少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜

ノベルバユーザー458883

104話 とある隊長と副隊長の話。

静かな部屋、私は1人窓を眺める。


「隊長、黄昏てないで仕事して下さい。」
「いつからいたの?」
「ノックもしましたよ。応答が無いから入りました。」
「そこは普通入らないよね?」
「どうせ隊長の事だから、ぼーっとしてるのかと。」
「失礼な。これでも色々考えているんだからね。」


全くこの副隊長は失礼だ。
いつも私がぼーっとしているかの様に言ってくる。
今日はたまたまある人に会ったからで…。


「とりあえず、その鎧を脱いでは?重いでしょうに。」
「…そうね。」


兜を取り、鎧を机に置く。
グローブを外し、鎧を脱ぐ。


「また机の上に置く。鎧はこちらにお願いしますよ。」
「脱いでからやろうとしたの。」
「はいはい。では腰と脚はこちらで脱いでください。」
「むぅ。はいはいって私は隊長なんだぞ。」
「そうでした。では、隊長。こちらにお願いいたします。」
「敬語は敬語で気持ち悪い。」
「どうすればいいんですか。」


こんなやり取りを毎日の様にしているが、副隊長はこれでいて面倒見が良い。
兜を机に置くのも、実はそんな反応が見たいからだったりする。
そして、ごく稀にちゃんと片付ける時もある。
その時は雨が降るかとバカにされたりもするが、褒めてくれるからあまり怒ったりはしない。


「ふぅ…あの鎧って着ているだけで、魔力を多少吸うから疲れるわね。」
「そういう事を言っても良いのですか?国家秘密では?」
「この鎧は私の魔力で調整しているから、誰かが着たら魔力根こそぎ取られるらしいよ。」
「なんでそんな物騒な機能が?防犯ですかね?」
「新米隊長の私には、分からないよ。まだ実戦もしてないしさ。」


私が隊長になってから2ヶ月あまり。
演習や訓練は毎日行い、王都の小さな1区間だけ管理している。
隊長に就任した時、この鎧を王様から貰った。


なんでも全身鎧なだけあって防御力も高く、表面に膜を作る事で魔法防御も上げている。
そして動きを妨げない様、軽量化される優れもの。
それらを微力に魔力を吸い上げ維持しているとか。
隊長になる為には、武術ももちろんの事だけど魔力の量も関係してくる。


「しかし、その若さで隊長になれるのは凄い事なのですよ。」
「私はそんなでも無いよ。副隊長や部隊の人達に支えて貰わないと何もできないよ。」
「ご謙遜を。」
「それは本当の事だよ。私をまだ隊長とは認めない人もきっといると思う。」
「それは…。」
「だから…頑張るんだ!貴方にだって認めてもらうんだから。」
「ふふ。私はもう……いえ、一緒に頑張りましょう。」
「さて、私は……。」


―ドン!


「ここの書類に目を通して、サインを。」
「私、さっきまで王様の護衛を…。」
「ですので、隊長しかサイン出来ない書類だけ纏めました。」
「優秀だねぇ…。」
「お褒めに頂き有難うございます。コーヒーでもお持ちしましょう。」
「…砂糖は入れてね。ん〜頑張るって言ったし、やるか!」
「その粋です。」
「なんか副隊長って、たまに私を子供扱いしない?」
「ふふふ。」


笑って誤魔化している?
気にしてもしょうがないわね。
さー仕事、仕事。


「……ねぇ、副隊長。」
「はい。なんでしょうか?」
「次のお休みいつ?」
「まだ始めて3分も経ってませんよ。」


やれやれとでも言いたそうな顔で、手帳を開いて予定を確認する。
何だかんだで、否定はしないで考えてくれる副隊長。
こういう所は優しい…。


「20日後ですかね。」
「…………。」


うわぁ、優しいと思った私の気持ちを返して!
どうしてそんなに仕事詰め込むかな?
新米隊長ってそんなやる事無いよね?
私ががっくりした顔をしてると、副隊長の話はまだ続いていたらしく。


「今のペースではですね。頑張って頂ければ、5日後に午前半休取れます。」
「よぉし!4日で終わらせてみせるわ!」
「ふふ。ちょろい…」
「ん?何か言った?」
「いえ。」
「そう?なら次の書類もどんどん持ってきて頂戴。」
「了解しました。」


書類作業なんて、この私にとってはなんでも無いわ。
休みの為に頑張ってやる!
待ってなさいシー!うぉぉ!









