無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

8話 切替の速さ。

 治療を受けるため彼女を下ろし、僕らはここで別れることになる。


「あ、犬の素材どうする?ここに置く?」
「えっと、今私こんなだし。明日また会えるかな?」
「「ひゅ〜」」


 ―ッキ!


「そんな睨むなよ嬢ちゃん。」


 別に僕自身に予定はないし、それは構わないけど。2人にも聞くか。


「2人は明日どうするの?」
「道具のメンテに買い出しはそうだな……ちら。一週間はかかるな。」
「そうだな。俺らはやる事あるし。ちら。」
「な、何よ。」
「嬢ちゃんにしばらくシノブを任せるよ。」
「他の冒険者と話したりするのも勉強だからな。」
「確かにレブルは犬の素材とか詳しかったな。レブルさえ良ければしばらく付き合ってくれる?」
「つき、つき!?」
「「ニヤニヤ。」」


 ニヤニヤって、2人はさっきからどうしたんだろう?


「私で良ければ。ランクも低いから貴方は退屈かもしれないけど。」
「僕よりは高いと思うけどな。」
「あんな強さでそんな訳ないわ。」
「僕Gランクだよ?」
「そんなまさか。何かの間違いでしょう?」


 疑いの目を向けるレブルに、ギルド職員さんが代わりに答えてくれた。


「シノブさんは今日登録したばかりですよ。なのでGランクであっています。」
「今日登録……あれ?なら山に来たのも今日?」
「そうですけど。」
「よく考えればここまで走って来たわね……しかも私を抱えて。」
「え?走って?」


 今度はギルドの職員さんが驚いた。


「まぁ良いじゃないか。それより依頼の報告したいんだけど。」
「え?あ、はい。それでは向こうで手続きお願いします。私は治療師を探してきます。」
「はい。じゃ、レブルお大事に。」
「ええ。ありがとう。また……明日ね。」
「また明日〜。」


 ♦︎


「お疲れ様です。キラーラビット3羽分の金額です。」


 ―チャリ、チャリ。


 銀貨2枚貰った。


「1日ほっといて銀貨2枚か……。」
「しかも人助けまでして。」
「これ多いの?」
「多いぞ。キラーラビット3匹で銅貨6枚ってとこだろう。」
「へー。」
「状態が綺麗な為、高めの設定となっています。コレクターや商人などどなたにでも売れる素材ですので。」


 解体とかしなくてもいいなら楽だし。魔物の回収はなるべく無傷が良いんだな。次もそうしよう。


「あ、2人の素材はどうする?ギルドに出す?」
「ん?あーそう言えばあったな。」
「解体終わってる鱗あったろう?あれなら良くないか?」
「多少金は必要だろうし。その分換金頼もうか。」


 職員さんが素材の納品なら喜んでと、微笑む顔を崩したのはこの後すぐの事。


「これは何かの鱗ですか?しかし凄く綺麗に剥がせましたね。」
「コツがいるんですよ。指入れて、クイっと。」
「クイですか。解体法は人それぞれですし、これはこれでしっかり査定させて頂きますね。時間も時間なので、査定は明日行いこの時間までには終わらせておきます。」


