無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

27話 追う者と追われる者③

 目の前に出てきた魔物は、素材回収は無理なので気にせず倒した。


「あーあ。燃えてるよ。勿体無いな。」
「あれを解体したり、持っていく術がないから。今は時間重視で倒したわ。」
「まぁそうなんだが。こうなるとシノブの異常差がよく分かるな……。」
「一瞬なんてさすがレブルです。」
「ありがとう。とりあえず感心してないで火を消して貰えるかしら?」
「そうでした。」


 消火をセローに任せ行く手に魔物はいなくなった。


「後ろの兵士は大丈夫かしら?」
「さっき返事はしていたと思うが。何も落としないな。」
「いや待て……馬の足音がする。」


 ―ッダダ、ッダダ。


 ―ガサ!


 茂みから出て来たのは、2頭の馬に乗った……。


「貴方達はさっきの宿にいた……着いて来たの?」
「置いていくなんて酷いじゃないの!」
「そうですぞ。」
「別に話を聞きに行っただけで、依頼は受けてないと思うけど?」


 そう言うと苦い顔をする。それよりここまで走って来たって事は?


 ―ガサ……グワァー!!


「「出たー!!」」


 ―ザン!
 ―グワァァァ……ドサ。


「はい、消火です〜。」


 ―ジュウ……。


「魔物はもういない……わね。」
「シノブじゃないから、いるのかいないのか分からんな。」
「まぁ近くにいないから、今のうちに進んじゃおうぜ。」
「そうね。行きましょう。」


 剣を納めて馬車に乗り込む。


「「無視ですか!?」」
「知らないわよ。」
「私は手を折っていて、攻撃出来ないのですぞ?」
「自分で折ったんじゃない。」
「ぐふ。」


 馬に乗ってここまで来たんだから、大丈夫なんじゃないの?となりにはあのお嬢様もいるんだし。


「私だってさっきの戦いで剣を全部斬られたんだから!」
「それこそ自分のせいじゃない。私には関係ないわ。」
「ぐふ。」


 全くこの2人は……とんだお荷物じゃない。


「貴女は剣があれば戦えるのかしら?」
「勿論よ。剣さえあればあんな魔物に遅れは取らないわ。」
「そう。じゃ、この剣貸してあげるわ。」


 馬車に仕舞っていた前の剣を貸し渡す。戦えるなら丸腰より多少マシでしょう。


「え?いいの?」
「貸すだけよ。その剣でシノブさんに挑んだりしたら怒るわよ?」
「ご、ごめんなさい。ありがとう。」
「あと着いて来るのは構わないけど、シノブさんと合流するまでよ。決めるのは彼なんだから。」
「はい。」


 意外に素直なのね。もっとゴネて来るかと思ったけど。決めるはシノブさんと言ったけど、きっと一緒に行くんだろうな。彼は優しいから……。


 ♦︎


 老父婦と合流した僕は、一緒に【ヴァーク】へ行く事を話した。悩んだ老夫婦は申し訳無さそうに了承してくれた。


「すまない。お金は少ししか無いけど、後で必ず払うので。」
「そんなの良いですって。僕がやりたいだけですし。」
「そう言う訳にも……。」
「別にギルドからの依頼って訳でも無いし、行き先が一緒なので気にしないで下さいよ。」
「うむぅ……。」


 何か事情もありそうだし、お金を貰うつもりはない。でもしっくり来てない老夫婦は渋い顔している。


「そうだ。それならご飯とか作れますか?」
「うちのばーさんの飯は格別美味いぞ。」
「それなら道中のご飯作って貰うってどうですか?」
「料理なら問題ないわ。だけどそんな沢山食材も……。」
「食材なら嫌ってほどありますから。」


 そして近くに倒した大きな鳥を指差す。


「こんだけ大きければ足りると思いますが。これを運ぶのは……。」
「あ、捌くのはうちの仲間がやるんで。今は邪魔だから仕舞いましょう。コレクト。」


 ―ギュン!


