無敵のフルフェイス
67話 嵐の予感③
2人の戦いは静かに始まった。
―キンキンキン!キィン!
打ち合いの音が響き渡る。
「すげぇ……。」
「さすがハーネス。」
2人の戦いに目を奪われて、見入る黒髪のおじさん。そして抵抗すらしない勇者。正直こっちのやる気が削がれた。
「……。」
「あ、セロー水玉を解除して。」
「はいです。」
―バシャァァ。
「……かは!」
「良かった。まだ生きていた。」
水の中でもがいていたのが無くなり、セローに魔法解除を言わなければ溺れていたかもしれない。水を吐き出して息はしているっぽいから大丈夫だろう。
そんな密かに死にそうになっていたけど、勇者達は気づかない。
「ふふ。素晴らしい剣技です。貴女……ゾクゾクしちゃう。」
「貴女こそ。その細い腕と剣でよく受けられるわね。」
「コツがいるのよ。どこかの誰かみたいに、真っ直ぐ振れば良いものじゃないの。」
言われてるぞ勇者。しかし自分の事とは思っていない勇者は応援までしている。僕に頭抑えつけられている事すら、忘れているんじゃなかろうか。
「でもダメね。このまま打ち合っても勝てるイメージが湧かないわ。」
「私もよ。」
そろそろ潮時か。お互い相手を殺そうとはしていない。順番に剣技を見せ合い相手の力量を図っている。だからこそ決着がつかない。あの剣士はレブルと同格の剣士のようだ。
「それじゃそろそろ帰るよ。」
「はいです。」
「そうですね。ここで戦う意味はもうありません。」
「て事よ。貴女とはまたいつか会う気がするわ。」
「そうね。それまでに私ももっと精進しますわ。世界にはまだまだ強い人が溢れている……。」
そう言うとお互い剣を収める。これで終わりかと、僕らは立ち去ろうとした。しかしそれに待ったをかける人物が。
「このまま去るつもりか!させんぞ!」
「はぁ〜ココロ。今はいいの、貴方では敵わないわ。」
「油断さえしてしていなければ、魔族に引けを取るわけがない!」
「その言葉を発している段階で、負けていると気がつかないのかしら?」
「俺は負けていない……そこの魔族。俺と一騎打ちで勝負だ!」
剣を抜き僕に突きつける勇者様。この人は仲間の意見を聞かないんだろう。視界の先に頭を抱えるお姉さんが見えるけど。
「失礼な奴ね。シノブさん、コイツ私がやっても?」
「女は黙って……」
「あ?」
「……。」
レブルそれ以上睨まないであげて。なんか泣きそうだよ。
「ごめんなさい……えっと、シノブさん?この子の相手をお願いしてもいいかしら?」
「分かりました。」
ここで走って撒くのは簡単だけど。追いかけられても面倒だ。
「皆んなは先にアマン達を追いかけて。魔物が出ないとも限らないし。戦えるのがエストだけだと、辛いかもしれないしさ。」
「……シノブさんが言うのなら。ただしやるからには徹底的に!」
「師匠頑張って!」
「シノブさん。力は出し過ぎずに。適度に頑張って下さい。」
「適度に頑張るよ。じゃ、皆んなの事頼んだよ。」
「任されたわ。行くわよ。」
レブルが勇者から離れて歩き出す。
「誰が行っていいと言った?」
「誰が早く行くか競争だね!」
「良いわよ。まだセローに負けてあげる無いわ。」
「私、お2人に着いて行けるでしょうか。」
「男の子なら気合で着いて来なさい。」
「こら!俺を無視……」
―タン!!!
