手伝いとか雑務だけどいいのか?」
マキナが悪びれた様子もなく言うので少し試してみることにした。これで難色を示すようならおかえり願おうと思う。
「私はなんでもいいわ。クーデリカみたいに冒険者志望じゃないけど、先生が言ったように騎士だけが私の将来ってわけでもないから勉強よ」
「なるほど……」
興味本位ということではないらしい。ならいいかと思いつつ、いつもの文言を口にする。
「両親は知っているのかい? 勝手なことをして俺が怒られるのは嫌なんだけど」
「大丈夫よ、ギブソンさんと父さんは知り合いだから!」
「それは僕が怒られることになりそうだから嫌だけど……ま、誰かに伝令を頼んでおくから大丈夫だと思うよ。マキナちゃんの親父さんは豪快だから」
「なら、邪魔しなければいいよ」
「わかったわ!」
「はーい!」
ギブソンさんからも了承を得たのでそれならいいかと俺も承知する。あ、でも今日は――
「……今日から魔物討伐を受けるんだった……危ないから――」
「魔物討伐! いいわね!」
「そ、そうなんですか……! じ、実戦できる……!」
「いや、受けないからね? ふたりともギルドに登録してないし魔物討伐はダメだよ」
俺がそう言って断ると、
「ふふん♪」
「えへへー」
「あ!?」
なんとふたりの手にはギルドカードがあった。ギブソンさんがあっさり許可をした理由はこれかと納得する。俺は頭を掻きながらふたりにため息をつく。
「……はあ、仕方ないなあ……でも俺達だけはちょっと不安だな」
「私が行こう! はあ……はあ……」
バタン! と、息を切らせながら入ってきたのは……ミズキさんだった。なんでも今日は暇らしく、ちょうどいいと俺はスライム討伐の依頼を受けることに。
「ふんふふーん♪」
「スキルを全力で使ってみましょうよ」
「あ、マキナのはいいかもね」
「……ラース君、いったい何人の女の子を……?」
最後の言葉は聞こえなかったことにして町の外を目指す俺達。ふと通りを見てみると――
「……? あれはリューゼ?」
こそこそと周囲を気にしながら物陰から物陰へ移動するリューゼを見かけた。それだけならいいんだけど……
「……」
「……」
ルシエールとルシエラの姉妹がそのリューゼを追っていたのだ。なにやってるんだろう……? リューゼは昨日のこともあるので何をしているのか気になるな……
「ラース君、いこうー」
「あ、うん……」
俺は依頼の為、後ろ髪を引かれながら三人から目を離して歩き出した。
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