無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

31話 遅れた挨拶。

 ギルマスに飛べる証明と実験をしてみた。5回くらい飛んでもらったが、ギルマスは飛べなかった。


「空怖い……。」
「おかしいな。レブルは出来たのに……属性じゃないのか?」
『レブルはあの剣の魔力を扱えていた訳ですし。魔力操作に長けたものじゃないと厳しいのかもしれません。』
「そっか。レブルが凄いでいいか。」
「そんな事ないわよ。ギルマスだって頑張れば……。」
「もう大丈夫です!信じますから!空だけは!!」


 必死に言わなくてもやらないって。何度も練習させる程僕らも一緒には入れないし。


「それで?何の話してましたっけ?」
「……えっと、何でしたっけ?」


 僕とギルマスでお互い首を捻って考える。


「思い出せないからいいか。地図貰って僕達は行きますね。」
「そうですね。地図はこちらです。」


 ギルマスから地図を貰い僕達は部屋を出た。


「「「…………。」」」


 僕らが部屋を出て、ギルドのロビーに出るととても静かだった。さっきまで見てきた目線も感じない。


「シノブさん依頼とか見ていく?」
「今は宿を先に探そう。明日また来ればいいし。」
「そうね。」


 僕らがギルドを出ると、ギルド内が一気に騒がしくなる。ギルマスが揉め事はするなって言ってたから、皆んなそれを守って静かにしていたのだろう。


「あの。泊まるところですが、決めていないのなら私の家に来る?」
「お嬢様の家?別に僕らは宿でも良いけど。」
「宿代は要らないし、お風呂もあるわよ?」
「よし、お邪魔しよう。」
「即決ね。案内するから着いて来て……下さい。」
「いや、そんな敬語とかいいから。」


 何故かお嬢様は僕に対してビクビクした感じに話す。原因は何となくわかるけど。


 ♦︎


 案内された場所は大きい屋敷の前。


「でかくない?」
「そう?これくらいが普通じゃないの?」
「うちの3倍くらいあります。お嬢様はお嬢様でした。」
「セローが何を言っているか分からないけど。確かにでかいわね。」
「やべーな。本気のお嬢様じゃないか。」
「アマンさん?私を今までどんな風に見ていたの?」
「自称お嬢様。」
「自称でお嬢様してもいい事なんてないわよ。」


 ふふ……自称お嬢様って面白い。あんな格好して、折れた剣に執着もしなかったし。頑張って見栄を張っているようにも見えたね。


「ん?誰か出てくるよ?」
「婆や!」
「エストレア!?無事だったのかい!」


 抱き合い怪我がないか体を見るお婆さん。


「ふふ。くすぐったいわ。」
「元気そうで何よりだよ。あんたがエストレアをここまで連れて来てくれたのかい?」
「エストレア?あぁ、お嬢様の事か。連れて来たと行っても、【トゥリーン】からここまでの道のりですけど。」
「それでもありがとうだよ。私はエストレアの叔母に当たる者で、後ろのビタルの妻メカニーと言うんだ。」
「これはご丁寧に。僕は忍です。左からアマン、ゾン、セロー、レブルです。」
「よろしくね。最近魔族が出たって噂あったじゃない?街まで来てるって手紙で聞いていたから、またアイツに追いかけられているのでは?って気がきじゃなかったんだよ。」
「また?」


 後ろにいるビタルの妻って事は、爺やさんはビタルさんなんだろう。そんな事より……僕は凄く面倒な事に巻き込まれたのではなかろうか?


「なんだいエストレア。何も話していないのかい?」
「えぇ。ここに着いたら話そうと。出発は少しばたついたから。」
「そうかい。立ち話もあれよね。ささ、入りなさい。」


 メカニーさんに案内された屋敷の中に入る。


「ビタルは馬を小屋に連れて行きな。」
「はい。」
「あ、俺手伝いますよ。自分達の馬だしな。」
「それなら俺も。その手の怪我じゃ2頭手綱引くのは大変でしょう。」
「怪我?」


 メカニーさんが爺やの怪我に気がついた。そう言えば、ここに来てからずっと後ろに隠していたけど……。


「いえ。何でもありませんよ。」
「何でもなくないだろう!」


 メカニーさんは爺やさんの手を見て驚く。やっぱり奥さんだし、旦那さんの怪我は気にな……


「てめぇーが怪我してどうすんだよ!」
「げふぅ!」
「「「「「えぇぇ……。」」」」」


 何が起こった?ビタルさんに蹴りを入れたよ?


「これ……これには、訳が……。」
「訳も何もあるかい!あんたが怪我したら、誰がエストレアを守りんだい?」
「そ、それを見極めるのに怪我を……。」
「それが彼って事かい?事情も話してないようだし。会って間もないんだろう?いきなり全て任せるのかい?」
「いや、そんな訳じゃ……。」
「別にシノブさん達にどうこう言ってる訳じゃないからねぇ。」
「は、はい……。」


 あの感じから突然普通に話しかけられたから、少しどもってしまった。別にそこまで気にしてないので大丈夫です。


「私が見てないからって、鍛錬サボってたんでしょう?いつからそんな柔に。」
「言うても歳じゃし……。」
「私と同じだろうが!その根性が甘えなんだよ!」
「も、申し訳ない……。」


