無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

66話 嵐の予感②

 せっかくアマンが誤魔化してくれそうだったのに、ハイヤーのくしゃみでバレました。皆んなでハイヤーをいじっていると、4人までは気づかれていなかったようで。


「俺の苦労を何だと……。」
「「「「申し訳ない!」」」」


 勇者一行の馬車が戻ってくる。先頭にいる勇者は魔族と言う言葉で、剣に手を持っていっている。いきなり斬りつけたりはしないか。


「コソコソ除いてないで、出て来たらどうだ?」
「どうするシノブさん?」
「ここで出ないで全力で逃げるってどう?」
「そんな事すれば追いかけられるだろう。いいから出て来てくれ。」


 アマンに言われ、別にやましい事もないので全員出て行く。


「まさか……魔族を2人も隠していたとは。」
「あ、いや。勇者様、魔族はひと……」
「僕らと出会った時の会話もやり過ごす為だったか。どう言うつもりだ?」


 ハイヤーは普通にしていれば魔族とは分からないはずだけど。なんか凄い剣幕で睨んでくるし、それを信頼出来る何かがあるんだろうか。それよりだ!


「魔族が2人ってそれに僕も入っていないよね?聞き間違いでしょ?」
「当たり前だ。」
「そうだよね。聞き間違い……」
「可憐な女子2人が魔族な訳がないだろう。そこの男と怪しいヘルメットを被った男2人だ。」


 うん。やっぱり2人って聞き間違いじゃないよね。まぁもう慣れた。


「僕らが人ではないとどうやって分かるの?」
「我らには探知魔法に長けた魔導師がいる。人とそうじゃない者の魔力は感じ分けることが出来るのだ。」
「感じ分けるね……そこで怖い顔で睨んでいる子?」
「はわ。」
「気にする事はないぞ。魔族は倒すべき相手。力が入ってもしょうがない。」
「はい!ありがとう御座います勇者様。」
「バッフルのそれはいつもの事だけどな。」
「イグニの意地悪。」
「なんだと?」
「まぁ〜まぁ〜2人と仲良くよ〜」


 僕らを睨みつけていた小柄な女の子はバッフルと言うようだ。さっきの会話でも言っていたが、力が入ると相手を睨む癖があるようで。目つきも鋭い事で更に相手に強烈な印象を与えてくる。


 それをからかっていた子がイグニね。こっちは困り顔なのに言葉は少し厳しい感じがする。それでいて2人共杖を持っているって事は、同じ魔導師なんだろう。


「2人共、ハーネスの言う通りよ。今は目の前の魔族に集中しなさい。」
「「はい。キャリパー様。」」


 それを止めたのが独特の雰囲気のハーネスと言うらしいお姉さん。目を細くして笑顔で2人を宥めている。それでいて冷静な判断をする、ちっさい少女がキャリパーね。


「相変わらずシノブさんは魔族扱いなのね。」
「だね。さてこの状況どうするか。」
「すいません。なんか私の所為で。」
「大丈夫。これくらい問題ないよ。」
「問題無いとは随分な言い方だね。」


 剣を構えて今にでも飛び出しそうな勇者様。噂は聞いた事あるけど本当に金ピカなんだな。全身を白い鎧で固めたフルアーマー。それでいて、顔は隠す気はないのか鉢金くらい。ザ・勇者って感じが少し笑える。




 さて、ここはあまり相手にしないで行きたいけど。そうもいかなさそう。


「アマンとラストラは馬車でそのまま進んで。」
「うお。びっくりした。」
「回復無くて大丈夫っすか?」
「うん。皆んなに怪我はさせるつもりないから。ゾンが前でエストが後ろを馬で着いて行って。」
「分かった。」
「今回私は戦わなくて良いのね!」


 昨日作った通信機でアマン達に指示を出す。エストはなんだか嬉しそうに応える。目元を前髪で隠しているけど、それに何の意味があるんだ?後で聞いてみよう。


「さてと。ハイヤーも少し手伝って貰うからね。」
「ええ。ご指示を。」
「どうやらやる気のようだね。」
「まぁ勇者様がすんなり通してくれるなら、荒っぽい真似はしませんが。」
「それはない。噂の黒の勇者が魔族なら放っては置けない。」
「僕は魔族じゃないんだけど……。」


 黒の勇者って単語が出てくるくらいだから、少し距離を稼ぐだけじゃ追いかけて来そうだ。


「ハイヤーは勇者の横にいる男を。レブルとセローは勇者以外を頼んだよ。」
「はい。お任せを。」
「勇者様。どうやら俺が指名のようですよ。」
「相手は魔族だ。油断はするなよカウル。」
「分かってますって。」


 拳を合わせ武器を持つ様子が無い。どうやら読み通りの格闘系の戦士のようだ。ハイヤー自身も近接戦闘だけ鍛えて来たから、武器や魔法を使う人には当てたくなかった。


「私達は4人も居るのよ。それをたった2人で?しかも1人は子供じゃない。」
「レブル子供扱いされてますよ。」
「そこはどう見てもセローの事でしょう。」
「えぇ!私は子供ではないですよ?」
「向こうはそう思ってないみたいよ。」
「なんか調子狂うな……。」


 確かに向こうは4人いる。剣を腰から下げた1人以外は魔導師みたいだな。でも1人は治癒系かな。


「レブルそっちは任せるよ。」
「ええ。上手くやるわ。」


 そして僕は何もない空間から剣の柄を出す。


「どこからそれを出した?それよりそんな柄だけで……。」


 ―ヒュン、ダァン!


