無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

19話 行き場のない魔力。

 セローが回復したのを待った。そんなに時間はかからなかったけど、僕には長く感じた。


「やっと落ち着いてきました!師匠!」
「周りには何もいないね。じゃ、早速行ってみようか!」
「2人ともテンション高いわね。」
「はい!よく分かりませんが、元気が振り切れそうです!」
「あれだな。一周回ってハイになるやつ。」
「アマンもたまにあるよな。」
「そうか?」


 よく分からないけど、皆んなの目線が空へと集まる。


「お待たせしました!それでは合作光魔法『ソーラーレイ』お披露目です!」
「わーパチパチパチパチ!」
「「「パチパチ……。」」」


 一生懸命な弟子に疎らな観客。僕らしかいないけど、ショータイムだよ。


「いけ!」


 ―キラ…………ゴォゴォゴォゴォ……。


「なんで揺れるの?」
『空気の振動によりこの辺近隣が揺れ始めています。』
「へ〜……へ?」
「どうしたのシノブさん。」
「空気の振動により揺れてるってアイさんが。」
「それって原因は……あれよね?」


 今まさに一筋の光が下り……


 ―ドン!…………ガガガガ!


「……!?…………!……!」
「……!!……!!」
「え?何か言った?」


 レブルとセローが何か言ってるけど聞こえない。きっとこの光景に驚いているんだろう。確かに光魔法って偉大な感じがするし、これぞ大魔法って感じだよね。


「……!……!……!」
「そんなに興奮しなくても。綺麗だよねこれ。」
『忍様。レブルが止めてと言っています。』


 あ、止めるのか。どう止めるんだ?うーん、再チャージにすれば良いか。


 ―ッピ!


 手を上にあげ、光魔法を再チャージへと移行して止める。


 土煙が視界を遮る。僕は風魔法でそれを晴らす。出てきたのは地が裂け、底の見えない大きな穴だけだった。


「どうしたのレブル?」
「どうしたの?じゃないわ!この星壊す気なの!?」
「壊すとか大袈裟だよ〜これぐらいどってことないでしょう。」
「いやいや、あるから言っているのよ。」


 慌てて止められたので、空中で待機していたレンズと円盤は再度光を集める。


「セローもあの円盤下げなさい。」
「え?あれ下げたら、魔力の消費がなくなっちゃう。」
「世界がなくなるよりマシでしょ?」
「まぁ仕方ないか。お終い!」


 ―バシャ、バシャ、バシャ、バシャ……。


 次々と円盤が形を崩して、ただの水に戻って行く。その結果は……


 ―ザァァ……。


「普通に雨みたいになったわね。」
「……。」
「セロー?」
「気持ち悪いですぅ……。」
「ちょっと!私に吐かないでよ!?」


 馬車を降ろして背中をさするレブル。


「飲み過ぎたアマンみたいだ。」
「ふは!?確かにな。魔力か酒かの違いか。」
「笑い事か?結構辛そうだけど。」
「うぅ……気持ち悪い。」
「全くもう……あんなにはしゃぐから。」


 セローをレブルに任せて、円盤の雨が止んだのを見てある穴に近づく。


「飛び込んだら地底世界に出たり……。」
『しません。』
「で、ですよね。これ何が下にあるの?」
『何もありませんよ。ただ光魔法が当たった焦げ跡があるくらいです。』
「自分で作ったものに冒険があるわけないか。そしたら危ないから埋めておきたいね。」
『多少消滅した地面もありますが。周りから補えば少しくらい大地が凹むくらいですよ。』
「じゃ、ちゃちゃっと直してましょう。」


 アマンとゾンがそっと穴を覗く。


「こんな大穴開けて、次はすぐ直す魔法か。どんどんおかしな人間になって行くよな。」
「ただ壊すだけじゃないって事だろう。」
「覗き込んでると危ないよ。」


 ―ゴゴゴ…………。


 土を操作して元に戻す。若干凹んじゃったけどいいとしよう。さてもう一つの問題はあのレンズか。


「うーん。撃って魔力を使い切るか。地面がダメだとすると、空に撃つかな?それともあそこで爆発させちゃうか……か。どうかなアイさん。」
『あの位置で爆発は推奨しません。忍様自身も危なくなります。』
「何それ、怖!すると空に撃つ?」
『大気圏を超えた後どうなるか未知数ですが。地上よりは安心かと。』
「さっきのよりはね。どちらにしろ危ないのか……魔力を散らせればいいんだけど。」


