無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

148話 出会いの順番で変わる者

 という訳で、プリン婆ちゃんの部屋に移動。

「部屋?」
「はっはっは!お前もそう思うよな。これじゃ闘技場とかコロシアムだよな。」

 大笑いするクリーブラン。俺もその考えに同意だ。

「魔王様、こちらに。」
「うん。ありがとう。」

 ディアンは観客席のような所に魔王を座らせている。

「あれが魔王か。」
「魔王様な?魔族なら上の人間には様をつけろよ。」
「別に俺は魔族じゃないし。」
「またまた。そんな也で魔族じゃないとか。」
「見た目は関係ないでしょう?」
「まぁ強ければ何でもいいか。」

 クリーブランが深く考えない性格で良かった。色々と説明するのは面倒だ。

「開始しても宜しいでしょうか?」
「うん。」
「それでは始めてくれ。」
「いよいよか!そんじゃいくぞ!」

 腰にしていた黒い剣を抜くクリーブラン。俺は丸腰なんだけど、気にする様子もない。

「作ればいいか。アースオペレーション。」

 ―ズゥン!

「そんな目隠し……俺には意味がないぜ!オラァ!!」

 ―ガキン!

 地面から突き出た岩ごと斬りつけた。と言っても表面に当たっただけで、岩はびくともしていない。

「目隠しでも攻撃でもないよ。これは……」

 ―ビキビキ……バリィィン!

「土の剣。丸腰じゃ格好つかないからね。」
「魔法剣!?おもしれー!」

 ―ギィン!

 剣も出来たし、始めるとしよう。殺さずの戦いを……

  ︎

 なぜ僕はここに居るのだろうか。今日は屋敷の探検しようと思ってたのに。

「ねぇディアン。帰りたい。」
「なりませんよ魔王様。プリンシピオ様が見ろと言うのには、きっと理由があるはずです。」
「何もないって〜婆ちゃんは部屋から出したいだけだよ。」
「それでもです。」

 ディアンは真面目なんだよなぁ。僕が魔王だからか、それらしく振る舞わないといけないとか。何かには理由があるって口癖なんだろうな。人はそんな深く考えていないと思うんだ。特にクリーブランやヴィクトリカはその場の思いつきで行動している。今も……

 ―ギィン!ギィン!

 僕でも分かる。真正面から勢いを殺さない様に、全力で振り下ろすだけの剣。軽くて丈夫な剣をあげたんだけど、どうもクリーブランには合っていない気がする。

「いつにも増して真っ直ぐな剣だね。」
「そうですね。アイツにフェイントや駆け引きなんて、出来るはずもありませんから。」
「ディアンはこの戦いをどう見る?」
「力量は明らか。守りの剣と言えましょうか、あの人に傷をつける事は私でも難しいでしょう。」
「守りの剣か……技術もだけど。あの人どんな力してるの?クリーブランって魔界じゃ力は1番強いんじゃ?」
「そう言われてみましたら……」

 さっきからあの黒い人は、攻撃を受けたり流したりしている。持ってる剣は土の魔法剣だったなぁ……見た目はごっつい両手剣だけど、軽々と片手で操っている。見た感じは僕と変わらない体型なのに、どこにクリーブランの剣を受け止める力があるんだろうか。

 始めは部屋に帰りたいと思っていた僕だけど、気がつけば食い入る様に観ている。

  ︎

 試合が始まり早いのか遅いのか、視界の端にプリン婆ちゃんが戻ってきた。その手にはあの時見た本が握られている。魔王様から隠している様だけど、魔力を帯びているからか隠しきれていない。

「コレクト……」
「おっと!?びっくりしたねぇ。」

 プリン婆ちゃんの近くにコレクトで空間に穴を空ける。

 大丈夫と手で合図しておく。プリン婆ちゃんはその中にポイって魔書を投げ入れた。これで目標達だ。

 ―ギィィン!

「よそ見とは余裕だな。」
「こっちにはこっちの目的があるからね。」
「そのおかげで戦えるんだ。わがまま言っちゃいけねーな!」

 ―ギィン!

 プリン婆ちゃんから目的の物を回収。もうここにいる理由はなくなった。戦いを途中で終わらせるのもなぁ……クリーブランは力だけはあるんだけど。剣が素直すぎるから、受けるのもの簡単なんだよな。

「それじゃ、少し早くするよ。ついて来てね。」
「むぅ?」

 ―ギィン!ギギン!ギーン!

「お?おぅ?おわ!?」
「……っし!」

 ―キィィン!

 クリーブランの剣を弾き、勝負を決める。

「これで俺の勝ちだよね。」
「強いとは思ってたが。まるで歯が立たんとは……」
「クリーブランは剣が素直すぎる。小手先の技術も必要だよ。」
「世界は広いんだな……遊んでる暇はないな。」

 そう言うとクリーブランは部屋を出て行こうとする。

「どこに行くの?僕に用があったんじゃ?」
「すまない魔王様。人間界に行く前に鍛え直してくるぜ!」

 ―バタン!

 クリーブランは慌ただしくこの場を後にした。

「アイツはまた勝手に……」
「良いじゃないか。やる事が出来たんなら。」
「まぁ騒がしいよりは……。」
「それじゃ僕も失礼するよ。」

 席を立ち降りてくる。

「君の戦いは観ていて面白かった。どこか物語に出てくる勇者の様で……」
「俺はそんなんじゃないですよ。」
「そうかな?いつか僕をやっつけにくるんじゃないの?」
「それはないよ。魔王様が今のままなら……」
「今のままなら?」

 首を傾げる魔王。今は分からなく良い。

「坊やはこの後どうするんだい?」
「そうだな……せっかくだからウイユさんにも会って行こうかな。」
「それは誰なんだい?」
「ウイユさんだよ?このお城にいるんじゃ?」
「ウイユ?そんな者はいないぞ。」
「え?」

 ウイユさんがいない?魔王城のメイドをやっているんじゃないのか?

「少し街を探してみるか。プリン婆ちゃんはどうする?」
「私は自由にさせてもらうよ。せっかくここまで来たからねぇ。」
「そっか。ここまで一緒に来てくれてありがとう。またいつか会いに行くよ。」
「差し入れ忘れんじゃないわよ。」
「はは。気に入ってくれたみたいで何より。次は何を持ってくるか考えておくよ。」
「外まで送ろう。」

 ディアンに送ってもらい魔王城を後にする。

 関わる順番や出会い方で、人との関係はこんなにも変わるんだと思った。

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