レブルが先頭で、セローが追いかける形に遅れてハイヤーが走る。勇者の事を無視して3人が走り去る。
そして僅か数秒で見えなくなる。走り去ったレブル達を追いかけられる者は……彼女だけだろう。
「な!?もうあんな所に!」
「2人は特別速いからね。ハイヤーはギリギリかな。途中で逸れたりはしないと思うけど。」
「くそ。貴様を倒し、あの魔族を追わねば。」
剣を構える勇者様。構えだけだと隙は少なく、白銀の鎧が輝いていて実に勇者らしい立ち振る舞い。きっと型を教える師匠が良いんだろう。後ろにいるお姉さんを見る。
「改めてごめんなさい。そしてありがとう。一度やれば満足すると思うんだ。」
「いえ、大変そうなのは察しましたので。」
「空気も読める良い殿方ね…………貴方が勇者なら良かったのに。」
「何か言ったか?」
「いいえ。ほら、戦うんでしょう?世界を学んで来なさい。」
「ん?よく分からないが。」
先程までのゆったりした喋り方ではなく、しっかりとした受け答えをしてくれる。そして凄い事を口にした。小さな声でボソッと言っていたが、僕にはしっかり聞こえた。
「さて、始めようか。僕も仲間と早く合流したいからね。」
「俺を倒せると思っているのか?」
「いや、さっき地面に伏せたよね?」
「知らん!後ろから攻撃なんぞ無効だ!」
随分と都合のいい事で。背後を向けたのも自分の所為だろう。今度は後ろで両手を合わせて謝るお姉さん。
「まぁいいや。本気で来なよ。この世界の勇者様が呆気なく倒されたとなれば、僕もこの先だいぶ不安だから。」
「良いだろう!俺の本気を見せてやる!顕現せよ!シャイーン……インストール!!!」
勇者様から神々しい光が溢れ出す。眩しいな。
『視覚を調整します。』
あー助かります。正直眩しいくらいで、ハンデにもならないけど。
「こうなった俺は手加減できないからな!」
「いいから来なよ。」
『強化はしますか?』
「強化したら死んじゃいそうだし。」
『畏まりました。』
「なめやがって……後悔するなよ。」
力を抑える事も出来るけど、一応勇者様だし。あのピカピカもなんだか分からないから、遊ぶ事はしない。
「行くぞ!」
掛け声と共に勇者様が突っ込んで来る。この人学ばない?
「シャイーンブレイドォォ!改!」
―キィィン!
「なんだと……。」
「いやいや、こっちがなんだとだよ。」
少しだけ速くはなったけど。期待を大きく下回る。そしてフェイントに警戒もしたけど、やっぱり真正面からの上段。名前を改と言ったところで何も変わらない。僕は難なく受け止める。
「それ聖剣なんだよね?剣が泣くよ?」
「なんだと!!」
「ふふ。」
笑われてるぞ。
―キン!ヒュヒュン、ピタ。
「え?」
「どうした?」
剣を1度弾き、フェイントを入れ首筋に剣を突きつける。全く反応しなかったから、僕のフェイントを見抜いたのかと思ったけど。回避も何もしないから剣を止めた。
「何を固まっている。来ないならこちらから行くぞ!」
「わわ。」
首筋に近かった剣を引っ込める。そのまま突き出していれば刺さってしまう所だった。この勇者様は何が狙いだ?
―キィィン。キィィン。
右から左へと剣を弾き、攻撃の軌道を変える。
「くそ!なぜ当たらん!」
イライラしたからか、綺麗な型が崩れて雑になる。
「どういう事だ?何が狙いなの?」
「狙いだと?貴様を倒すだけ……だ!」
―キィィン!
剣を交わす事で話が伝わるとか嘘だな。相手は一向に攻撃を止めない。でも1点だけ僕に伝わってくる……この勇者様は弱いのではないか?
一度距離を取る。
「どう思うアイさん?」
『初めのはどう見ても見えていないからかと。』
自分の剣を見る。風の魔法剣は見えにくいが、見ようと思えば見えるはず。実際にレブルやセローは見える。
「もしかしてあの勇者様は、見ようとしていない?」
『そう感じます。なので決定打を寸止めしても、ただ固まったとしか思わないんでしょう。』
「えーそれじゃダメじゃん。それなら見える剣に変えないとか。」
―ザク!
風の魔法剣を地面に突き刺す。
「それなら土だな。よいしょ。」
―バキバキ……バキン!
地面から土を剣の形へと変えて、引き抜く。
「2属性……しかも魔法剣をあんな軽々と。この子が勝てないのも納得だわ。」
「ふん。やっとまともな剣を構える気になったか。」
まともって……見えない剣の方が脅威だとは思うけど。土の魔法剣は刀身が見えるけど、その分破壊と再生と厄介ではあるか?
「今度は僕から行くよ。しっかり構えてね。」
「ふん。どこからでもかかって……」
―ヒュン。
「横薙ぎするから。」
「貴様いつのまに横に!」
別に普通に動いたつもりなんだけど。そして攻撃予告をして、意識をこっちに向ける。思いっきり振り抜いたら危ないかな?ゆっくり振ってみようか。あー気を使う。
―ビュゥン!ガツン!
