少年と執事とお手伝いさんと。〜全ては時の運〜

ノベルバユーザー458883

71話 とある戦士の場合。

俺は、今何をしているんだ?


手が…重たい。刀を持っているからか?
息も苦しい…それはきっとこの仮面のせいだ。
かっこいいからって理由で、任務中は着けるように言われている。


目の前の景色が少しずつ掠れていく、だがこんな所で死ねない!
俺は自分の限界を超えて、刀を振り続けている。


「お兄さん大丈夫?そろそろ1時間経つけど、止める?」


声をかけてきたこの子供は、さっきから俺の太刀をずっと回避している。
一撃目は受け止められた。
正直言って、舐めてかかった所があるからしょうがない。
そう思って、2撃目以降は少し早く動いた。


今度は受けずに避けた。何故だ?


そもそもどうしてこんな状況になったのか。
突然依頼主に呼ばれ、来てみれば殺せと言ったけど、正直言って気が進まない。


見た感じきの良さそうな人達だし、どちらかと言うと依頼主の方が悪く見える。
要人警護って初めてだから、勝手が分からず、とりあえず言われた事をやっているけど。


それは良いとしてだ。
無効化しようと刀を振るっているが、何だこれ?
当たる気がしない。
こっちは刀であっちは銃。


あれは依頼主も持っていたが、あれは人を殺す為の武器だ。
依頼主が殺せと命じた時、この子からもの凄い殺気を感じた。
俺がこうして休みなく刀を振るのには、相手に攻撃させないって意味もある。
1発でも貰えば俺は勝てなくなる。
しかも距離を取られれば、勝機はゼロだと思ってもいいだろう。
それくらいこの子は強いと肌で感じた。


「く…なぜ、当たらない?俺は…弱い……のか。」
「そんな事はないですよ。かなり刀を使いこなしてますし。休みなく攻撃するので反撃も出来ない。戦い慣れている証拠です。」
「はは、君に言われると、複雑だよ。」


何となくだが、俺の剣を避ける事を楽しんでいるような。
ギリギリのラインで自分を高めている。そんな気がする。


くそ、戦いに集中しなきゃいけないのに。


「お兄さん、剣が鈍ってきたね。もう疲れたか…違う事考えているのかな?」
「は!そ、そんな事はない!」


心を読まれたのか!?いや、この子の動きはそれとは違う。
俺の剣が鈍る…確かに1時間くらい打ち込めば多少はあるかもだが、子供の体力に負けるわけにはいかない。
意地と根性で立っている感はある。


違う事を考えているのかと言われドキッとした。
頭の中はいろんな事を考えすぎて、俺にすらもう分からなくなっている。


俺は何故ここにいる?


俺は何故この子を殺そうとする?


俺は何故刀を振るっている?


「迷いが見えるね。これ以上は特訓にもならないね。」
「特訓!?何を…」


目の前から少年が消える。
右左を見ていないって…


―ドコッ!


「ぐふぅ!」


背後から蹴りを貰った。全く動きが見えなかった。
体制を崩して前屈みになりつつ、背後にいるであろう少年目掛け刀を振る。
無意識で振ったせいで、つい加減をミスった。
少年の首目掛けて、俺の刀は吸い込まれる……


「さっきよりいいけど、見え見えだよ。」


―ガキン!


渾身の一撃も銃によって防がれる。
しかもただ防いだだけじゃ無い…その銃は俺の顔を捉えていた。


「勉強になりました。ありがとう。」
「はっ。敵に御礼なんて、変わった子供だ……。」


―ドォォン!!


俺が最後に聞こえたのは、銃の発砲音であろう腹に響く重低音だった。









俺は『仮面の騎士団』に所属する一人の戦士。
分配で揉めて、パーティを抜け一人魔物を狩っていた。
今のマスターは宿の酒場で知り合った。
ギルドで仕事もあるし、どうかと。


「組織でやっているから、分配はしっかりしてるぞ。」
「揉めたりしないんですか?」
「あぁ。うちの金銭管理してるのがこえーからな!」
「マスター……それは誰の事ですか?」
「のぁ!!いきなり現れるなよ、ビビるだろう。」


結構前から後ろに近づいているのは見えていた。
口に手を当てて、いたずらしたそうに微笑むから、俺は何も言わず見守っていた。


「ん。マスターの話は別にして、現状6人で稼働しております。給金は働き度合いにより、1日銀貨1枚から、住む場所は提供してます。」
「住むとこ貰えて、銀貨1枚からって結構破格だよな?」
「それ以上に入ってくるからいいんです。なので強い方は大歓迎です。」
「ははは。そう言う事だ!強いやつなら、要人警護とか出来るし助かる!うちは武闘派と知能派が半々で仕事が舞わんないんだわ。」


主な仕事は、緊急の魔物退治に要人警護、計算や管理などの代行。
俺は今まで冒険者で体を動かしてきたから、知能はあんまり自信がない。
だけど、誰かを守ったり戦うのは得意だ。
それによく分からないけど、この人は腹を割って話すタイプだ。
色々ぶっちゃけられるし、何より楽しそうだ。


「よく分からないけど、面白そうだな。」
「おっしゃ!一人確保だ!だから酒場はいいって言ったんだ。」
「ただ飲みたいだけでは?この様な方が毎日のようにいるとは思えません。」
「はは、俺は運がいい。そしてお前も運がいい!よし飲もう!」
「はぁ、仕方がないですね。」
「2人ともよろしく頼むぜ。」


………。







なぜ、こんな事を思い出す?
あーこれが走馬灯ってやつなのか?
あいつらと始めて会ったのが、遠い昔の様だぜ。




うっすら目を開けると満天の星、ここは天国か…凄くきれいなところなんだな。
苦しかった呼吸も、今はすっきりしたものになっている。
あ〜鼻に入るこの美味そうな匂い。


ぐるぅ…。


「はは、死んでも腹は減るんだな。」
「およ?起きた?」
「ここは…?君は…天使なのか?」
「ここはどこか分からないよ。どこかの道。でもって私は、悪魔だよ。」
「そうか……これだけ綺麗な景色に、綺麗な女性がいたんで天国かと思ったが。地獄だったのか。」
「ん?寝ぼけてるの?ここは天国でも地獄でも無いよ?おーい、ソラヤー。」


ソラヤ?どこかで聞いた名だな…どこだったか?
呼ばれた人がこちらに来る。


「あー起きました?ご飯できてますが、食べます?」
「え?あ、これはどう言う状況なのだ?」
「まぁ〜食べながら話しますよ。」


俺は訳も分からず、さっきまで殺し合いをしていた人の食事に誘われる。
よくよく周りをみれば、この草原も見たことある様な…。


ここの空はこんなにも綺麗だったのか……。
俺は改めてこの世界に触れた。そんな事を思わずにはいられない程星が綺麗だった。



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