「んな!?魔物が消えた?」
「はい。収納魔法ってやつです。他にも色んな素材はあるんで、言ってくれれば探して出しますよ。」
「そ、そうですか……。」


 2人とも凄く驚いていた。収納魔法なんてどこにでもあると思うんだけど。冒険者って訳じゃないから、見かけなかっただけかな。


「そろそろ仲間も来る頃だと思うんですが。」
『忍様。東から魔物一団が来ます。』
「魔物の一団?皆んなは?」
『先頭に6名反応があります。何者かに追われているかもしれません。』
「6人?」


 アマンとゾンにレブルとセローの他に誰かいたっけ?あ、後ろから着いて来ていた兵士の人かな?


「あ、見えた。おーい、皆んな〜。」


 手を振ると向こうから叫び声が聞こえる。


「シノブー!!助けてくれー!!」
「おっと、緊急事態かな?アイさん。あの黒いのなんだろう?」
『先程の鳥が3羽。それと魔族が1人乗っていますね。』
「ふーん。鳥が3に魔族1人か。」
「「魔族!?」」


 老夫婦が魔族と言う単語に驚く。僕も見た事ないから少し興味はある。


 ―ザザザザ!


 あれはセローの水玉か。牽制としては良い感じだね。鳥に命中はしているけど、弾けて無くなっている。


「セロー!集中して!うまく魔力がまとめれてないよー!」
「むーりーでーすぅ!!」


 そうか。無理か。そんな実戦させてないのが仇になったか。今度はもっと実戦形式で魔法を教えないとな。


「君!そんな冷静で大丈夫なのか!魔族だぞ!逃げねば。」
「そうですか?危ない感じはしないし。こんな見晴らしの良いとこじゃ、逃げても見つかっちゃいますよ?」
「いや、そうなんだが。そうじゃないだろう!?」


 大慌てなお爺さん。お婆さんは慌てず見ているじゃないか。


「……。」
「おや?固まっている。」
「ばーさん!?」
「冗談はさておき。そろそろ射程圏内かな。アイさん魔法の制御は要らないから、命中補助だけお願い。」
『畏まりました。シャープシューティング。』
「そんじゃ師匠らしく水玉の本領見せようか。あまり数多くして警戒されたら嫌だし。」


 ―ザザザザブン。


「行ってこい!」


 僕の投げた水玉はセローと同じ4つ。同じ系統の魔法で数も一緒だったら油断して当たってくれるだ……


 ―チュン、チュン、チュン、バァン!


「ん?一発撃ち落とされた。」


 鳥3羽が地面へと落ちる。勿論皆んなは下敷きになったりはしていない。


「ちょっと!もう少し遅かったら下敷きよ!?」
「君は……レブル達は大丈夫?」
「えぇ。助かったわシノブさん。」
「私は無視なの!?」


 なんか言っているけど、この人は何でいるんだろうか?しかも背中に差しているのはレブルの剣だよね。


「何よ。じっと見て。」
「その剣レブルのだよね。何か事情があるのは分かった。とりあえず……。」
「とりあえず……。」
「バブル。」
「え?ちょっと何!?」


 ―パァン!


「キャ!」
「お嬢様!」
「お?当たりか?俺はやっぱり運が良い。」


 煙の中から魔法を放った1人の魔物。まぁ障壁は張っておいたから怪我はないと思うけど。


「え?何ともない?」
「障壁は張ったから。レブル、セローこれはどう言う事?」
「知らないわ。森を出るなり攻撃されて、セローが応戦してくれたけど。何せ空を飛んでいるから、私は手も出せなくて。」
「後ろに居た人が逃げてって言うから逃げて来た。」
「ん〜よく分からないけど、突然襲われたのは分かった。」


 煙が晴れ、落ちた鳥達はピクピクしている。上に乗っていた魔族は特に問題なさそうだ。


「随分と熱烈な挨拶だな。」
「ただの水玉だよ。」
「ただの水玉?威力も速度も最初に食らってたやつとは全然違うんだが。」
「師匠の水玉ですからね!」
「セローが威張らない。いつかはセローにも出来るようになって貰うからね。」
「頑張ります!」
「その調子だよ。頑張れ。」


