無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

23話 2つの依頼。

 補修工事後の宿でアマンとゾンが言う。


「「急いでこの街を出ないといけない。」」


 真面目な顔つきの2人は、真剣に話すから食事の手も止めて聞こうとした。


「なんで?」
「解体依頼が後を絶たない。」
「そしてそれは今後緩和される事もない。」
「シノブさんがいる限りそうね。しかもトレントや材木の素材も……。」
「……ちなみに成果は?」
「数年単位の仕事が数時間で終わったわ。」
「やばいぞアマン。流石にこれは……。」


 焦る2人にマイペースな3人。仕事があって良かったじゃないか。


「シノブ……ここにあとどれくらいいる予定だ?」
「特に予定はないけど。そうだな〜食べるのに満足したら?」
「連日食べ歩いてまだ足りないのか?」
「足りないって事はないけど。」
「なら次の街に行かないか?ギルドの依頼もあまり良いものが無いと聞くし。」
「そうなんだよ。ギルマスにも言われたけど、あまり派手に借りはしないで欲しいって。」
「「だろうな。」」


 2人の話はさておき、次の街に行ってもいいかもしれない。素材は沢山集まったし、食事も全部じゃないけどあらかた食べ回った。


「確かにここは何も問題がないから、ちょっと刺激という面じゃ物足りないわね。」
「そうだろレブル!」
「まぁ食べ物以外はさして、何もないけど。どこか行きたいところでもあれば良いんだけど。」
「それだシノブ!どこか気になるところはないのか?」


 やけに食いついてくるアマンとゾン。行きたい所と言われても……


「僕この辺に何があるかよく知らないし。」
「むむ。レブルはないのか?」
「私?そうね……武器の街【メロデ・マウント】は興味あるけど。」
「っぐ。少し遠いな。それなら【ヴァーク】とかどうよ?武器の修理や加工に盛んで、隠れた名所とも言われているぞ。」
「へぇ〜」


 武器の修理や加工に盛んか。


「でもレブルの持っているその剣より凄いものってな……むぐ。」
「セロー!そんな事言っちゃいけない!」
「確かにね。私はもう武器って必要ないかしら。」
「レブル!あーそうだ。シノブもセローも武器がないじゃないか。」
「私は魔法があるので。武器って言う武器はいらないですね。」
「うぐ。」
「僕も同じかな〜武器って魔法で作れるし。」
「っく!それなら防具はどうだ?盾やローブとか装備品は武器だけじゃないぞ?」


 あー確かに。僕はずっとこの格好だけど、レブルの防具は少し痛んで見えるし。セローのは普通の服らしい。


「そう言われれば、防具面は少し見直したほうがいいかもね。」
「そうだろ!森を西に抜ければ【ヴァーク】もすぐ近くにあるぞ。」
「師匠に攻撃を当てて、しかもダメージってあるんで……むぐ。」
「セロー。シノブはそうでも俺らはそうじゃない。」
「え?見えるとこにいれば、僕が守るよ?あれ?そうなると……。」
「シノブ。慢心はいけないぞ。備えあれば憂いなしだ。」
「確かに。じゃ、その【ばーく】に行く?」
『忍様は私が守ります。』
「アイさんが言うと安心だね。」


 慢心か。何かあってからじゃ遅いし、ここはひとつ気を引き締めていこう。


 ♦︎


 翌日、一応護衛や物流の依頼がないかギルドを除く。今日は皆んなでボードを確認する。


「こんなに護衛が沢山。旅行ブームなの?」
「その原因は100%シノブ達だがな。」
「そんな事ないでしょう。森に囲まれている割には安全だし、魔物も弱かったし。」
「「ソウデスネ。」」


 2人が僕を置いてボードの依頼を見て回る。それにしても護衛多いよなぁ。討伐系の依頼が一個もない。


「シノブさん達。今日はどうしたんですか?」
「おはようございます。次の街に行くから、目的地までの護衛でもないかなって。」
「うぇ!?旅立ってしまうのですか!ちょっと待って下さい!」


