無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

17話 お弟子ちゃん。

 僕は今困っている。なんでか知らないけど、どうやらお弟子ちゃんは僕らについて来るらしい。


「……。」
「……。」


 無言で向き合う父と子。その間にいるのは僕だけで、アマンとゾンとレブルは僕の後ろにいる。


「それで僕がこの場に来た意味は?」
「君に娘は任せられるかって事だ!」
「だから、パパなんかじゃ勝てないくらいの魔導師なんだって!」
「信じないね。先程顔を拝見したが、お前とあまり変わらない年齢じゃないか。」
「あ、僕は16歳ですよ。」
「ほら!セローの一つ上じゃないか。え?あの見た目で16歳なのか?」
「え?一つしか違いないのに、あんな事出来るの?」


 それぞれ別の意味で驚く2人。あの見た目ってなんだろう……。


「とにかくだ。そんな子供だけのパーティなんか、危ないだろう!」
「下手なパーティよりよっぽど安全だって!」
「それは保証するわ。」
「金銭や食事面で不憫はかけない。」
「だな。ある意味勇者パーティよりも快適かもな。」
「……それなら君の魔法を見せてもらおうか。」
「いいですけど。ここで?」
「「「それはダメ!」」」


 後ろの3人に止められる。そんな心配しなくても家を壊すような事はしないよ。


「古文書を読んだ後なのよ?それを試されたらこの家無くなっちゃうわよ。」
「え?そんな危ない本なのか?」
「禁忌魔法は載っていなかったから、まだ良かったけど。攻撃魔法以外ならまだ危なくないけど……たぶん。」
「ははは、それなら問題なかろう。君がここで私に何か見せ、私が満足する結果であれば旅の許可を出そう。」
「言ったわねパパ!師匠!お願いします!」
「お願いされてもなぁ。何すればいいんだろう?」


 攻撃魔法はダメって言われている訳だし。そうなると移動系や補助系の魔法か……。


「外出ても雨だし、ちょっと違う所に移動してもいいですか?」
「それは構わないが。」
「ならまずは移動しましょう。アイさん、どこなら問題ないかな?」
『それではあの森なんか如何でしょうか。周りに人も居なく、入口付近なので平地です。』
「それいいね。皆んな、手を繋いでもらっていいかな?」


 皆んながそれぞれ手を繋ぎ、レブルが僕に触れる。


「ちょっとシノブさん。どこ行くか聞いても……。」
「トランステレポート。」


 何か言ってたレブルに答えず、僕らはある場所へと移動した。安全な場所だし良いよね。


 ♦︎


 皆んなで来た場所はあの森の手前の平原。


「ここはどこかで見た事ある様な……。」
「アマン……俺は見てはいけないものを見た。あそこに見えるのって。」
「あそこ?」


 皆んなが一斉にゾンが指を指した方向を見る。


「魔物があんなに……。」
「ひぃぃ!?」
「ありゃ。またあんなに固まって。」


 振り向いた先には、森から魔物が押し寄せる所だった。


「落ち着いて話もできないな。アイさん、補助を。全部吹き飛ばす。」
『分かりました。クリアアイズ、イーグルアイ、シャープシューティング。忍様、風で吹き飛ばすイメージを。』
「分かった。吹き飛ばす……ブロウ!」


 ―ゴォォォォ!
 ―ギャオォォォォ……。


「魔物の叫びが聞こえたわ。悲惨としか言えないわ。」
「あぁ。あれにはちょっと同情するな。」
「レブルもアマンも大袈裟だよ。ちょっと風を吹いただけだよ。」
「「ちょっとねぇ……。」」


 とりあえず、魔物は見えなくなった。これで落ち着いて話せるね。


「それでどんな魔法を見せますか?ここならある程度本気出しても……。」
「それはダメよ。この世界が壊れかねないわ。」
「そうだな。素材は貴重だから、次来た時の為に抑えてくれると助かる。」
「と言うか、その必要あるか?」


 僕に世界を壊すなんて無理に決まっている。仮に出来てもする気は無いけど。でもアマンの言う素材を大事にって言うのは一理ある。僕が今後ここで修行する時は気をつけよう。


「何個か質問しても良いかな?」
「あ、はい。どうぞ。」
「ここはどこだ?どうして突然外にいるんだ?」
「ここは【ネクタース】の町からちょっと東に行った所にある森。」
「ちょっとじゃ無いけどな。」
「そう?走ればすぐ行ける距離じゃん。」
「シノブならな……。」


 一度来た事ある2人が何か言っている。


「仮にその森だとして、どうやって来たんだ?」
「え?普通に転移しただけだけど。」
「普通に転移って、そんな伝説の魔法がある訳……あるのか。」


 頭を抱えるパパさんと頷く皆さん。


「さすが師匠です。」
「それと先程の魔法なんだが。あれはなんだね?」
「ただの風魔法ですよ。」
「ただの風魔法で魔物の群れが吹き飛ぶと?」
「そうですね。水魔法は前回やって、追い払うまでいかなかったので。」
「どうせその水魔法も、川が出来るくらいなんだろうな。」


