元ヤンは公爵令嬢の姐さんに一生ついていきます

桜杜 あさひ

侍女の仕事は大変です?

「はわわわわ、ミサキさん! 生垣をそんな風にしないでくださいぃ」
 ミサキはヒューズ家の侍女として業務をこなしていた。
 自分が異世界へ来てしまったことが分かった昨日。頼る当てもない彼女に、マイアはここで侍女として働かないかと提案していた。一度は断ったミサキだったが、目標をなくしたため提案を受けることにした。
 そして翌日、ミサキは芸術的センスを遺憾なく発揮していた。生垣をばっさばっさと整えていく様は狂気の芸術家だ。そんな彼女を包む服装は特攻服ではなくダークグレーを基調とした侍女の制服だ。
「なんだよ、アメリア。あたしの芸術にケチ付けるのか」
 アメリアと呼ばれた少女はマイアと一緒に美咲を発見した侍女だ。彼女はミサキの指導係に任命された。
 些細なことでも慌ててしまうアメリアにとって自由奔放なミサキは災害級の天敵だった。マイアの世話だけでも手いっぱいだったが、さらに悩みの種が増えてしまい今にも口から泡を吹きだして倒れてしまいそうだ。
「あんまりアメリアのことイジメないであげてね、ミサキ」
 凛とした声が庭に響く。
 声の主は朝日に照らされた金の髪を耳にかけながら、庭の二人に笑いかける。
「おはようございます、マイアお嬢様」
「お、マイア姐さん。おざまーす」
 後からの返事に顔をしかめるマイア。
「そのマイア姐さんっていう呼び方どうにかならないの、ミサキ」
「え、じゃあ姐さんで。拾ってもらった恩は忘れないっす!」
 屈託のない笑顔を浮かべ即答するミサキ。
 一方、マイアは「そっちを取るのね……」とどこか残念そうな雰囲気だ。
「……まあいいわ。それでどう? 仕事はできそう?」
 ミサキはこれまた満面の笑みで、
「完璧っすよ! このあたしの作品を見てください!」
 そう言って作品をある後ろに手を広げる。しかし、そこには綺麗に整えられてしまった生垣たち。最後の生き残りをアメリアが綺麗に剪定し終わるところだった。
「あ、あたしの、アートが……」
 がくっと肩をおろしたミサキはゆらゆらと起き上がり、
「ア~メ~リ~ア~~。死刑だ! その乳もいでやる!」
 アメリアの胸は大きい。背丈はミサキよりも少し小さいがその背丈に似合わない双丘を胸に備えている。無慈悲にも胸の大きさ順で並べると、アメリア、ミサキ、マイアの順だ。どうやら身体的なヒエラルキーは3人の関係とは真逆のようだ。
「や、ひゃ、やめて、ください、ミサキ、さん」
 容赦なくアメリアの胸を揉みしだくミサキ。その目は完全に犯罪者のそれだ。その様子を見て自分の胸部を見下ろしたマイアも目を光らせて攻撃に加わる。
「アメリア、あなたは乳牛の神に愛されたのね。ええ、きっとそうよ」
 そう言い放つマイアの目に慈悲の心はない。
「お、お嬢様までっ! ひゃ、お、おやめ、くださいぃ」
 その攻防は3人が侍女長に見つかるまで続いた。

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