無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

126話 奥の手ですから。

 剣士数人を前にハイヤーが立ち塞がる。


 いつものハイヤーであれば、何も心配もなかったんだけど。今は利き手がない状況だ。


「あの手になってからの初めて見る戦闘ね。大丈夫かしら?」
「相手の実力はそこまで高くないから、手を使わないでもなんとか出来そうだけど。」
「それよりあの黒い魔力よね。あんなに吹き出してどうするつもりかしら。」
「もしもの時はフォローする様に……」


 黒い煙がハイヤーの右腕に巻きつく。


「シャドーハンド。」
「影の手?」
「器用な事するわね。」
「では、肩慣らしに付き合ってもらいます。」


 ―シュン。


「消えた!」
「いや、上だ!」


 声に合わせてみんな上を向く。


「なんであの人達は上なんて言ったの?」
「消えたら上って、言いたかったんじゃないかな?」
「下にいるのに?」
「言わない方が……。」
「あ。」


 全員が下を見る。


「レブルさん。」
「ごめんハイヤー。」


 バレたからと言ってハイヤーは慌てない。目と鼻の先まで近づいているから、問題もないって事なんだけど。


「こんなところに!しかし丸腰で何が出来る!」


 ―ブン!
 ―ガシ。


「なんだと!?素手で掴んだ?」
「うまくいきましたね。あとは……」


 ―ビキ……バキン!


 ハイヤーは剣を握り、力を入れると綺麗に折れた。


「嘘だろ!?」
「このまま次にいきましょう。」
「隙だらけだ!」
「そうでもありません。」


 左から剣を構えた兵士が剣を振りかぶる。


 ―ガシ。ビキ……バキン!


「嘘だろ!」
「実態のない影。右も左も関係ありません。」


 右手の影は伸びる。左から来た兵士の剣を掴み折る。


「くそ!お前らどんどん行け!」
「囲め囲め!」


 剣を折るハイヤーに対して、四方八方から迫る兵士だったが。


「シャドーハンド……ブレイク。」


 真っ直ぐ伸びた手は、相手の前で裂けたように分裂した。


「ぐぇ。」
「がはぁ!?」
「のぉ!」
「うはぁ。」
「手が一つとは限りません。」
「なんでも……」
「ありかよ……」


 ―バタ、バタ、バタ、バタ。


 懐に拳をくらった兵士達は、次々と倒れていった。


「私が言うのもあれだけど、ズルくない?」
「あれを躱せない方が悪いでしょう。」
「まぁそうなんだけど。あれは私でも回避はギリギリかな。」
「僕も回避は出来るかも知れないけど。反撃はできないだろうな……ズルくない?」
「でしょ?」






 そしてレブルと話していると、剣を持った兵士は1人もいなくなった。


「終わってみれば呆気なかったわね。」
「フォローもいらないね。あんな戦い方があるなんて。」
「お待たせしました。如何でしたか?」


 ハイヤーが感想を求めてくる。


「驚いたよ。あんな戦いが出来るなんて思いもしなかったよ。」
「忍や私とも違う戦い方よね。今度、手合わせお願いしたいわね。」
「私もどこまで通じるのか試してみたいですし、手合わせは願ってもないです。」
「さっきの相手じゃ役不足だもんね。」


 周りの視線が僕らに集まる。


「ちょうどいいや。この町で偉い人は誰かな?」
「ひぃ!」
「君かな?」
「違います。」
「じゃぁ貴方?」
「違います!」


 みんなが目を逸らす。その目線を辿ると、1人の兵士に集まる。その兵士に歩み寄る。


「あぁ俺の剣が……新調したばっかりだったのに。」
「貴方がこの町で偉い人?」
「え?兵士長兼町長やってま……すぅ!?」


 尻餅を着いて僕から後退る。


 ―ザッザッ、カツ。


「へ?」
「大丈夫でしょうか?」
「紫色の……黒い手の人!?」


 ―ザッザッ、カツ。


「ほへー?」
「足踏んだわよ。」
「あの、その……」
「あ?」
「ごめんなさ……」
「ちょっとどこ行くのさ。」


 走り去ろうとした兵士を捕まえる。


「黒い騎士?」
「君に……」
「ひぃ!って赤に紫!?囲まれた!」


 慌てる兵士がおどおどしながらも、逃げ道はないかと目を必死に動かす。


「聞きたいことがあるんだ。ここ最近青い髪で水魔法の使い手で、セローって女の子を見なかったか?」
「し、知りませんです!」
「それじゃ、言伝頼んでいい?」
「言伝ですか?なんで私が……」
「貴方、兵士長で町長なのよね?」
「そうですけど。」


 レブルは空に飛ぶ龍2体を指差す。


「龍が?あれ幻覚じゃないのか?なんでこんな所に……」
「私達を乗せてくれているの。」
「龍に乗る?そんな人がいる訳……」
「忍、ハイヤー先に戻ってて。話は私がつけるから。あ、転移はダメよ。飛んで乗るところを見せて。」
「あーうん。分かった。」


 レブルに言われた通りに僕とハイヤーで地龍の背に戻る。


 交渉はハイヤーに任せた方が良かったけど、最後のレブルには何か任せた方がいい感じがした。


 地龍の上でレブルを待つ。しばらくするとレブルが戻ってくる。


「バッチリよ。さぁ次行きましょう。」
「ばっちり……ね。」
「「「……。」」」


 建物が一つ燃えているけど、見なかった事にしよう。

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