護衛から帰ってきた隊長は疲れた様子もあったが、何か良いことがあったのだろうかご機嫌だ。
いつものように鎧を机に脱ぎ捨てていく。


「また机の上に置く。鎧はこちらにお願いしますよ。」
「脱いでからやろうとしたの。」


隊長であるこの人は、若くして隊長になった人。
ただ自室に入ると、以外にも子供っぽい一面がある。


「はいはい。では腰と脚はこちらで脱いでください。」
「むぅ。はいはいって私は隊長なんだぞ。」
「そうでした。では、隊長。こちらにお願いいたします。」
「敬語は敬語で気持ち悪い。」
「どうすればいいんですか。」


なので、つい口調が妹と話していた感じになってしまう時がある。
ただ敬語を使えば気持ちが悪いと。


もう普通で良いか。




「しかし、その若さで隊長になれるのは凄い事なのですよ。」
「私はそんなでも無いよ。副隊長や部隊の人達に支えて貰わないと何もできないよ。」
「ご謙遜を。」


この人は部隊の全員を平等に見てくれる人。
そして、褒めても素直に受け取りはしない。
謙虚なのか、自分の評価が低く見てる気がします。


「それは本当の事だよ。私をまだ隊長とは認めない人もきっといると思う。」
「それは…。」


若くして隊長になったから、多少のいざこざはある。
中には部隊には10以上年上の人もいる。
認めた人、認めたくない人が半々はいる。
大きな戦闘も無いから、この人の凄さを皆んな分かってない。


「だから…頑張るんだ!貴方にだって認めてもらうんだから。」
「ふふ。私はもう……いえ、一緒に頑張りましょう。」


そう、慢心せず日々努力しているんです。
私は側にいることが多いので目にする事がある。
訓練所にいたっては、一太刀も与えられない。
こんな子供っぽい人でも実力は、確実に隊長と言っても問題ないクラス。




「さて、私は……。」


やる気になった隊長が飽きる前に、2割分の仕事の書類を机に置く。
まずはサインするだけで終わるもの。


「ここの書類に目を通して、サインを。」
「私、さっきまで王様の護衛を…。」
「ですので、隊長しかサイン出来ない書類だけ纏めました。」
「優秀だねぇ…。」


渋々仕事を始める隊長。
眠くならないように、コーヒーを持っていく。
言われた通り、砂糖は入れてくる。
糖分は脳を働かせるのに必要ですからね。




そしてすぐに隊長は根をあげる。


「……ねぇ、副隊長。」
「はい。なんでしょうか?」
「次のお休みいつ?」
「まだ始めて3分も経ってませんよ。」


疲れたから休みが欲しい訳でも無さそうですね。
それは護衛に行って、何かあったのか…。
どちらにしろ休みを取れるか手帳を確認する。


ん、この内容なら普通にやって10日後。
このペースですと20日後。
ここは少し刻みますか。


「20日後ですかね。」
「…………。」


案の定ひどい顔で僕の事を見てくる。
そして、ここで人参をぶら下げる。


「今のペースではですね。頑張って頂ければ、5日後に午前半休取れます。」
「よぉし!4日で終わらせてみせるわ!」
「ふふ。ちょろい…」


隊長をやる気にさせるのがこれほどに簡単でいいのだろうか。


「ん?何か言った?」
「いえ。」


おっと、思わず口から出てしまった。


「そう?なら次の書類もどんどん持ってきて頂戴。」
「了解しました。」


このやる気が続いてくれれば良いなと思います。





「少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く