 アイさんと一緒に考えるけど、いい案が出てこない。


「今はいい考えが出ないね。一旦コレクトして考えようか。」
『そうですね。それではレンズの魔力を魔法剣に収めてください。』
「分かった。」


 レンズをそのままにすると危ないからと、剣に魔力を流して鞘に入れて保管することにした。


「ふぅ。問題は先送りにした感じだけど、とりあえずはこれでいいか。」
「先送りも何も、あれで解決じゃないの?光属性の魔法剣なんて、凄い代物じゃない。」
「あ〜そんなんでいいの?でもいずれ魔力切れて、ただの剣になっちゃうよ?」
「さっきの魔力でどれくらい持つの?」
『120年程しか……。」
「120年だって。そしたらこれレブル持っててよ。」


 魔力を込めた光属性の剣をレブルに渡す。


「光魔法って言っても、魔力を熱に変換すれば火の剣も作れると思うんだ。そうなるとレブルが持つといいかな。」
「あ、ありがとう。なんかとんでも無いもの貰った気がするわね。」
「そう?ただの魔法剣だよ。時間かければ何本でも出来るだろうし。」
「そう言えば、数分でこの魔力貯めたのよね……120年分。」


 さてと、地面も元に戻したし。出発しよう。


『忍様。何者かが近づいて来ます。』
「何か来るって。レブル皆んなを。」
「え?はい。」


 馬に乗って騎士の様な格好をしている人達が近づいてくる。とりあえずは盗賊では無さそうだけど。


「君達は……魔導師と剣士か。ここで今物凄い魔力反応があったのを知っているか?」
「ええ。それがどうかしましたか?」
「どうかしたかって……あんな世界が滅ぶような魔力が集まれば、周辺国家は動くだろう。」


 世界が滅ぶ魔力って、この人も大袈裟だな。さっきの魔力なんて魔法剣に収まっちゃうくらいだよ?フードを深く被った人が、コソコソと何か話している。


「ふむ。ん?そんな訳が……いいだろう。すまんが、そちらの剣士殿。」
「何かしら?」
「その剣貸して貰えないか?うちの魔導師がその剣から魔力が怪しいと言われてな。」


 レブルに近寄ろうとする騎士。それを片手を上げて止める。


「悪いけど、これを渡すわけにはいかないよ。」
「そうね。名前も知らない人に剣士が剣を渡すはずが無いわよね。」
「これは申し訳ない。私は【トゥリーン】の第3騎士団所属をやっている。」
「その名前どこかで聞いた気とあるな……あ、美味しいミルクの国。」
「はは。確かに生産地ではあるな。」


【トゥリーン】って町から来たって事は、ここから近くにあるのかな?是非とも寄らないと。


「アマン!行こう!」
「ん?話聞いていたけど、騎士さんほっといていいのか?」
「僕は騎士さんに用はないからいいよ。それよりミルクとか他の特産品が気になる!」
「シノブさんは欲望に忠実ね。」


 そして皆んなで馬車に乗り込む。


「いや、ちょっと待ってくれ!その剣を調べさせては……。」
「いやよ。こんな危な……大切な剣を。」
「そんな訳で。僕達は行く所があるので!それでは。」


 無理やり会話を切り、馬車を走らせる。色々質問責めされても面倒だし、こういう偉そうな人達には関わらない。それが旅を円満にする秘訣!


「待ちなさい。」


 前後を馬に乗った騎士に阻まれ、さっき始めに喋った人が声をかける。


「怪しい者をミスミス街へと行かせては、騎士団の名が折れてしまうよ。」
「えー僕らの何処が怪しいの?」
「「「…………。」」」
「「「…………。」」」


 ちょっとレブル達も黙らないでよ。なんで皆んな僕を見るの?


 円満な旅は少し暗雲が漂い始めました。面倒だな〜。

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