「ぐぉぉぉぉ…………」
―ダン、ダン、ドカァァァン!!
軽く剣を当てただけなのに、勇者様は吹き飛んでいった。何度か地面にバウンドして、荒野の岩に激突して止まった?
「勇者様!!」
「だめだイグニ!巻き込まれるぞ。俺らははなれよう。」
「あれは流石に答えたかしら。」
『忍様。早すぎます。あれではエストが受けるのも精一杯ですよ。』
「エストは鍛治師志望の戦士だよ?それより弱い訳が……。」
『エストは強いですよ?忍様が思うよりずっと。』
「そうなのか。」
赤い子が勇者様に近づこうとしたのを、おじさんが止めている。気絶した白い人を連れて離れて行く。お姉さんは余裕そうに立ってるまま。
―ズガァァン!
「なんだ!?体が浮いたぞ!」
「あ、無事だった。派手に吹き飛んだ割に、あまりダメージが無さそうだけど。」
「っち。やっぱりタフね。」
舌打ちと小言を聞くに頑丈みたいだ。まぁこれだけ見事に吹き飛んだら流石に……
「俺はまだ立っているぞ!ここからが俺のターン!」
「え!まだやるの?」
「当たり前だ!俺はまだ戦える。」
えー。今ので諦めてくれないの?そうなると、もっと一方的に倒す必要があるの?
「シャイーンブレイドォォ!…………あ、改!」
―ガァァン!
言い忘れるなら、もう改とかいらないでしょう。そして接近戦だと剣を振り回すだけの勇者様。埒があかない。
「水玉……。」
「んな!なんだその魔法!」
「さっきの子も凄かったけど。どうやら師匠はもっと凄いのね……あれ水?え、3属性?」
勇者様の周りを全包囲で取り囲む。一つ一つは威力を抑えているけど、派手差重視の水玉100個。
「集まれ……」
ただ見ているだけの勇者様に向かって、一斉に水玉が集まる。そして破裂はさせず、当たれば跳ね返るように調整した。
「大嵐!」
僕が密かに考えていた魔法の一つ。タフな勇者様だからこそ、試すなら今しかないと思って実行した。
「こんな雨粒……あで。これしき……いて。くそ、身動きが……いたた。」
「えげつない魔法ね……ココロじゃなきゃ死ぬわ。」
「え?一つ一つはそんな威力ないよ?」
「そういう問題じゃないわ。回避不能な上にぶつかり合う毎に、速さが増しているのよ?分かるでしょう?」
んー分かるでしょうと言われても。僕が実際にあれを受けたと想像してみよう…………。
「うざったいね。」
「そういう問題?いい、普通の人間が受ければ……蜂の巣よ?貫通するの、死ぬわ。」
「嘘だぁ〜」
「絶対人間相手には使わないで。」
「ん〜分かった。」
とは言え、勇者様も一応人間なんじゃ?そしたら止めた方がいいかな?
「そしたらこれも止めるべきか……どうやって止めようかな。」
「あで。いいから……いた。止めろ!」
「そうだな。全部解除すればいいか。」
「え!?ちょっとそんな事した……」
「えい。」
―パン!パン!…………パパパパパパパ!!!!!
「っく!韋駄天!」
「キャーー勇者様ぁ!?」
「いいから伏せてろ!死ぬぞ!」
一つ、また一つと破裂していく水玉。結果大惨事……おう、どうしよう。僕自身は風で壁を作っていたから、一切の被害はない。
「ちょっと!私まで巻き込まないでくれる!流石に死ぬわよ!」
「ごめんなさい。でもその脚があれば何とかなるでしょう?」
「ちょっと謝る気ある?少しでも反応遅れたらアウトよ!」
「でもお姉さんなら大丈夫かなって。一応他の仲間さんには風で軌道ずらしておいたし。」
「私を何だと思っているの?」
「ん?ん〜よく分からない。」
「……君の仲間もだいぶ苦労しそうね。」
「はは。よく言われます。」
「笑い事じゃないわよ。」
怒って詰め寄ってきたお姉さん。無事で何よりです。
そして嵐が去った後、勇者様はどうなっているだろうか。水が爆発した事で発生した水蒸気が晴れようとしている。
―キンキンキン!キィン!
