無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

136話 危険な魔導書③

 結界を破って魔王城に。瓦礫を進むと上に上がる階段が……


「こりゃ上に上がるのは飛ばなきゃ無理そうね。」
「む。龍になるのか?」
「飛べる人で運ぶから大丈夫だよ。」
「私はプリンばぁちゃんを運ぶね〜」
「すまないねセローちゃ……ひゃぁぁ!?」


 ―ザバァン!ッザッザッザ!


 プリンばぁちゃんが奇声を上げて、セローに運ばれていく。それじゃ僕は……


「プリンシピオ様が上に着いたら私達も行きましょう。皆様、私におつかまり下さい。」


 メイドさんはそう言うと僕の手をとる。その肩に龍2人とハイヤーが触れて、もう片方の手にレブルが手を繋いでくる。


「それでは……シャドウムーブ。」


 ―ドボン。


 地面に吸い込まれた感覚の後、急に浮遊感を感じる。


 ―ザバァン。


「ウイユのそれがあるなら、私が運ばれなくても良かったんじゃないかい?」
「申し訳ありません。私が潜れるのは魔族の方のみでして。」
「そうなの?それなら仕方がないねぇ……」


 今、メイドさんが嘘をついた。なんでか分からないけどそんな気がする。
 僕に気づいたメイドさんが、そっと口に人差し指を当てる。大丈夫言わないよ。僕は首を横に振って答える。


 そして何事もなく魔王のいる扉前まで辿り着く。


「ここまで護衛も誰も居ないんですね。」
「護衛ならシノブの前に居るじゃないか。」
「え?」


 キョロキョロするとプリンばぁちゃんが指を指す。


「まさかメイドさん1人?」
「他に下で寝ているのが居ます。」
「それでも2人?魔王様なんでしょ?少なくない?」
「有事の時は四天王を呼びますので、戦力的には問題なかったですね。」


 このメイドさんはどれだけ強いのだろうか……プリンばぁちゃんが何も言わないところをみると、嘘を言っている訳でもないだろう。
 メイドさんはその話が終わると、何も言わずに扉の前に立つ。


「ここより先は何が起こるか分かりません。皆様、ご準備を。」


 ―ギィ……


 扉が擦れる音。日の光が扉から溢れる。


「ウイユか。とうとう動きおったか。」
「魔王様……」


 玉座に怠そうに座る黒髪の青年が1人。全身を黒一色のローブに真っ赤に燃える紅の瞳。
 誰もがその場を動かず様子を見る中、1人ズカズカ歩く人。


「随分と大きくなったじゃないか。ビット坊や。」
「ふん。プリンシパル……まだ生きていたのか。」
「態度までデカくなったかね。」
「もう怯える必要もないからな。」
「やっぱり……魔導書はどうしたんだい?」
「これか?」


 手に出した一冊の本。赤くドス黒い魔力が溢れている。


「それは捨てた方が身のためだよ。」
「まだ半分も読んではいないのだ。最後まで読んだら考えるさ。」
「そうかい……」


 ―ヒュン。シュバ!
 ―ッス。
 一瞬で魔王の前に移動したプリンばぁちゃん。本を奪おうと手を伸ばしていたが、簡単にその手を躱す魔王。


「手癖の悪い婆さんだ。」
「良い子だから渡しな。」


 ―シュババババ!
 ―ッススススス!


 手が何個も増えたみたいに見えるくらい早い。しかしそれでも魔王の本は奪えそうにない。


「いい加減……」
「む!」


 ―ボォォウ!


 黒い炎がプリンばぁちゃんに向かう。


「やれやれ……半分しか読んでいないのにこの威力かい。」
「プリンばぁちゃん大丈夫!?」
「大丈夫だよセローちゃん。しかし困ったねぇ……」
「ばぁちゃん…………?」


 プリンばぁちゃんとセローのやり取りを見つめる魔王。表情が一瞬柔らかくなった様な?