 スパルタ……それと同じ歳って言ってたけど。メカニーさんは凄く若い気もするんだけど。爺やさんは50くらいだよな?とてもじゃないけど50には見えない。


「そ、それより早く入りましょう。アマン、ゾン。馬は任せたよ。」
「「おう。」」
「あ、私の馬は自分でやるわ。」
「いえ、俺がやりますので。お嬢様は中へ。」
「でもアマンさんとゾンさんにやって貰う訳にも。」
「気にすんな。いつもやってる事だ。」
「そうそう。じゃ、後で行くから。行こう爺やさん。」


 止めないとこの話が続きそうだったから、アマンとゾンに言って話を無理矢理終わらせた。


「すまんねシノブさん。ウチの旦那が迷惑を掛けたみたいで。」
「いえ、僕は別に何もしてませんので。」
「師匠は立ってただけだよね。」
「セローそれは言わない方が良かったわ。もう遅いけど。」
「詳しく聞きましょう……もちろんエストレアの事も。」
「ひぃ!?」
「ほほほほ……。」
「婆や……程々にお願いします。」


 本気でビビるお嬢様ことエストレア。セローもそうだったけど、まずは自己紹介をお願いしたい。


 ♦︎


 そしてここまでの経緯をお嬢様が話す。それを終始黙って聞くメカニーさん。


「これで宜しかったでしょうか?何か間違った事はありましたでしょうか?」


 なんか凄くおっかなびっくり話して、チラチラレブルを見ていたお嬢様。そして最終確認を僕に聞いてくる。言葉遣いがなんかおかしな事になっているけど。


「はい。宜しいですよ。」
「はぁ……良かった。」
「…………良くないわ!なんて無礼な事してんの!自分勝手にも程があります!王族としての自覚があるんですかぁ!!」
「ごめんなさーい!!」


 メカニーさんめっちゃ怒ってるな。レブルに関しては当然だって感じで頷いている。しかしちょっと聞き流せないワードが。


「…………王族ですか?」
「そうです。こんな子でも継承権は11番目と、王位の争いには関わらないかと思いますが……え?聞いていませんか?」
「はい。全く。」


 視線を逸らすお嬢様。


「急いでいたと聞いてはいるけど。ここに来る間に時間くらいあったでしょう?エストレアはなんて名乗ったんだい?」
「私は普通にエストレア…………あれ?名前言ったかしら?」
「聞いてません。」
「……だから呼び方が、お嬢様と爺やだったのね。一緒に行動する中で違和感は感じたのよね。」


 怒り疲れたのか呆れたのか。今度は頭を抱えるだけで、怒鳴らないメカニーさん。


「はぁ……今更になりますが。挨拶をさせても宜しいでしょうか?」
「はい。」


 お嬢様が背筋を伸ばし、僕らの前に立つ。喋らないでじっと立っていれば王族に見えなくもないか?服に宝石類の所為かな?


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私は【王都ライドステア】ライドステア国王が7女、エストレア・ライドステアと申します。」


 挨拶を終え、服の裾を摘み王族ぽいお辞儀をする。


「うわぁ〜本物のお姫様ぽい。」
「ぽいじゃなくて、本物のお姫様よセロー。」
「そうか!よろしくねエストレア!」
「分かっているのかしら……。」
「はは。」


 セローのお陰か、この場の雰囲気は穏やかな感じになった。でも王族に対してこんな口調で良いのだろうか?不敬罪とかで首を刎ねられたり、牢屋に閉じ込められたりしないだろうか……。僕は乾いた笑いしか出ない。


「ははは。面白いお嬢さんだわ。」
「弟子がすみま……申し訳ありません。」
「そんなに畏まらなくていいのよ。ここじゃいつも通りでお願いしたいわ。堅苦しいのが嫌で、私もこんな田舎にいる訳ですし。」
「良いのでしょうか?」
「いいのよ。ね?エストレア。」
「はい!呼び捨てでお呼び下さい!」


 初めて会った時とはまるで別人のようだ。


「改めてよろしく。エストレア。」
「はい!よろしくお願いします。」
「1つ聞きたいのだけど。いいかしら?」
「はい。なんですかメカニーさん。」
「私から言うのもあれですが、王族と聞いて面倒だとか思いませんか?」
「ん?ないと言えば嘘になりますね。何かに巻き込まれるんじゃないかって。」
「……その可能性が無いとは言えません。やはり護衛の件は……。」
「受けますよ。王族と旅って刺激的じゃないですか。敵も何もいない旅は退屈しちゃいますよ。」
「シノブ様は不思議な方ですね。お願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい。皆んなもそのつもりで、ここまで可能性がてる訳ですし。」


 旅の仲間に王族がいようといなかろうと、巻き込まれる時は巻き込まれる。


 話も終わるとアマン達が戻ってくる。


「おかえり。」
「おう。話はどうだった?」
「特に変わりないよ。エストレア達としばらく行動を共にするから。」
「分かった。それでこの後の予定どうする?」
「これから何かをするのは微妙な時間かな。今日はゆっくりして、明日から動こうか。」
「だな。俺も少し汗かいたから着替えて、そのまま部屋で休むかな。」
「あ、それであればお風呂とか如何ですか?すぐ準備出来ますよ。」
「是非!」
「はは。あいよ。案内するから着いて来てちょうだい。」


 お風呂と聞いてすぐにお願いした。この世界に来てから魔法で洗ったり、体を拭いたりしかしてないからお風呂とか入ってなかったからな。


 僕はルンルンでルカニーさんに着いて行った。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品