打ち合いの音が響き渡る。
「すげぇ……。」
「さすがハーネス。」
2人の戦いに目を奪われて、見入る黒髪のおじさん。そして抵抗すらしない勇者。正直こっちのやる気が削がれた。
「……。」
「あ、セロー水玉を解除して。」
「はいです。」
―バシャァァ。
「……かは!」
「良かった。まだ生きていた。」
水の中でもがいていたのが無くなり、セローに魔法解除を言わなければ溺れていたかもしれない。水を吐き出して息はしているっぽいから大丈夫だろう。
そんな密かに死にそうになっていたけど、勇者達は気づかない。
「ふふ。素晴らしい剣技です。貴女……ゾクゾクしちゃう。」
「貴女こそ。その細い腕と剣でよく受けられるわね。」
「コツがいるのよ。どこかの誰かみたいに、真っ直ぐ振れば良いものじゃないの。」
言われてるぞ勇者。しかし自分の事とは思っていない勇者は応援までしている。僕に頭抑えつけられている事すら、忘れているんじゃなかろうか。
「でもダメね。このまま打ち合っても勝てるイメージが湧かないわ。」
「私もよ。」
そろそろ潮時か。お互い相手を殺そうとはしていない。順番に剣技を見せ合い相手の力量を図っている。だからこそ決着がつかない。あの剣士はレブルと同格の剣士のようだ。
「それじゃそろそろ帰るよ。」
「はいです。」
「そうですね。ここで戦う意味はもうありません。」
「て事よ。貴女とはまたいつか会う気がするわ。」
「そうね。それまでに私ももっと精進しますわ。世界にはまだまだ強い人が溢れている……。」
そう言うとお互い剣を収める。これで終わりかと、僕らは立ち去ろうとした。しかしそれに待ったをかける人物が。
「このまま去るつもりか!させんぞ!」
「はぁ〜ココロ。今はいいの、貴方では敵わないわ。」
「油断さえしてしていなければ、魔族に引けを取るわけがない!」
「その言葉を発している段階で、負けていると気がつかないのかしら?」
「俺は負けていない……そこの魔族。俺と一騎打ちで勝負だ!」
剣を抜き僕に突きつける勇者様。この人は仲間の意見を聞かないんだろう。視界の先に頭を抱えるお姉さんが見えるけど。
「失礼な奴ね。シノブさん、コイツ私がやっても?」
「女は黙って……」
「あ?」
「……。」
レブルそれ以上睨まないであげて。なんか泣きそうだよ。
「ごめんなさい……えっと、シノブさん?この子の相手をお願いしてもいいかしら?」
「分かりました。」
ここで走って撒くのは簡単だけど。追いかけられても面倒だ。
「皆んなは先にアマン達を追いかけて。魔物が出ないとも限らないし。戦えるのがエストだけだと、辛いかもしれないしさ。」
「……シノブさんが言うのなら。ただしやるからには徹底的に!」
「師匠頑張って!」
「シノブさん。力は出し過ぎずに。適度に頑張って下さい。」
「適度に頑張るよ。じゃ、皆んなの事頼んだよ。」
「任されたわ。行くわよ。」
レブルが勇者から離れて歩き出す。
「誰が行っていいと言った?」
「誰が早く行くか競争だね!」
「良いわよ。まだセローに負けてあげる無いわ。」
「私、お2人に着いて行けるでしょうか。」
「男の子なら気合で着いて来なさい。」
「こら!俺を無視……」
―タン!!!
