無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

134話 危険な魔導書①

 ピリつく空気が続く中、痺れを切らせたディアンが席を立つ。


「そうも言ってられないんだ!先程も謎の集団が魔王城を襲ったんだ。」


 声を上げて必死にプリンばぁちゃんを説得している。


「へぇこのご時世に、魔王城を攻撃する奴がいたんだね。どんな相手なんだい?」
「龍に乗った魔道士で、うちの王都部隊を半壊させていなくなったんだよ。目的も分からんから、魔王様も怯えてしまってな。」
「龍に乗った魔道士ねぇ……」


 プリンばぁちゃんが僕に目線を向ける。


「龍に乗った魔道士……お前か?」
「龍には乗ってたけど、攻撃されただけで襲った事はないよ?」
「そうか。ならば違うのか……って、龍に乗る者がそんなポンポンいる訳なかろう!何故攻撃した!?」
「攻撃されたから迎撃はしただけだよ。目的は仲間の捜索だったけど、もう見つかったから魔王城には用ないかな。」
「はぁ……これをどう説明すれば。」


 頭を抱えるディアン。


「ん……」
「あ。レブルが起きた。」
「もう大丈夫と言っても、根拠がないだけに聞いてはもらえんだろう……そうか!直接当事者に弁解を!」
「目的の人ならいないよ。」


 ディアンを放っておいて僕はレブルの元に行く。敵であるわけだし、なんの問題もない。


「忍?ここは……なんか凄いところに寝てるんだけど?」
「少し酔って寝ちゃったから、簡単にだけどベットを作った。」
「屋根がないけど外に……って家が崩れてる?なんで?」
「トパーズが壊した。」
「シノブよ。それでは我が故意に壊したように聞こえるぞ。不可抗力だと伝えてくれ。」


 トパーズが上から弁解を入れてくる。


「そうなの。でも壊したのが私じゃなければどうでもいいわ。」
「お主はシノブの腕を壊そうとしていたがな〜」
「え?」
「大丈夫だよ。折れてないから!」


 魔ルーラからの家崩壊までの説明する。すると顔がどんどん赤くなり、布団で顔を隠すレブル。


「師匠。もう行く?」
「そうだね。レブルは起きたし。ルビーは?」
「もう平気よ。なんだか凄くスッキリしてるわ。」
「あれだけ吐けばのぅ……」
「それじゃ、プリンばぁちゃんも行こうか。何か荷物ある?」
「全部瓦礫の下だわ。衣食住なんか後でどうにでもなるわ。」


 作ったベットを土に戻してお片付け。崩れた家は……そのままでいいと、プリンばぁちゃんに言われた。


「よし行こうか。」
「待ってくれ!頼む!魔王様に弁解を!」
「え〜そこまでする義理はないよ。」
「この前の戦闘の件は謝る。だからどうにか……」
「謝る?そんな事されてもハイヤーの腕は戻らない。」


 冷たい目で睨むセロー。


「腕に件であれば、もういいのですよ。セローさん。」
「でもハイヤー……」
「この様に新たな力で腕は問題ありません。」


 ハイヤー切れた腕から黒い手が生えてくる。


「なにそれ?」
「腕ですね。魔法で作りました。これがなかなかに使い勝手が良く、無くならなければ出来なかったので。むしろ感謝します。」
「腕切られて感謝?ん?師匠?」
「とにかくハイヤーは大丈夫って事。セローが責任を感じなくて良いよって言いたいんだよ。」
「シノブさん。言葉に出されると恥ずかしいですね。」
「そっか……」


 責任を感じなくて良いと言うと、少しセローがガッカリした様に見えた。


「それはそれ。あとはセローの思うように行動すれば良いのよ。」
「うん。頑張る。」


 レブルがフォローするとセローは顔を上げる。何を頑張るか分からないけど、さすがはレブルって事にしておこう。


「と言う訳だ。あとは自分で頑張んな。」
「そんな……このままじゃ、魔王様が変な魔術使ってしまう。」


 ボソッと言葉にプリンばぁちゃんが足を止める。


「変な魔術ってなんだい?」
「ん?分からんが、魔王様が倉庫から凄い魔術書を見つけたようでな。何が書いてあるか教えてくれんのだ。」
「…………その魔術書は何色だい?」
「色は赤だが、プリンシピオは知っているのか?」
「まさかあの本が……しかしあれは封印していたはず。」


 難しい顔でプリンばぁちゃんが唸り始める。


「プリンばぁちゃん大丈夫?顔色少し悪いよ?」
「気になることがあって……もしそれが封印した魔導書であれば、止めなければまずいかも知れん。」
「まずいってどれくらい?」
「魔界がなくなるかも知れん。下手をすれば人族の国も……」
「「「え?」」」


 全員がその言葉を聞いて驚く。


「師匠!」
「セローがお世話になった人だし。行こう。」
「うん!」
「行ってくれるのか?しかし、魔王城まで距離があるぞ。この時間からだと……ディアン、お前は先にお行き。ビットの坊やに魔導書を使わせるんじゃないわよ。」
「来てくれるのか!助かる!頼んだ!」


 ―ズズ……ポチャン。


 影に吸い込まれるようにディアンが消えた。


「今は一刻を争うかも知れないわ。そこの龍は飛べんのかい?」
「ん?我は飛べるぞ。」
「私も行けるわよ。」


 ―ボォン……


 ルビーが龍の姿になる。


「速いのどっちだい?私を乗せて行って欲しい。」
「速さなら私かな。気分も良いし、飛ばしちゃうよ。」
「すまんがお願いできるかい?セローは師匠と向かっておくれ。」


 話がとんとん拍子で進んで行く。僕が言葉を挟む隙がない。


「プリンばぁちゃんストップ!」
「なんだいセローちゃん。急がねば大問題に……」
「師匠。魔王城って行ったんだよね?」
「行ったよ。」
「そしたら師匠の方が速いよ。」
「まー飛ぶより速いけど。アイさんが連絡取れないから転移は出来な……」
『忍様!』
「あ、繋がった。アイさん、魔王城の近くまでの座標拾える?僕は行った事あるんだけど。」
『問題ありません。いつでも行けます。』
「それじゃ、手を繋いで。」


 手を繋げない龍の2人は片手が空いた人が触れる。準備は出来たね。


「こんな事してるより、早く…………」


 プリンばぁちゃんの言葉が途中で途切れる。






「飛んで行った方が……?」
「魔王城は入った事ないけど。町の前まで来れれば、すぐそこだよね。」
「ここは……レーダビット?今のはなんだい?」
「転移魔法だよ。アイさんがいないと出来ないけど、連絡取れたからね。ありがとうアイさん。」
『…………』
「あれ?また聞こえなくなった。」


 魔王城との相性が悪いのか、アイさんの声がまた聞こえなくなった。だけど一瞬繋がったおかげで、ここまで来れた。


「ほら、ここからは2人の出番だよ。街を走るよりは飛ぶ方が速いからね。」
「「あーはい。」」


 僕らは2人の龍に乗り、向かうは魔王城。今度は攻撃されませんように。

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