無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

100話 手の届かない場所

 空に突然現れた黒い翼の男は、片手に剣を持っている。


「あれはさっきのソースイーター?」
「ソースイーター?そんな剣じゃねえぞ。」
「そんな馬鹿な!我は魔王にそう言われ……」


 ―ブォン!


 空気が震える。そんな感覚があった。


「は?」
「魔王様だろう?人族が呼び捨てにしていいお人ではないぞ。」
「ぐあぁぁぁ!!」


 見ると国王の左腕が肩から無くなっていた。


「シノブさん……今の見えましたか?」
「いや、見えなかった。でもあれは斬撃とは違う……空気が震えたのを感じたけど。斬るではなく、空間に挟まれたような。」
「空間に挟まれるですか?」
「ほぅ……人族にしてはいい線をいっている。」


 空に浮かぶ黒い翼の男が僕に笑いかける。その口元だけ吊り上げ、目は獲物を喰い殺すかのような鋭い視線。


「ぐぞぉ……魔王……様の側近でもあるディアンが何故ここに……。」
「僕はただ魔王様のコレクションの回収と、その処分に来ただけだけど?」
「処分だと?」
「そうそう。人族のトップだからって利用価値があるって、放し飼いにしていたけど。さっきの戦いを見て、魔王様が落胆されてね。」


 剣を持ったまま、やれやれと首を振る。


「私は……ソースイーターを使いこなして。」
「さっきから言ってるそれはなんだい?もしかしなくても、この剣の名か?」
「源を喰らう剣と……」
「源ねぇ。考えようによってはありか?まぁ良い、貴様がどういう解釈をしたか知らないけど。この剣はスペースイーター。それ以外の名は不要だ。」


 スペースって宇宙とかのあれか?


『空間を喰らう……成る程。彼の腕は別の空間へ行ってしまったと。』


 うん知ってた。空間ね!そうなんじゃないかと思っていたよ。


「空間……それで空気が震えたとシノブさんは感じた訳ですね。」
「あーうん。そんな感じ。」


 空から降りてきた男は国王の元に近づく。僕らに背を向けてゆっくり歩いているだけだけど、どうにも隙もない。


「魔王様からの最後の伝言だ。ただただ魔力を噴くだけの雑な使い方。同じ同族の人間に遅れをとり、更には同族を傷つけた罪……見るに耐えん。だそうだよ。」


 ―ザクッ!


 目の前で国王の胸に剣が刺さる。ぽっかり開いた胸元に、国王はその場に倒れる。


「やはり人族は脆い……。」
「師匠!国王さんが!」
「あぁ分かってる。あんなんでもエストのお父さんだし……」


 ―ヒュン……


「そこを退いてもらう。」


 ―ヒュン!


「おっと危ない。」


 無理やり間に入り国王の脈を確認するも反応がない。くそ!やられた!


「ビックリするじゃないか。」
「……。」


 今の攻撃に反応するって、今までの魔族とは違うな。


「アイさん。少し本気でサポートお願い。」
『畏まりました!クリアアイズ、マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール、ノンリミット!』
「いく……」


 ―ヒュ、ザン!


「っち。この僕が擦り傷を……。」
「こっちは擦り傷を負わせるつもりじゃないんだけど?」
「今の速さ正直、見えなかったよ。とんでもないな。」
「それを回避してる貴方もですよね?」
「あはは。違いない。でも僕は君とは別次元の強いだけだけど。」
「言ってろ。」


 ―ヒュ、ギィィン!
 ―ギギン!ザク!


「こんなの反応しきれるわけないじゃん!」
「その割にまだまだ余裕そうだね。」
「余裕なんてとんでもない!」
「これならどう?」


 ―…………パン!


 僕の剣が空を斬り、何もないそこに音だけが残る。


「あっぶなぁー!どんな剣速だし。絶対人族じゃないよね?」
「人族以外に何に見えるんだよ。」
「神族か龍族?」
「どっちでもないから。」


 神族と龍族ってそんな種族がいるのか?龍は山の上にいるって聞いた気がする。それより神族って神様がこの世界にいるものなの?


 ―…………パン!ザシュ。


 ―…………パン!ザシュ。


「間に合わないってなんなの……さ!」


 ―ズズ……


『忍様!右肩!』
「!!」


 アイさんの言葉で止まり、その場から全力で左に回避した。


 ―ザン!


 空間が裂けた。僕の右腕があった場所に……


「は?あれ避けちゃうってどういう事だよ。」
「アイさんありがとう。」
『いえ、忍様は私がお護り致します。』
「それじゃ。」


 ―…………パパン!ザシュ!