レブルが先頭で、セローが追いかける形に遅れてハイヤーが走る。勇者の事を無視して3人が走り去る。
そして僅か数秒で見えなくなる。走り去ったレブル達を追いかけられる者は……彼女だけだろう。
「な!?もうあんな所に!」
「2人は特別速いからね。ハイヤーはギリギリかな。途中で逸れたりはしないと思うけど。」
「くそ。貴様を倒し、あの魔族を追わねば。」
剣を構える勇者様。構えだけだと隙は少なく、白銀の鎧が輝いていて実に勇者らしい立ち振る舞い。きっと型を教える師匠が良いんだろう。後ろにいるお姉さんを見る。
「改めてごめんなさい。そしてありがとう。一度やれば満足すると思うんだ。」
「いえ、大変そうなのは察しましたので。」
「空気も読める良い殿方ね…………貴方が勇者なら良かったのに。」
「何か言ったか?」
「いいえ。ほら、戦うんでしょう?世界を学んで来なさい。」
「ん?よく分からないが。」
先程までのゆったりした喋り方ではなく、しっかりとした受け答えをしてくれる。そして凄い事を口にした。小さな声でボソッと言っていたが、僕にはしっかり聞こえた。
「さて、始めようか。僕も仲間と早く合流したいからね。」
「俺を倒せると思っているのか?」
「いや、さっき地面に伏せたよね?」
「知らん!後ろから攻撃なんぞ無効だ!」
随分と都合のいい事で。背後を向けたのも自分の所為だろう。今度は後ろで両手を合わせて謝るお姉さん。
「まぁいいや。本気で来なよ。この世界の勇者様が呆気なく倒されたとなれば、僕もこの先だいぶ不安だから。」
「良いだろう!俺の本気を見せてやる!顕現せよ!シャイーン……インストール!!!」
勇者様から神々しい光が溢れ出す。眩しいな。
『視覚を調整します。』
あー助かります。正直眩しいくらいで、ハンデにもならないけど。
「こうなった俺は手加減できないからな!」
「いいから来なよ。」
『強化はしますか?』
「強化したら死んじゃいそうだし。」
『畏まりました。』
「なめやがって……後悔するなよ。」
力を抑える事も出来るけど、一応勇者様だし。あのピカピカもなんだか分からないから、遊ぶ事はしない。
「行くぞ!」
掛け声と共に勇者様が突っ込んで来る。この人学ばない?
「シャイーンブレイドォォ!改!」
―キィィン!
「なんだと……。」
「いやいや、こっちがなんだとだよ。」
少しだけ速くはなったけど。期待を大きく下回る。そしてフェイントに警戒もしたけど、やっぱり真正面からの上段。名前を改と言ったところで何も変わらない。僕は難なく受け止める。
「それ聖剣なんだよね?剣が泣くよ?」
「なんだと!!」
「ふふ。」
笑われてるぞ。
―キン!ヒュヒュン、ピタ。
「え?」
「どうした?」
剣を1度弾き、フェイントを入れ首筋に剣を突きつける。全く反応しなかったから、僕のフェイントを見抜いたのかと思ったけど。回避も何もしないから剣を止めた。
「何を固まっている。来ないならこちらから行くぞ!」
「わわ。」
首筋に近かった剣を引っ込める。そのまま突き出していれば刺さってしまう所だった。この勇者様は何が狙いだ?
―キィィン。キィィン。
右から左へと剣を弾き、攻撃の軌道を変える。
「くそ!なぜ当たらん!」
イライラしたからか、綺麗な型が崩れて雑になる。
「どういう事だ?何が狙いなの?」
「狙いだと?貴様を倒すだけ……だ!」
―キィィン!
剣を交わす事で話が伝わるとか嘘だな。相手は一向に攻撃を止めない。でも1点だけ僕に伝わってくる……この勇者様は弱いのではないか?
一度距離を取る。
「どう思うアイさん?」
『初めのはどう見ても見えていないからかと。』
自分の剣を見る。風の魔法剣は見えにくいが、見ようと思えば見えるはず。実際にレブルやセローは見える。
「もしかしてあの勇者様は、見ようとしていない?」
『そう感じます。なので決定打を寸止めしても、ただ固まったとしか思わないんでしょう。』
「えーそれじゃダメじゃん。それなら見える剣に変えないとか。」
―ザク!
風の魔法剣を地面に突き刺す。
「それなら土だな。よいしょ。」
―バキバキ……バキン!
地面から土を剣の形へと変えて、引き抜く。
「2属性……しかも魔法剣をあんな軽々と。この子が勝てないのも納得だわ。」
「ふん。やっとまともな剣を構える気になったか。」
まともって……見えない剣の方が脅威だとは思うけど。土の魔法剣は刀身が見えるけど、その分破壊と再生と厄介ではあるか?
「今度は僕から行くよ。しっかり構えてね。」
「ふん。どこからでもかかって……」
―ヒュン。
「横薙ぎするから。」
「貴様いつのまに横に!」
別に普通に動いたつもりなんだけど。そして攻撃予告をして、意識をこっちに向ける。思いっきり振り抜いたら危ないかな?ゆっくり振ってみようか。あー気を使う。
―ビュゥン!ガツン!