 鱗を籠に丁寧に入れていく職員さん。


「シノブは明日もここに来るんだろ?」
「そのつもりです。」
「そしたらこの鱗の査定は受け取り任せた。」
「分かりました。」
「んじゃ、ぼちぼち宿に行くか〜。」


 そしてギルドを出て、宿に案内してもらう。僕は真っ先にやりたい事があると部屋に行く。


「慌てて何やるんだシノブ?」
「いや、洗濯をね。早く洗う方が染み込まないかなって。」


 僕は部屋に入り服を脱ぐ。


「……パンツ一枚にその兜は中々だな。」
「あ、忘れてた。」


 ヘルメットを取りアイさんに声をかける。


「アイさん。いいかな?」


 するといつもはすぐ帰ってくる返事がない。


「あれ?アイさん?」
「どうした?」
「アイさんが反応ない。」
「相談役だし。この時間だしな何かやってるのかもしれんぞ?」


 何でか分からない。でもアイさんに教えて貰わなければ服は洗えない。諦めてヘルメットを被る。


「服を洗うのはまた今度にするか。」
「先に服着ろよ。」
『忍様。』
「おわ、アイさん。どうしたの?」
『申し訳ありません。このヘルメットが無いと話が出来ないのです。』
「そうなんだ。何もなければいいんだ。そだ、この服洗いたいんだけど。」
『はい。洗浄魔法ですね。服を覆う大きな水をイメージしてください。』


 服を覆う水か。大きめの水玉でいいか。


 ―ザブッ。


「おわ!びびった。突然目の前に水玉のでけーのが。」
「ごめん。この服洗う魔法を使いたくて。」
「相談役さんは連絡ついたみたいだな。」
「しかし洗い物も魔法とか贅沢だな。」
『続きます。中の水を回転させます。』
「ふむふむ。回転ね。えい!」


 ―ギュルゥゥン!


「おいおい。なんだこの危ないやつは。」
「洗うどころか服とか引き裂きそうだな。」
『……マジックコントロール・ジャストワン。』
「「あ、ゆっくりになった。」」


 洗濯機の水だけみたいな感じだな。


『これに洗浄したい物を入れて下さい。』
「分かった。」


 血塗れのライダースーツを入れる。中でくるくる回っている。


「それで?」
『あとは私が補助します。クリーンリカバリー。』


 洗濯も無事終え、綺麗になった服を干す。


「なぁシノブ。乾くまでそれか?」
「そうだけど?」
「金も貰ったんだし、替えの服くらい買えば?」
「うーん、そうだね。武器も何か欲しいし、明日レブルに聞いてみようかな。」


 パンツ一枚ににヘルメットで立つ。これじゃご飯にも行けないし。今は別の服がないからこれが乾くまで待つしか。


「あ。アイさん、僕って風の魔法を使えるかな?」
「おいおい、火と水に雷だったか?3属性使えるのにこれ以上は……。」
『使えますよ。』
「使えるって。」
「逆にシノブに出来ない事を探す方が少ないだろうな。」
「かもな。」


 まぁ何個使えても良いじゃないか。便利なんだし。


『風に関しても火や水と同等です。』
「……。」


 風はイメージしやすい。何せ風は父さんの背中で感じ続けてきた。一度だけだったけど、自分でも感じてきた訳だし。


 ―ビュゥ。


「お、今度の風は物騒じゃないな。」
「風はイメージしやすいんだよ。」
『さすが忍様です。』


 さらっと風魔法を覚えた僕は、服を乾かし皆んなで夕食を食べた。


 ♦︎


 翌日2人と別れた僕はギルドに顔を出す。


「うーん。まだいないかな。」
「シノブさん。」


 後ろから声を掛けられる。


「ごめんなさい。待ちましたか?」
「ん?今来たとこだよ。」
「そ、そうですか。」
「「……。」」


 何でか無言で見つめられる。


「そうだ。犬どうする?」
「え?犬?そうだな〜ギルドに渡そうかな。」
「欲しい素材があったのでは?」
「私はランクを上げたかっただけだから。」
「今にランクは?」
「Fランクよ。」


 僕の一個上か。


「ランク上げてどうしたいの?」
「私はこの町を出て行きたいの。」
「出て行く?冒険者なら好きにすればいいんじゃないの?」
「私はここ町に両親がいるから。2人を納得して行きたいのよ。その条件がEランク以上なの。」
「それなら少しだ。」
「そうなんだけど。これがなかなか難しいのよ。」
「そっか。そしたらレブルは戦いに忙しいか。」
「え?」


 買い物に行こうかと思ってたけど、レブルの邪魔しちゃ悪いな。


「そしたら犬だけ置いていくね。」
「シノブは戦いに行かないの?」
「この町も来たばかりで、服とか武器を見に行きたくてね。もしレブルの手が空いていたら、一緒にお願いしようかと……。」
「いいわよ。行きましょう。今すぐ行きましょう!」
「え?でもランクは?」
「犬だしとけばいいわ。あ、これ査定お願いね。行きましょうシノブ。」


 ―ガシ。


 突然積極的なレブルさん。そんなに買い物行きたいのか?


