無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

143話 戦う理由は……

 魔王城は跡形もなく無くなった。


「結界あったんじゃ?」
「あの威力でしかも光属性だろう?」
「オーバーキルもいいところだわ。」


 3人で眺めていると後ろから魔族達の声がする。


「どうするの?魔王はいないし、後ろから声するのは兵士でしょ?」
「アイさんと連絡出来ないと、転移魔法が使えな……」
『忍様!魔王がラストラ邸に!至急お戻りを!』
「ラストラの家に!?入れ違いか!2人とも戻るよ!」
「「え?」」


 2人の手を掴み、ラストラの家まで転移する。


 ―ゴォォォォ!


 目の前に飛び込んできたのは、さっきみたような光景。ラストラの屋敷が火に包まれている。


「ルビー!」
「屋敷は任せなさい。」
「すまない。」


 視界を巡らせ仲間を確認する。


「シノブさん!?」
「ハイヤー!皆は?」


 ハイヤーの背中にはおぶられたウイユさん。


「ウイユさん!?」
「彼女は平気です。私が安全の確保をしているだけです。それよりラストラのところへ!レブルさんが!」
「レブルに何が!?」


 ―ギン!


 剣の音がする。音の方を見ると魔王と戦う……エスト。


 ―ザブン!
 ―ザン!


「小賢しい。」
「前だけ見ていて下さいです!」
「ええ!」


 エストとセローが魔王を引きつけているように見える。


 でもエストがいない。彼女なら真っ先に皆を守る為に前に……


 嫌な予感がして、ラストラとレブルを探す。
 泣き声が聞こえてくる。キラキラした光の中に居たのは……


「レブル!!!」
「わた……がふっ。」
「レブル喋るな!ラストラどうにかならないの!」
「治癒が効かないの。血が止まらないの……。」
「エストを……死なせ……ない、で。」
「分かったから。」


 こんな時にもレブルは仲間を守れと言ってくる。血塗れなレブルの手を握る。


『忍様!魔王の魔力が邪魔をしているようです!』
「なら、魔王を倒せば!?」
『可能性はあります。』
「ラストラ。悪いけどもう少し頑張って。」
「ですがもう魔力が……」
「分けるよ、ディストリビュート。」


 ラストラに魔力を分ける。


「魔力が元通りに?でもシノブさんはこれから戦うのに。」
「大丈夫。時間は掛けるつもりはない。」
「忍……これ。」


 レブルが剣を差し出してくる。僕はそれを受け取り、ラストラにレブルを任せて魔王の元へ急ぐ。






 ―カァァン!


「しまった!」
「エスト!」


 魔王の攻撃で剣が宙を舞う。追撃されないようにセローが、すかさず魔法を撃ち込む。


 ―ザバァァン!


「ふん!諦めが悪い。これで……」
「終わらせたりはせん!」


 ―ガキン!


「硬いな。」
「龍だからな。」


 トパーズが間に割って入り、攻撃を受けてくれる。


「ありがとう。」
「これぐらい大したことではない。」
「トパーズ!そのまま抑えてて!!」
「来たか……」


 ―ズズ……


 トパーズが掴まえていたが、黒い霧になって逃げられる。


「むぅ。またそれか。」
「トパーズ!肩借りる!」


 ―トン!


 トパーズの肩に足を掛け跳ぶ。


「そこだ!」


 ―ザシュゥゥゥ!!!


「ぐぅあ!?」


 黒い霧から魔王の形へと戻る。


「なぜ!分かった!」
「そんな馬鹿でかい魔力を撒き散らして、ばれないわけがないだろう。」
「っくそ。」
「悪いが休んでいる暇はないぞ。早くお前を殺さなきゃいけないからな……」


 ―ザシュ!


「この、私にダメージを!?」
「師匠!レブルが!」
「分かっている。2人は下がってて。こいつはやる。」


 ―ザシュ!ザシュ!


「馬鹿な……馬鹿な……馬鹿なぁぁ!!」


 あちこちに黒い塊を投げつける魔王。それが樹々に当たると黒い炎と共に燃え上がる。仲間の元にも飛んでいくが、トパーズやルビーが中心に守ってくれている。


「有難い……これでお前だけに集中出来る。」
「来るな!なぜだ!我は最強の……斬れる訳が!?」
「これはレブルに渡した剣。炎へ変えていたが、そもそもは光属性の魔力を纏めた剣。」


 ―ザシュ!


「嫌だ!我は……」
「お喋りは聞いている暇はない。終わりだ。」
「嫌ダァァァァァ……」


 ―キラ、ズバァァァン!!!


「我は……死な…………」


 黒い霧が天に昇る。念には念をと霧を斬る。手応えはなく、振るった剣は空を斬る。






「これでレブルも……」






 ラストラを見る。今もキラキラしていて、治癒は今も続いている。


「ラストラ……」
「……ぐす。ごめんなさい。」
「何を謝って…………」
「僕の力じゃ……足りなかった。」
「それって……レブル?」


 ―カラン。


 剣を捨て、レブルの手を握る。ぎゅっと握っても、レブルから握り返してくる事はない。


「っく……俺は一体、何をしていたんだ。何の為に戦って……」
「ふえぇ……レブル。」


 ラストラの鳴く声に仲間が集まって来る。


 僕はその中から1人抜けて歩き出す。


『忍様。』
「アイさん。ごめん、今は1人に……」
「……忍様。」
「アイさんも今は1人……この声?」


 目の前にいるのは涙を流すウイユさん。


「忍様。ようやく気づいて頂けましたね。」
「アイさんがウイユさん?」
「はい。」


 今じゃなければきっともっと喜んでいただろう。何でこのタイミングで……


「忍様。お話ししたい事があります。」
「……ここじゃあれだから。向こうで。」


 俺はウイユさんを連れて、皆から離れる。

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