「ぐぉぉぉぉ…………」
―ダン、ダン、ドカァァァン!!
軽く剣を当てただけなのに、勇者様は吹き飛んでいった。何度か地面にバウンドして、荒野の岩に激突して止まった?
「勇者様!!」
「だめだイグニ!巻き込まれるぞ。俺らははなれよう。」
「あれは流石に答えたかしら。」
『忍様。早すぎます。あれではエストが受けるのも精一杯ですよ。』
「エストは鍛治師志望の戦士だよ?それより弱い訳が……。」
『エストは強いですよ?忍様が思うよりずっと。』
「そうなのか。」
赤い子が勇者様に近づこうとしたのを、おじさんが止めている。気絶した白い人を連れて離れて行く。お姉さんは余裕そうに立ってるまま。
―ズガァァン!
「なんだ!?体が浮いたぞ!」
「あ、無事だった。派手に吹き飛んだ割に、あまりダメージが無さそうだけど。」
「っち。やっぱりタフね。」
舌打ちと小言を聞くに頑丈みたいだ。まぁこれだけ見事に吹き飛んだら流石に……
「俺はまだ立っているぞ!ここからが俺のターン!」
「え!まだやるの?」
「当たり前だ!俺はまだ戦える。」
えー。今ので諦めてくれないの?そうなると、もっと一方的に倒す必要があるの?
「シャイーンブレイドォォ!…………あ、改!」
―ガァァン!
言い忘れるなら、もう改とかいらないでしょう。そして接近戦だと剣を振り回すだけの勇者様。埒があかない。
「水玉……。」
「んな!なんだその魔法!」
「さっきの子も凄かったけど。どうやら師匠はもっと凄いのね……あれ水?え、3属性?」
勇者様の周りを全包囲で取り囲む。一つ一つは威力を抑えているけど、派手差重視の水玉100個。
「集まれ……」
ただ見ているだけの勇者様に向かって、一斉に水玉が集まる。そして破裂はさせず、当たれば跳ね返るように調整した。
「大嵐!」
僕が密かに考えていた魔法の一つ。タフな勇者様だからこそ、試すなら今しかないと思って実行した。
「こんな雨粒……あで。これしき……いて。くそ、身動きが……いたた。」
「えげつない魔法ね……ココロじゃなきゃ死ぬわ。」
「え?一つ一つはそんな威力ないよ?」
「そういう問題じゃないわ。回避不能な上にぶつかり合う毎に、速さが増しているのよ?分かるでしょう?」
んー分かるでしょうと言われても。僕が実際にあれを受けたと想像してみよう…………。
「うざったいね。」
「そういう問題?いい、普通の人間が受ければ……蜂の巣よ?貫通するの、死ぬわ。」
「嘘だぁ〜」
「絶対人間相手には使わないで。」
「ん〜分かった。」
とは言え、勇者様も一応人間なんじゃ?そしたら止めた方がいいかな?
「そしたらこれも止めるべきか……どうやって止めようかな。」
「あで。いいから……いた。止めろ!」
「そうだな。全部解除すればいいか。」
「え!?ちょっとそんな事した……」
「えい。」
―パン!パン!…………パパパパパパパ!!!!!
「っく!韋駄天!」
「キャーー勇者様ぁ!?」
「いいから伏せてろ!死ぬぞ!」
一つ、また一つと破裂していく水玉。結果大惨事……おう、どうしよう。僕自身は風で壁を作っていたから、一切の被害はない。
「ちょっと!私まで巻き込まないでくれる!流石に死ぬわよ!」
「ごめんなさい。でもその脚があれば何とかなるでしょう?」
「ちょっと謝る気ある?少しでも反応遅れたらアウトよ!」
「でもお姉さんなら大丈夫かなって。一応他の仲間さんには風で軌道ずらしておいたし。」
「私を何だと思っているの?」
「ん?ん〜よく分からない。」
「……君の仲間もだいぶ苦労しそうね。」
「はは。よく言われます。」
「笑い事じゃないわよ。」
怒って詰め寄ってきたお姉さん。無事で何よりです。
そして嵐が去った後、勇者様はどうなっているだろうか。水が爆発した事で発生した水蒸気が晴れようとしている。
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