 とりあえずセローの頭を撫でておく。撫でられるセローは嬉しそうで、元気いっぱいだ。


「魔導師様。あの魔族ですよ?」
「そう見たいですね。」
「放っておいて良いのでしょうか?」
「別に何もしてこないし。良いじゃないかな?」
「良いわけあるかよ!舐めやがって……俺が誰だかよく分かってないようだな。」


 すると空気が少し重くなりピリピリする。魔力が少し上がったように感じる。


「名前も知らない人をよく分かるわけない。」
「ふん。特別に教えてやろう……。」
「別にいいよ。僕達急ぐから。」


 ―ブチ!


「シノブさん。そんな逆撫でしなくても……。」
「なんか変な事に巻き込まれそうだから、なるべく穏便な旅路にしたいなって。ほらお爺さん達も居るわけだしさ。」
「先程から寿命が縮む体験をしております。」
「ほら、平穏にいかないと。」
「その原因はシノブさんだと思うけど。」
「またまた〜そんな事無いですよね?」
「「……にこ。」」


 老夫婦が揃って笑顔を向けてくる。魔物退治して魔物を収納したくらいしかしていないのに、何が寿命を縮める事なんだろう?


「貴様……よほど死にたいらしいな。」
「何そんな怒ってるの?」
「殺す……。」
「物騒だな。少し頭を冷やした方がいいよ。水玉。」
「っけ。俺はいつでも冷静だ。それよりそれはさっき見た魔法じゃ俺は倒せん。」


 ―ザブン。


 1つの水玉を作り出す。


「しかも1つだけとは。」
「別に1つで十分だし。それ。」
「またかき消して……。」


 ―ザバァァァァ!!


「な!?貴方何してるの!」
「何って頭冷やしてもらおうと。」
「相手は魔族って知ってて、こんな攻撃を!?」
「攻撃?ただの水玉を解いただけだよ。」
「その結果がこんな池が出来るの!?」


 池だなんて大袈裟だな〜大きな水溜りじゃないか。太陽の光でいずれ元に戻るよ。


「師匠。何か浮いています。」
「さっきの人かな?」
「あ、沈みました。」
「水溜りで溺れるの?足着くでしょう。」
「気を失ってるんじゃないかしら?助けなくていいの?」
「水溜りで溺れたら可哀想だし助けるか〜アイさん。飛べる?」
『はい。いつでも出来るよう準備済みです。』
「さすがだね。」


 ―ブワァ……。


「「「「え?」」」」
「とうとう飛んだか。」
「まぁ、レブルの翼を見たからもうすぐだろうなって思っていたが。」


 アマンとゾンは相変わらずだけど、レブル達から声が漏れる。溺れた魔族とついでに水でバタバタしてた鳥の魔物も回収して、陸地に置いておいた。


「この人どうする?」
「どうもしないよ。魔族だし、ここに置いておいても大丈夫でしょう。この鳥達も居るわけだしさ。」


 ―クワ!!!


「任せろって。」
「言葉が分かるの?」
「いや、ただそう感じただけ。主人を頼んだよ。」


 ―クワ!!!


「確かにそう聞こえるわね。」
「そうそう。僕らは僕らの目的地に行こう。」


 老夫婦と合流して、お昼食べて休んでから行こうか?って提案は却下され、少しでも先に進む事になった。


「じゃ、行こう。」
「ちょっと私達はまた無視!?」
「ん?一緒に行くんでしょう?」
「え?ええ。でも彼女が貴方に聞かないとって。」
「僕に?レブルが剣を貸して、アマンやゾンが何も言ってないし。セローも問題ないよな?」
「はい!師匠!」
「じゃ〜いいよ。ほら、早く行こう。」
「……ありがとう。」


 こうして慌ただしい追いかけっこは終わり。結局皆んなで次の町へと移動を開始するのであった。

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