 ―ボォ……ボボボゥ!


 黒い火の玉が魔王の周りに出来る。


「ばぁちゃん下がって!水玉!」
「ほぅ……そんな魔法で私に立ち向かうか。」
「ただの水玉じゃないんだから!」
「確かめてみようか。」


 ―ボォォウ!
 ―ジュゥゥ!


 黒い火の玉を包み込むセローの水玉。小さくなりつつも、完全に黒い火を消す。


「口だけではない様だな。」
「当然だよ!どんどんいくよ!」
「調子に乗るでない。」


 ―ボォォウ!!
 ―ジュゥゥ!


 今度は黒い炎が小さくなりつつ、水を全て蒸発させた。


「やるね魔王様。」
「ふん。貴様に言われても嬉しくない。」


 どっちもどっちだけど、少し和やかな空気が流れる。しかしプリンばぁちゃんもメイドさんの顔は厳しいままだ。


「この状況まずいの?」
「はい。早くあの本を奪わないと……」
「どうなるの?」
「誰も敵わなくなります。」
「そうなれば終わりかしら。セローちゃんに気を取られている間に、行くよウイユ。」
「はい。プリンシピオ様。」


 そっと近づくプリンばぁちゃんに影に潜んだメイドさん。僕はその状況を見守る。


「忍?私達は何もしなくてもいいのかしら?」
「それ僕も思ってた。でもなんか僕とレブルの事をずっと見ているんだよねアイツ。」
「忍も感じていた?凄く警戒されてるわよね。まだ何もしてないのに。」
「そうだよね。本当にヤバいなら動くよ。それまではセローと僕らに視線を集めておく方がいいよね。」


 僕とレブルがセローと対象になる様に歩く。龍2人は動かずハイヤーの前に立ち並ぶ。


 ―ズズズ……


 何かが床を這う。


 凄く小さな魔力。


 感じ取られない様に大きく魔力を使い隠す。


 ―ズズズ……


 プリンばぁちゃんとメイドさんが魔王の前に現れた。


「それは読めていたぞプリンシピオにウイユ!」
「っち。感の鋭い坊やだ。」
「プリンシピオ様。下がりましょう!」
「おらおらー!負けないんだから!」


 ―ボォォウ!!
 ―ジュゥゥ!!!


 3人の攻防に椅子に座ったままの魔王。余裕そうな顔は崩れる事なく座り続ける。


「ウイユを隠す為か、そこの2人が強い魔力を放っていた様だが。無駄に終わったな。」
「すまんね。手伝ってくれていたみたいなのに。」
「いえいえ。別に僕は何もしてないですよ。僕はね……」


 ―ズズズ……パシ!


「何ぃ!?」


 床から黒い手が伸びて、魔王の持っていた本を床にはたき落とす。


 ―パシ。


「キャッチです。」
「返せ!それは私のだぞ!」


 ―ッババ!


「ここから先は……」
「誰も通さないわ!」
「それ我のセリフ!」
「別にどっちでもいいじゃない。」


 本を運ぶ手を追いかける魔王。その進路に立ち塞がる龍2人。


「龍族か……なんと面倒なものを連れてきやがって。」


 皆が力を合わせて魔王を椅子から離す事が出来た。本はハイヤーの手の中に……


 ―サァァ……


 本が黒い砂になり床に飛び散る。砂が魔王に向けて飛んでいく。


「主人が分かっているんだな。本にしては大したもんだ。」


 その砂を手にしようとした魔王。手の中に戻る事なく、魔王の手を這い首元まで延びていく。


「なんだ?これはどう言う……何かが流れ込んでくる!?」
「まずい!あの砂を止めるのじゃ!」
「っく!魔王様!」


 2人が魔王に近づくも、黒い砂は魔王を包み込み行く手を阻む。


 完全に見えなくなるまで大きくなった黒い砂。僕らはそれを眺める事しかできなかった。

「無敵のフルフェイス」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く