 慌てたギルドの受付嬢さんは、ギルマスを引っ張ってきた。


「ちゃんと歩くから……引っ張らないで欲しかった。」
「あ、ごめんなさい。」
「やれやれ。聞いたぞシノブくん。次の街に行くんだって?」
「はい。少し行きたい場所がありまして。」
「どこに行くんだい?」
「えっと武器が盛んな街です。」
「ふむ……シノブくんに武器はいるのか?」


 僕が武器を持つ事に首を傾げるギルマス。


「あ、レブルさんが……いらないか。セローさん用?」
「いや、皆んなの防具ですよ。しっかり備えておいた方が良いと思って。」
「それこそシノブくんがいるのだろう?シノブくんの横を抜けて攻撃する事が出来る人はいないと思うが?」
「備えるに越したことはないし。」
「普通は何より始めにしておく事なんだがな。まぁいいか。街までの護衛だったか、ここからなら【ヴァーク】か?」
「はい。何か依頼ありませんか?」


 分厚いファイルを持ってきてピラピラめくり始める。それ【ネクタース】でもあったな。抱えてないで依頼ボードに貼ればいいのに……。


「あった。これか……これだな。」


 渡された依頼は2枚。一つは老夫婦の護衛依頼で、銅貨3枚と少な目である。報酬が安い為に余ってしまった依頼との事。


「護衛いない場合はこの人達どうするんだろう?」
「さぁ?期限が今日と書いてあるから、もしかしたら自分達だけで行くんじゃないか?」
「危ないじゃん。」
「森の中は騎士団がいるから良いんだが、外で魔物や盗賊に会うと厄介だな。」
「こればかりはどうしようもない。相場も伝えたが、あまり出せないとも言っていたな。」


 訳ありなのか、ただ単にケチなだけか。こんな大きい街に住んでいてお金が無いとは思えないし。もう一つの依頼を見る。報酬金貨1枚……今度は極端に高いな。


「これは皆んな高すぎて手を出さない?」
「ちょっと訳ありでな。執事の爺さんより弱い奴はお断りと、念には念を入れるタイプでな。」
「執事より弱い人?そんなの冒険者なら余裕じゃ?」
「それがな……その執事負けなしなんだよ。もはや、護衛は囮で戦いたいだけじゃ無いかと思っている。」
「変な依頼だね……だから余るのか。」
「言うな。依頼はどんな内容でも受けなきゃいけないものなんだ。結果受けるやつがいなくてもな。」


 ギルドにも色々あるんだろうね。それよりこの2つの依頼をどちらかか……。


「とりあえずどちらも話を聞いてみたら良いんじゃ無いかしら?」
「そうだね。そうなるとバトルジャンキー執事は僕とレブルとセローで。老夫婦をアマンとゾンに聞きに行こうか。」


 そして一度別れた僕達は、それぞれの依頼主の元に行く。


 ♦︎


 1つの綺麗な宿の前に立つ。


「ここ物凄く豪華ね……。」
「豪華って言うか……。」
「派手ですね師匠。私は泊まりたくないです。」
「私も。なんかここに入る事が恥ずかしい。」
「今から入るんだけど?」


 扉が自動に開いて、目の前にはこれまた金ピカな受付カウンター。


「ようこそ。富の宿、黄金亭へ。」
「「「………………。」」」
「ん。どの様なご用件でしょうか?」


 一瞬固まってしまった。黄金亭ってネーミングもちょっと恥ずかしい。


「あの、僕らギルドで依頼の話を聞きに。」
「あ、挑戦者……依頼の確認ですね。お呼びしますので、少々お待ちくださいませ。」


 この受付の人、挑戦者って言ったぞ?一体どんな人が来るんだろう。金ピカの変な宿に泊まって、来る冒険者を倒す変な執事……執事って事は主人がいるのか?


「ほっほ。今回は3人ですか。」


 ビシッと背筋を伸ばし、顔は優しそうで白髪に鼻の下の髭がまさに執事。


『忍様。この人は……。』
「うん。僕も分かるよ。」
「ほっほ。私の顔に何か付いてますかな?」


 足音を殺し、気配が目の前にいるのに薄い。魔力を抑えているのが何となくだけど分かる。


 この人一体なんなんだ?

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