無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

149話 旅の始まりを決めるのは……

 プリン婆ちゃんの協力もあって、魔書は簡単に手に入った。これさえ持っていれば、あの魔王に会う事はないはず。
 変化前の魔王を見たけど、そこまで交戦的でもない。クリーブランもなんか山籠り?するとかで、しばらくは人間の世界も安全だろう。

「しかし、【レーダビット】って魔王城のある街だけあって、でかいなぁ〜これは人探しも大変だな。」

 どこに居るかは分からないけど、なんとなく散策してアイさんが見つかればいいな。
 それにさっきからいい匂いがする……

「さぁ安いよ!そこの兄ちゃん買ってかないか?」
「いい匂いがしてたのはこれか。」
「どうだい?レーダビット産のワーウルフのステーキだよ!」
「ワーウルフ……」

 って狼の肉?それって美味しいのかな?食べてみれば分かるか。

「アマン。一つ……」

 振り返ると道を歩く魔族のみ。仲間の存在はない。

「ん?仲間とはぐれたのかい?」
「はぐれた……のかもしれない。」
「この時間のここは人が多いからな。どうする?」
「すいませんが……」
「かまわねぇって。旨いもんは仲間と食べれば、さらに旨くなるからな。また寄ってくれ!」
「あぁ。ありがとう。」

 店主にお礼を言って、俺は露店を後にする。

「関わらないように決めたんだけど……」

 ふと考えるとみんなの顔が思い浮かぶ。

「楽しかったもんな…………」

 初めはアマンとゾンに会って、一緒に泊まったんだっけか。安全地帯って言ってたけど、実際はただの強運だったりね。あの時の猪は美味しかったなぁ……

 その後は森で狩りをして、コレクトとテレポートの魔法が使えるようになったんだよな。

「2人とも大丈夫かな。俺はいないから森には行かないと思うけど。そのまま帰っていれば今頃は【ネクタース】って町に向かって……る?」

 何か忘れてる気がする。なんだっけ?確か街に行く前に何かあったような?

「…………あ。盗賊。」

 道端で倒れてる人と会うのは2日は後だったはず。だけど今は真っ直ぐ向かっているとしたら?

「このままじゃダメだ。せっかく戻って来たのに、今度は2人の友人がいなくなってしまうかもしれない……」

 嫌な予感がする。

「テレポートは……ダメだ。景色のイメージも出来ているのに、その場に行く事が出来ない。それなら!」

 ―ブワッ!

「きゃ!?」
「なんだ?突然風が……飛んでる?」
「考えている時間が勿体ない!急ぐしかない!」

 俺は道のど真ん中で空にとびあがった。

「まってて2人とも!」

 俺は気がつけば空へと飛んでいった。

  ︎

 ようやく黒い魔導師が置いていった魔物の解体が終わって、休み休みだけど町に向かっている。

 ―ガラガラ……

「あれは何だ?」
「人が倒れてるな。」
「行き倒れか?こんな道のど真ん中で?」
「森も近い上にあの軽装。剣もなければ杖もない。」
「「罠だな。」」

 しかし困った事に、道の真ん中に寝てるから邪魔なんだよなー

「あれは邪魔だよな……」
「問題ない。」
「え?」
「そこの人!動けば怪我じゃ済まないからな!」
「!?」
「いけるよな?」
「ヒィン!」

 馬車を操るゾンは、止まったり避ける事はせず。ただ真っ直ぐ馬車を進める。馬もゾンの意思を汲み取ったのか、器用に避けている。

 ―ガラガラ……

 そして何事もなかったかのように通過。

「うむ。町に着いたら人参を奮発しよう。」
「ヒィヒィン!」
「……ゾンは馬と喋れんのか?」
「分かるわけがないだろう。気持ちだ気持ち。」
「あーそっか。」

 ゾンはたまに分からない。変なところで自信があったり、度胸も俺が驚くくらいある。だけど冷静で見た感じじゃ、何を考えているか分からない。町では不思議ちゃんだって噂があったくらいだ。

 まぁそんなやつだから、俺は誘ったんだが。

「どうかしたか?」
「いや、なんでもない。」
「そうか。」
「って待てコラー!」

 後ろから叫びながら男が走って馬車を追いかけてくる。忘れてたぜ。

「道端で人が倒れてるのに、素通りか?しかも避けずに上を通るかね!?」
「動かなければ平気だと言ったはずだが?」
「言えば良いってもんじゃねえ!」
「ではどうすればいいんだ?」
「助けるだろ普通?」
「町から離れたこの場所で。剣や杖などの武器もなく、特に汚れが目立つわけでもない軽装な人を?」
「っぐ。」

 男が言葉に詰まる。まぁ俺でもおかしいと思ったからな。ゾンの場合は人を観察して、その上で冷静に判断する。だから頼れるんだよな。

「くそ!こうなれば過程なんてどうでもいい!」

 ―ピィー

 指笛で木の木陰から人が出てくる。

「やっぱり盗賊か……」
「アマン。掴まれ。そこの人、今度は退かなきゃ死ぬぞ!」
「な!?」
「っは!!」

 ―パカラ……ギギ。

 目の前にいた男は全力で横っ跳び。ギリギリのところで当たらないで済んだみたいだ。

「っち。今度は轢いても良かったのにな。」
「怖いこと言うなぁ……」

 たまにゾンは大胆になる。

 しかしこの状況は……町までかなりある。その上こっちは馬車で、魔物の素材も載っている。さっきの男は違うが、それ以外は騎乗している者も見える。

「どうすんだ!?」
「逃げるしかないだろう。」
「何か策があんのか?」
「そんなものはない。アマンの運に賭けただけだ。」
「そのベットは、博打すぎやしないかい?」
「ははは。かもな。しかし捕まれば 命の保証はないだろう。」

 俺達は一本の道をひたすら走る。その先にある何かを信じて…………

  ︎

 空を飛び始めてどれくらいが立っただろうか。魔王城の城下町から適当に南下した。

「途中の山には驚かされたな。まさか龍が本当にいるなんて……ルビーではなかったし、先を急いでたから無視して来たけど大丈夫だったかな?」

 始めは少し追いかけて来たけど、距離が離れてからは追いかけて来なかった。

 山を越えると、そぐに王都に着いた。魔王城と王都って意外に近かったんだね。まぁ目的はここじゃないから、冒険で辿った道を最速で逆走する。

「……色々あったなぁ。そんな長い時間ではなかったけど、凄く充実してたんだな。」

 そしてある町の上を過ぎる。

 キラービットのいた山に【ネクタース】の町。

「急ごう。」

 ここからは盗賊が出会ったところからそんなに離れていない。

 …………いた!

 馬車が盗賊達から逃げている。2人は無事なようだ。

 ―ヒュン!

 空から一気にその間に割り込む。

 ―ズシィィィン!

「速度を殺すの忘れてた。」
「止まれ!止まれ!地割れだ!」

 両者ともに止まる。

「煙い……風よ。」

 ―ビュン!

「これで見やすくなったね。」
「あんたは……」
「やはりアマンの運に賭けて正解だったようだ。」
「2人とも無事で何より。」

 俺を見て安心したような顔をする2人。

「何だお前は!?」
「俺は…………」

 俺は2人の何だろう?今は出会って2回目。昔は仲間と答える事が出来たけど。

 ……悩む必要もないな。

「俺は2人の友人だ。そしてこれから一緒に旅をする仲間だ……いいかな?」
「勿論だ!」
「あぁ。こちらからもお願いしようと思っていた。」

 俺は2人の仲間を守る。そう決めた。

 俺の旅はここから始まるんだ。

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