無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

107話 爆走する黒と赤

 みんなを家まで送り、レブルと魔界に戻ってきた。


「さて、とりあえず方向は……あっちだね。」
「置いていかれないように頑張るわ。」
「いや、レブルを置いて行かないよ?」
「忍さんが本気出したら、私じゃ着いていけないわよ。」
「ん〜そうだ。アイさん、魔力回路を構築しているって言ってたよね?他の魔法も大丈夫だよね?」
『忍様が考えている事は可能です。実行致しますか?』
「出来るんだね……レブルに説明した後にお願いするよ。」


 レブルに魔法の付与を共有する事を伝えた。


「もしもの時は、剣を抜刀しながら走ろうとしたんだけど。その方が効率は良さそうね。後は魔力が足りるかどうかね。」
「それなら大丈夫。無くなればディストリビュートって魔力分配があるから。」
「前にセローに使ってたあれよね。大丈夫かしら?」
『私が調整致しますよ。』
「それなら安全ね。」
『お任せを。』


 僕って信用ないのか?前にセローに使った時は、少しだけ分量を間違っただけなのに。
 まぁアイさんが手伝ってくれるなら、その方が問題は無いかな。


「それじゃ……」
「黒騎士様!」
「それじゃ……」
「黒騎士様〜!!」


 これって僕の事か?走り出さずにそのまま待っていると、声を掛けてきた人が目の前で止まる。


「やっぱり僕の事だったか。」
「どうかしましたか黒騎士様?」
「いや、その……その呼び方止めません?」
「分かりました黒い騎士様!」
「マスターさん……」


 訂正したが全く直っていない。


「お伝えしておきたい事があって。ベルの事なんですが。」
「ベル?」
「忍さんが戦っていた男の事よ。」
「あーそうだっけか。それでどうかしたの?」
「ベルからの伝言を伝えられてなくて、探していました。」


 そう言えば忘れてたけど、あの人は生きていたんだね。それは良かった。それより僕に伝言ってなんだろう。


「怪我が治ったら、また戦って欲しいと。」
「……本当はなんて言っていたのかしら?」
「勝ち逃げは許さねぇ!次は絶対勝つって……あ。」
「そうよね。あんな男が態度をいきなり改める訳がないわよね。」
「すいません。今のは忘れて下さい。」
「あーうん。分かったよ。」


 ここに来ないって事はそれなりには怪我をしたんだろうか。さすがに魔法をかき消しても、物理的な物への防御は別だって事か。


「それでは僕も伝言をお願いします。こちらこそ。良い勉強になりました。またお会いしましょうと。」
「え?もうどこかへ出発されるのですか?今からですと次の街までに夜になってしまいますよ?」
「別にそれなら野宿するだけだし。」


 最悪はアースオペレーションで寝る場所作るか、ラストラの所に戻れば良いかと思ってた。


「この辺りでは夜に狼が徘徊しますし、噂ではアンデット出るとかで危険なのですが。」
「分かった。ご忠告ありがとう。」
「私の店が宿もやってますので。」
「そうなんだ。あそこ酒場じゃないんだね。」
「はい。元々は旅人を支援するギルドですので。何でもありますよ。」


 それで地図もあったのか。成る程ね。


「ありがとう。それじゃ今度ここに来たら仲間と泊まりに行きますね。」
「分かりました。部屋を準備……え?」
「ん?どうかしましたか?」
「もうお泊まりになる場所をお決めでしたか?この町では宿は無いはずですが。」
「ですから野宿でもしようかと。」
「ん?」
「ん?」


 首を傾げるマスターさん。僕もつられて首を傾げる。


「私の話聞いていましたか?夜は危ないんですよ?」
「聞いていましたよ。僕とレブルなら大丈夫かなって。」
「そうね。忍さんが居るんですもの。危ない事は無いわ。」
「でも他のお仲間さんも……今は居ませんね。別行動ですか?」
「あーそんなとこです。」


 説明するのは、色々と面倒だしそれで。


「それじゃ僕達は行きます。また来るので、その時に。アイさん。とりあえず筋力強化と姿勢制御をお願い。」
『畏まりました。マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール……リンク。』
「行こうレブル。」
「ええ。それではマスターさん。また。」
「え?」


 ―ドドン!