 コクコク頷く仲間達。まぁやらかした事あるから、否定は出来ない。


「それに師匠は他の属性魔法も使えるんだよ。ね?師匠。」
「火・水・風・土ならすぐ出来るかな。氷と雷は時間かかるから、調整しないと使い物になりませんが。」
「6大元素魔法の4つに、上位魔法の2つもか?」


 6大元素と上位魔法ってそんな言葉があるんだ。知らなかったな〜


「元素とか上位とか知りませんでした。まだまだ勉強が必要ですね。因みにですが、残り2つは光と闇ですかね?」
「それだけ魔法を使えて知らんのか?」
「光と闇は本に載っていたので、そうなのかなとは思いました。そうか、光と闇か……。」


 光は回復だったり、強化だったりとい事が書いてあった。アイさんの補助はきっと光なんだと思う。


「そうなると残りは闇魔法覚えれば……。」
「ん?そう言えば闇なら先程使ったな……。」
「え?僕がですか?」
「闇とは空間や時間を操る魔法だ。君の使った転移魔法もそうだが、他には収納や重力と言った魔法なんかもあるな。」
「へー収納もそうなんだ。」
「収納もだが、詳細は本にも載っていない筈だぞ。」


 確かに収納は名前はあったけど、細かい事は何も書かれていなかった。使える僕でもどう説明すれば良いか分からないし、きっと説明するのに難しかったから省いたんだろう。そして本には重力が載っていた。説明はざっくりした感じだったけど、引力と遠心力の関係を知っている僕には分かりやすかった。


「重力は星の引力と遠心力を使って、地面に引かれるイメージ……。」
「あ、ちょっとシノブさん?」
「人が持つ魔力、物の材質全てを引っ張るように……。」
「シノブさん、まさか!?」
「……グラビティ。」


 ―ズン。


 なんか体が少し沈んだ感じがする。


「ぐぉ!」
「ぐぬぬ!」
「2人ともどうしたの?」


 膝に手を置いて下を向くアマンとゾン。


「こここれは!私には……いえ、これも。修、行!」
「なな!?」


 両足を広げ踏ん張るお弟子ちゃんと倒れるパパさん。


「ちょっとシノブ、さん!魔法を……解いて……。」
「え?レブルどうしたの?」
「アイさん!範囲、指定!」
『は!その手が。キープエリア!』


「「ふぅぅぅぅ。」」
「あ、軽くなりました。パパなんで寝てるの?」
「……。」
「ナイスよアイさん。」
「皆んなどうしたの?」
「「「どうしたじゃ無い!」」」


 怒って詰め寄る3人。


「いいかシノブ。俺とゾンは商人だ。あんな魔法ぶっ放すな潰れちまう。」
「そうそう。俺もアマンも人より少し力があるから、少し耐えられたけど。」
「全くよ。やるなら私達に相談するか、せめてアイさんに範囲抑えて貰いなさい!」
「え?ちょっと重くしただけなのに。」
「「「ちょっとの加減!?」」」


 とにかく皆んなに怒られた。重力ってこの星全体に聞いている物だから、範囲を指定とか出来ないと思ってた。今はアイさんが範囲指定してくれたから、皆んな普通に動けるようになった訳か。


「全く……力は分かったが。これじゃ別の意味で先が不安だな。」
「その為に俺達がいるんだ。」
「大変だな。しかしこれからはもっと大変になるぞ。」
「え?どう言う意味?」


 パパさんがアマンとゾンと話していて、その視線が一箇所に集まる。


「うちの娘もジャンルはあっち系だ。」
「抑え3対暴走2か……。」
「アマン。相談役さんがいるから4対2だ。」
「甘いはゾン。アイさんはシノブさんに甘いのよ?3対3よ。」
「3人とも何を話しているの?」
「今後の相談よ。お弟子ちゃんはどうやら許可出たみたいだから。」
「え?あんなのでいいの?」


 僕を見る目が皆んな冷たくないかい?あ、1人だけ違う子いたか。


「師匠!これからよろしくお願いします!」
「よろしく……お弟子ちゃん。」
「はい!」


 僕は気がつくかと思い、わざとお弟子ちゃんと言ったんだけど。


「どうしようレブル。今更こっちから聞くのも。」
「こう言うのはこっちから名乗るものなのよ。」


 そう言って手を差し出すレブル。


「改めてよろしく。レブルよ。」
「はい!よろしくお願いします奥様!」
「お、奥様!?レブルよ、レブル!」
「分かりましたレブルさん。」


 顔を真っ赤にして帰ってくるレブル。


「あの子はいい子ね。あのままでいいのかもしれないわ。」
「いやいや、名前は大事でしょう。」
「ここは俺らの出番だな。」


 自信満々な顔のアマンとゾンが行く。あの2人この状況を楽しんでいるな。


「商人のアマンだ。」
「同じくゾンだ。」
「はい!アマンさんとゾンさん。よろしくお願いします!」


 それぞれと握手を交わすお弟子ちゃん。しばらく無言の時間が過ぎる。


「ぶは。」
「こら、アマン。こ、堪えるんだ。」
「だってゾン。もはや言わないのがお約束を……。」


 笑う2人組に首を傾げるお弟子ちゃん。それを察したパパさんが頭を抱えた。


「すまん。うちの娘が。」
「はは。」


 こうしてお弟子ちゃんが仲間になりました。

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