「無理だって!くそっ今はまだ……」


 相手の視線が僕から外れる。余所見なんて……


『忍様!ハイヤーが!』
「そういう事か!させない!」


 ハイヤーと聞いて、攻撃を即中止で向かうと。


「やっぱり君は仲間を気にしちゃうタイプだね?でもそれじゃ闘いには勝てないよ?」
「っく!バブル!」


 目の前に現れた黒い雲の様な何か。飛び出したせいで突然止まれる訳もなく、自分にバブルの魔法で守りを強化して突っ込む。


 そして薄暗い森から明るい……


「またこの荒野かよ!好きだなおい。」
『いつでもいけます!』
「すぐ戻ろう!テレポート!」


 さっき見たばかりの枯れた大地の荒野だった。そして魔界から元の場所に即帰還。


「これでゆっくり帰れる。」
「師匠!」
「シノブさん!」
「はい!2人とも大丈夫!?」
「えぇー魔界の辺境なんだよあそこ?」
「辺境もそうじゃなくても関係ない。」
「転移魔法ってそんなポンポン使う魔力量でもないし、人族が使えるなんて聞いた事ないんだけど。」


 驚く魔族は呆れた顔でこちらを見てくる。


 いつでも攻撃に移れるように構える。しかしこっちから仕掛ける事ができない。この魔族は2人を狙って来る。さっきはフェイントで僕だったけど、次が僕じゃない事だってあり得る。


「セローさん走れますか?」
「ううん。速くは動けないかも。もう魔力が……。」
「だよね。あの王様との戦いは観てたよ。随分と荒い戦い方だよね?魔力でねじ伏せるって言うのかな。嫌いじゃないけど。」
「観てた?」
「そう。魔王様と一緒にね。僕は途中でここに向かったから、最後の方はいなかったけど。」


 少し喋るようになったな。このまま……ここでちゃんと考えていれば良かった。


 相手は何を考えていたのか。何を狙っていたのか。


「喰らえ……」
『今度はセローです!』
「っち!まだ諦めてなかったか!」
「これにも反応します!?なら……えい!」
『左足です!』
「間に合え!」


 ―ビュン!


 右に半歩ズレる。またも空間が斬り裂かれた。


「喰らえ!」
『セローです!』
「この状況は!間に合わ……」
「これはいけませんね。」
「え?」


 セローを突き飛ばすハイヤー。


 ―ザシュ!


 赤い雫が視界に入る。突き出した右腕が肘から先半分に……


「ぐむぅ!」
「「ハイヤー!」」
「む、狙いがそれた。まぁ結果オーライか。」
「……殺す。」


 ―ズズズ……


「いやいやいや!その魔力量オカシイって!この場は失礼させて貰うよ!」


 ―ザクッ!


「痛っ。この大人しく喰われろ!」


 ―ヒュン、ヒュン、ヒュン。
 ―ザン!ザン!ザン!


 空間が3箇所斬り取られるが、そこには誰もいない。


『忍様!落ち着いて下さい!』
「……殺す。」
「っく!これなら!」
『忍様!!ハイヤーが!』
「今度は私です!!」
「セロー!!」


 怪我をしたハイヤー、それを護るため前に出るセロー。2人を突き飛ばし空間の斬撃を回避させる方法は!


 ―ザ、ギィィン!


「は?受け止めた!?」


 手元には黒い影の剣を握っていた。


「闇魔法の剣?人族が?」
「これなら……」
「悪いがこれ以上は付き合えないから!」
『忍様ここ周辺に大きな魔力反応!』
「全員で飛びましょう!!」


 ―ズズズ……


「師匠!ハイヤーを!」


 セローが怪我をしたハイヤーを投げてくる。受け止めた僕はセローの顔を見て……


「荒野じゃない。暗い森の中だけどさっきいた場所と違うな。魔族は……居なくなったか。」


 自分ごと全員転移させて、逃げるって考えたな。今はそれよりハイヤーをラストラの元に届けて。


「あれ?セロー?」
『…………。』
「アイさん?セローがいないよ?」
『申し訳ありません。この周辺でセローの魔力を感知出来ません。』
「え?それってセローだけ別の場所に転移したって事?」
『恐らく、先程の転移魔法は範囲内の者をランダムに転移させる魔法かと。触れていたハイヤーは一緒でしたが。魔族の反応も無い事からそう考えられます。』


「セロー……くそ!」


 ―ガァァン!


 もっと僕は冷静になっていれば!ハイヤーも怪我を……


「アイさん!至急座標確認、ラストラの所へ!」
『完了しました。いつでもいけます!』
「流石だ!トランステレポート!」


 先読みして対処してくれるアイさん。僕よりよほど切り替えが早い。まずはハイヤーを。セローならきっと大丈夫だ。落ち着け俺!


 飛んだ先はベランダ。


「うお!シノブか。どう……ハイヤー!?」
「退いて!治します!」
「悪いラストラ。後は頼む。」
「お任せ下さい!」
「っぐ、シノブさん。」


 意識もあるし、僕に出来る事はもう無い。その場を去ろうと立ち上がる。


「アイさん。荒野の方に。」
『はい。』
「アマン!行って!」
「分からんが、行ってくる!」


 ―ドン。


「アマン、今少し急いでいて。」
「俺も連れてけ。何があったか知らんが、今のお前は普通じゃない。知恵は必要だろう?」
「…………分かった。」


 アマンと行ける範囲で魔界に行ってきたが、セローを見つける事が出来なかった……。

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