 剣を振り地面を砕く。


「やっぱりこれが1番使い易いね。」
「魔法剣か……魔族だからな。それくらいでないとつまらない。」
「だから魔族じゃないって。」
「そんな言い訳を聞く訳ないだろう。行くぞ!」


 ―ダン!


 勇者の居た地面が沈み、僕に向かって飛んでくる。


「顕現せよ!シャイーーンブレイドォォ!」


 ―キィィィン!


 剣と剣が合わさり甲高い音が響く。


 ―ブワッ。


 衝撃で僕らを中心に風が吹き荒れる。


「なんだと!俺の剣を受け止めた!?」
「そんな馬鹿正直に正面から振り下ろした剣を、受けれない訳ないでしょう。」
「これは聖剣で、僕は勇者なんだぞ?」
「それがどうしたの?物が良くて使う人が凄いというだけでしょう?」


 僕らの周りの時間が止まったように動かない。いや、僕らの仲間は違う。


「余所見をしていて良いのですか?」
「な!?いつのまに!」
「隙だらけですね。構えもろくに出来ない人が、武道家を名乗れるものでしょうか?」


 ―ブン!ゴキィ!


「っぐ!」


 ハイヤーは僕の攻撃に合わせて動いていた。そのまま攻撃すればまともに入っただろう。でもそれをあえてしないで相手に気づかせた。ギリギリの所でハイヤーの攻撃をガードする。


「カウル!」
「大丈夫だ!勇者様は前の相手を!」
「っく!すまない!キャリパー回復を!」
「あ、はい!」


 慌てて杖を構えて回復をしようとする1人の魔導師。そんな姿を見せて放って置く訳がない。


「やっぱり貴女が回復をするのね。」
「貴女は、ぐぅ!」


 レブルが剣の柄を腹部に当て、治癒魔法を使うであろう魔導師の意識を奪う。蹲る魔導師を受け止める。


「「キャリパー様!」」


 慌てて杖を振り魔法を唱える魔導師達。


「火の精霊よ!」
「水の精霊さん!」


 ―ふよ。


「水玉、パーン!」


 ―バシャ!バシャ!


「きゃ!」
「ぶふ。」


 その魔導師の目の前でセローの水玉が破裂する。それに驚いたりして魔法を中断する魔導師達。


「イグニ!バッフル!」
「っち。この魔導師が!」
「カウル!」
「え?」
「油断に余所見。全くもって残念です。」


 ―ズシ。


「かはぁ!?」
「貴様ら!俺の仲間に何をしてくれる!」
「戦いの最中に余所見をするのがいけませんね。」
「くそぉ!」


 ―ギン!


「あ、ちょっと。」


 僕との鍔迫り合いを弾き、レブルの元に駆け出す勇者。


「貴様!キャリパーを離せ!」
「貴女は戦いの最中に、シノブさんに背を向けるのね。」


「シャイーンブレ……」


 ―ガシ!


「な!」


 ―ズザァァァ。


「がぁ!?」
「人の忠告はちゃんと聞きなさい。さっきシノブさんに言われたばかりでしょう?」


 突っ込んできた勇者の一撃がレブルに届く前に、僕が後ろから勇者の頭を掴み地面へ押し付ける。


「仲間を思うのは構わない。だけど、君は間違っている。」
「くそ!」
「勇者様!火の精霊よ!」
「遅いです。水玉、ゴー!」


 ―ザブン。


「ごぼっ!?」


 セローの水玉が赤い髪の魔導師を捉える。水の中でもがいている。


「イグニ!水の……」
「もう見てられないわね。」


 ―ゴッ!


「かはぁ!?」
「2人目……」


 レブルが青い髪の魔導師に近づき、白い魔導師と同じく意識を奪う。


「あらあら。」


 ―ヒュン!キン!


 レブルに剣を振り動き出した女剣士。あの人だけはレブルの動きをちゃんと目で追っていた。今まで動かなかったのには何かあるのか。


「ピンチですね。ココロくん。」
「ハーネス!」
「ふふ。いいわ。少しだけ遊んであげるわ。」
「貴女は少しは楽しめそうね。」


 金髪ウェーブの髪を靡かせ、妖艶に微笑む。それに答えるようにレブルの顔も微笑む。


 女同士の戦いが始まろうとしている。

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