元ヤンは公爵令嬢の姐さんに一生ついていきます

桜杜 あさひ

ミサキ学園デビュー?

バルド・ヒューズは男爵家でありながら、公爵家のアイラ・ヒューズと婚姻を結んだ。子供にも恵まれ可愛らしい天使のような子――マイアが生まれた。
 大事に大事に育てたおかげか、小さい頃は「おとうさま、だいすきー」なんて言ってくれた。今までも良好な関係だったはずだ。しかし、最近は「お父様、最近お腹がたるんできたのではなくて?」という辛辣な態度だ。
 原因は例の婚約破棄の件だろう。
(あの小僧、今度会ったらぶん殴ってやろう。うちの可愛い天使を無下にしよって!)
 最近のマイアは剣ばかり振っている。騎士の家系だったバルドからすれば嬉しいことではあった。しかし、このまま騎士になるなんて状況になったら最悪だ。新人騎士は国境警備や他国への要人の護衛などの任務につくことが多い。そんなことになったら天使のマイアに会えなくなってしまう。バルドは手段を選んではいられなかった。
「ミサキ君、だったかな。君に頼みがあるんだ」
「親父さん、なんですか頼みって」
 バルドの前に立つ少女が答えた。この少女は先日マイアたちが拾ったという者だ。怪しいことこの上ないが、マイアを慕ってくれているみたいだし協力してくれるだろう。
「君にはマイアと一緒に学園に行ってほしいんだ。そして……マイアを守ってほしい」 
(王子との婚約破棄をきっかけにマイアに婚姻を迫る男が増えるかもしれん。変な男にうちの天使はやらん!)
「あなた、そんなことしてもマイアもいつかは出ていくんですよ」
 そんなバルドの考えを見透かしたようにバルドの隣に立つ女は言った。
 アイラ・ヒューズ・アルシア。王家アルシア家の次女であったが王位継承権を破棄した彼女は、ヒューズの名を賜り公爵夫人として公爵領を治めている。ヒューズ家のヒエラルキーの頂点に君臨する人だ。バルドもアイラには頭が上がらない。
「む、そうは言ってもな……」
「あなたはマイアが結婚しちゃって家を出ていくのを阻止したいだけでしょう」
 うっと核心をつかれたバルドは何も言えなくなる。
「あたしはいいっすよ? 要は姐さんに男を近づけさせなきゃいいんですね」
「おお、やってくれるか!」
 縮こまっていたバルドはぱっと表情を明るくする。
「いいのよ? やらなくても。この人のわがままだし」
 そういうアイラを制して、ミサキは宣言する。
「受けた恩は返します! あたしに任せてください!」
 にっと笑った少女は「失礼します」と切れのある動きでお辞儀をし部屋を後にした。 
「ふふ、あの子面白いわね」
「ああ、あの子が来てからマイアも元気になってきたしな」
 ミサキの活躍に期待するバルドだった。


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