 地面を踏み込み1歩を踏み出す。


「えぇぇ…………」


 何か言っていたと思うけど、その声はもう聞こえない。


 ―タン、タタ、タン!


「っく。歩幅が全然……」
「慣れるまで合わせるから、自分のペースでやってみて。」
「ごめんなさい。すぐに……」


 踏み込んだ1歩がいつもと違うから、いきなり走るのは辛かったかな。走ると言うより跳ねるように飛んでいるレブル。


『レブル。姿勢制御の魔法も入れています。もっと前傾を意識して下さい。』
「こうかしら……」


 ―ダダ、ダン!


 力強い踏み込みでリズムを合わせようとするレブル。






 ―タッタッタッ……


 アイさんの助言もあったからか、跳ねる様な走り方も暫くするとなくなった。


「いい感じだね。」
「走り続ければなんとかね。」
「いやいや、ここまで走れれば凄いよ。ねーアイさん?」
『忍様の言う通りです。飛行の事といい、レブルはセンスがいいのですよ。』
「アドバイスが良かったからよ。」


 走るのに慣れたレブルは、僕に並んで走っている。僕に合わせてるのかな?


『忍様。前方1キロに狼の群れが居ます。』
「止まるのもあれだし。この速度なら無視してもいいかな。今は素材回収は目的じゃないし。」
「速度は落とさないから私斬っても?この速さで攻撃出来るか、試してみたいし。」
「分かった。それじゃ斬ったやつは回収しちゃうよ。」
「それじゃ……」


 ―ボォウ!


 剣を抜き背中に炎の翼が出てくる。速さを殺さないよう抵抗を極力無くしているのか、広げず小さく畳んだ状態で。レブルは器用だな〜


『見えます。』
「結構多いわね。5匹ってところかしら。」


 え?もう見えたの?さっきアイさんは1キロ先って言ってたような。僕も準備しないと、レブルが斬れなかったら風玉で吹き飛ばせばいいかな。


「邪魔よ!退きなさい!」


 ―……ヒュ!


 レブルが斬ったと同時に、コレクトを実行してみたが狼の回収が出来ない。


「この速さじゃ無理なのかな?」
「少し浅かったかもしれないわ。次は……」


 ―……ヒュン!






 何度か試してみたけど出来なかった。狼の群れは遥か後方。


「ごめんなさい。うまく出来なかったわ。」
『いえ、レブルはちゃんと倒していましたよ。』
「それならコレクトで回収出来なかったのはなんで?」
『原因は一つです。レブルが振った剣が速すぎたのと、忍様が回収するその刹那な時間ですかね。魔物が死んだと認識出来ていないのです。つまりもう死んでいますが、まだ生きていると言う事です。』


 お前はもう…………的な?
 確かにコレクトでは生きたものは出来ないけど。


「でも忍さんは斬った魔物を、すぐに回収したり出来てたわよね?」
『忍様はその場に止まっているか、もう少し速度が遅いですから。』
「そう言えば今って何キロくらい出てるの?さっきアイさんが1キロ先って言ってから、やけに早く狼達が見えたなって思って。」
『今はおおよそ120くらいです。』


 おおよそ120。この数字が意味するものはなんだろう?この世界の単位かな?


「120って?」
『時速120キロです。』
「なんだ時速120キロか…………ってそんなに!?」
「そんなに速いんだ……」


 走っていると分からなかったけど、実際に数字を聞くと驚いた。時速120キロってバイクで出すような速度だよね。魔法の世界凄いわ。


 爆走する僕とレブル。


 人とぶつからないように気をつけよう。

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