無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

113話 瞬足な騎士達。

 どうした訳か。町に到着するとまずは戦闘になる。


「今は町の人と戦ってる場合じゃないと思うんだけどなぁ。」
「どうかされましたか?」
「地龍が出るかもしれないって時に戦うのってどうなのかなって。」
「そうかもしれませんが、違う目的があるのかもしれませんよ。」
「ハイヤーが思う違う目的って?」
「私達は突然来た未知の戦力。それが戦いにどう言う影響を与えるか。それを知っておきたいとかですかね。」


 成る程ね。確かにいきなり来た戦力かどうか分からない人達が来たら、その実力を知りたくなるのも分かる気がする。


 それなら2人の素の戦闘力って言うより、パーティとしての立ち回りを見てもらうべきだよね。


「これって個々の力を見るって言うより、パーティとしての2人の戦い方でいいんだよね?」
「なんでもいい。どうせ形だけなんだろ?」
「そう。それならそれでいいや。」


 なんでもいいと言われたら、2人の最大限を見てもらうべきだよね。


「少し手加減して戦おうかと思ったけど。」
「あぁ!?そこの黒いの!俺らを舐めてるのか!」
「あーそんな事はないよ。怪我させたら問題じゃない?って事。」
「「あぁ!?」」
「シノブ。それは逆効果だ。」
「そうだぜ。戦うのは俺らなんだから、余計な油は注ぐなよ。」


 よく分からないけど。相手の温度感が上がったようだ。僕はおかしな事を言ったかな?まぁいいや。


「そしたらアイさん。昨日のレブルと同じ強化を。」
『畏まりました。エリアコントロール、マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール……リンク。』


 パーティみんなに僕の強化した魔法が纏う。


「何これ?私達まで何かに覆われた感じがするんだけど。」
「エストもだけど、実験って意味でみんなにかけてみた。効果時間とかも知っておきたかったし。」
「なんか不思議な感じがするっす。体が軽いって言うか、ふわふわした感じが。」
「ラストラ。先に言っておくけど。いきなり動かない方が良いわよ。むしろ戦わないのなら動かない方が……」
「そんな事を言われたら、俺はどうすれば良い?」
「ゾンは……アイさんが教えてくれるわ。」
『わ、私ですか!?』


 みんなが強化に少しだけ慌てる。うん、ぶっつけ本番じゃなくて、1度試して正解だったね。コレでみんな慣れてくれる。そして説明を振られたアイさんが、少し慌てて意外だった。


『それでは昨日のレブルを見て、私からのアドバイスを……』
「助かります。俺はまず何に気をつければ良いですか?」
『そうですね。まずは抜刀する時ですが、想像の1,000倍ほど遅く行って下さい。』
「1,000倍遅くですか?」
「おい!いつまで喋っている!とっとと始めるぞ!」
「あ、はい。よろしくお願いします。」


 ―ビュン!!!ブワァ……


 ゾンが軽く頭を下げると、その勢いで風が通り抜けた。


「な、なんだ今の風?」
「多分、ゾンがお辞儀したからじゃない?」
「まさかレブル。そんな訳が……無いよな?」
「「「……」」」


 レブル以外の仲間達がピタリと動かなくなる。


「っけ。風ぐらいで何騒いでる?来ないならこっちから行くぞ!」
『ゾン来ますよ。構えて下さい。』
「少しくらい慣れたかったのだが。仕方がない。」
『まずは抜刀を。この線をなぞるように。』
「線をなぞるように……」


 ―ッシュ、ビュゥゥン!キィィン。


「なんだこりゃ!!」


 刀を抜刀したゾン。あまりの速さにまたもや風が通り抜ける。


「しまった。ゆっくりしなければいけなかったか。」
「いてて……この騎士は刀と風魔法の使い手だったか……しかし!分かればどうとでもなる!」
「お、おい!剣を見てみろ!」
「は?剣を見ろって……あれ?俺の剣、こんな短かったっけ?」


 ゾンの速すぎる抜刀による風が、真空波を生み出し相手の剣を斬っていた。慌て始める相手に対して、ゾンは……


「ゆっくり動かす。シノブと同じくらい速く動けるとして……1,000倍ほど遅く……」


 ―チャキ!


 ゆっくりを意識してやっているからか、今度は風が吹く事はなかった。抜刀して高らかに掲げた刀を、自分の正面に持ってくるゾン。


「剣を斬る剣士なんて……」
「少し動いてみるか。」


 ―ヒュン。


「え?」
「む?」


 ―ガキィン!


 ゾンが最初に一歩前に動いた。その少しがこの狭い場所だと一瞬で相手の懐に潜り込む形になった。そして偶然剣と刀がぶつかり合う。


「うぉぉぉぉ……」


 ―ズガァァン!!


「まぁあのスピードを真正面から受けたらあーなるわよね。」
「あの人も足腰がなってないな。」
「そうね。ゾンはただ前に歩いただけだって言うのに。」
「2人ともあれが見えているの?」
「「見えるよ。」」
「……ソウデスカ。」


 吹き飛ばされた男はピクリとも動かない。


「おい!大丈夫か!?息は……ある。誰か医者を!」
「それなら私が直しま……」
「ラストラゆっくりよ。」


 ―ヒュン、ドン!


「ギャァァァ……」


 動きに慣れていないラストラが、仲間を心配して近づいた男にぶつかってしまった。
 その結果は。


 ―ズガァァン!


 吹き飛び壁に激突。治療する人が増えた。


「シノブさん!この魔法止めて下さいぃ!!」
「そうだった。」


 広場は大盛り上がり、観客も少しずつ増えていく。


「すげぇぞ!あの銀の騎士も、あの黄色い騎士も。治癒が出来るのに、あんだけ速く動くなんて。」
「俺なんか刀を抜くところが見えなかった。」
「コレはあの金色の騎士も期待だな。」


「俺、こんな中戦うのか?」
「大丈夫。僕とアイさんもサポートするから。」
『お任せ下さい。次は的確なアドバイスをしてみます。』
「不安だ。」


 とは言え、レブルと同じ強化をしたとしてもアマンの魔力が持たないだろう。強化方法も考えないとな。


『アマン。普段から戦いに慣れていませんから。その場から動かない。これでいきましょう。』
「それじゃ的にならだけじゃ?」
『私はそれで問題ないと思いますが、忍様はどう思いますか?』
「アマンのその装備なら大丈夫。アイさんの指示にしたがって防御して貰って。それに相手の剣じゃ傷すらつかないかと。」
「まぁアイさんとシノブが言うのなら、大丈夫なんだろう。なるようになるか。」


 さて、次は全員じゃなくてアマンだけにかけよう。


「僕とアマンだけに魔法かけられるかな?」
『畏まりました。マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール……リンク。』
「さぁこちらは準備出来ましたよ。」


 アマンは言われた通り、槍を持ち仁王立ちで待ち構える。その姿はこの先は通さないぞ!って貫禄があるなぁ。
 その姿にビビっているのか、相手がなかなか出てこない。


「俺はいつまでこうしていれば……」


 アマンはじっと待ち構える。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品