「まずは服を見ましょう。」
「はーい。」


 ―カラン。


 店の扉を開ければベルが鳴り。


「いらっしゃ……い、ませ。」
「大丈夫よ。シノブは私の恩人よ。」
「あ、レブルちゃん。いらっしゃい。」


 僕を見て固まる店主さん。ギルドの人は普通に対応してくれたのに。魔導師が服屋に来る事少ないのかな?


「この人に会う服を。」
「魔導師さんだよな?うちには普通の服しかないぞ?」
「あ、寝巻きで服が欲しくて。今、寝る時パンツ一枚なので。」
「はは。そういう事か。ならこの辺ので会うだろう。」
「ぱ、パンツ一枚……。」


 簡単に合わせた黒い服を買う。銅貨2枚と安いから高いか分からない。とりあえず、銀貨を出してみる。


「銅貨8枚のお返しだ。ありがとう。」
「……どうもありがとう。」
「何か袋に入れるか?」
「いや、しまうから大丈夫。コレクト。」


 ―ヒュン。


「おぉ!?消えた?」
「収納系の魔法です。」
「魔導師だもんな〜凄えんだな。」


 次のお店を見る。


「おう。いらっしゃ!?」
「大丈夫よ。シノブは私の恩人よ。」
「この下りさっきも……。」
「しょうがないわ。魔導師の中でもシノブさんは目立つもの。わ、私はカッコいいと思うけど……。」
「そうだよね?これカッコいいと思うんだ。レブルは分かってくれるんだね!」


 ―ガシ!


 つい手を握ってしまう。


「いちゃつくなら、他所でやってくれレブルの嬢ちゃん。」


 結局何個か見たけど、一式揃えるのに銀貨が飛んでいく。武器も欲しいから、ここでの買い物は後回しにした。防具屋のおじちゃんはまた来いって、言ってくれた。


 最後に武器屋に行く。


「いらっ!?ひゃい!?」
「大丈夫よ。シノブは私の恩人よ。」
「僕は普通に買い物出来るところ無いのかな?」


 3度目となると慣れてきたけど。こうなるとレブルを誘って大正解だ。一人だと買い物出来るか怪しい。


「剣を一つ欲しいんだ。」
「シノブさんが使えそうな武器があるかしら?」
「そ、そんな!武器屋の僕の前でそれを言いますか?初めて会った時は驚いてしまいましたが、それなりの武器はありますよ!」


 武器屋の人がレブルさんの後ろに隠れて言ってくる。僕怖がられている?


 ―ヒュン。


「軽いな。もっと重いのがいいかも。」
「それならこれはどうでしょう?うちの一番の業物です。」


 ―ビュン。


「いい感じですね。だけど僕そんなお金無いし。これいくらですか?」
「銀貨5枚です。」
「……初めて持つ武器ですし。もっと初心者用あります?」
「そうなると両手剣くらいしか。あれなら銀貨1枚ですよ?」


 ―ビュン。


「あーこれで良いかも。」
「それ両手剣なんですけど。」
「片手で振っているわね。」
「これくらい片手で振れませんか?」
「私は無理ね。」
「レブルは女の子ですし。」


 ―ビュン。ビュン。


「これ貰います。」
「ま、毎度……。」


 武器と服を買って満足だし。あとはギルドに戻って、換金される物を取りに行くか。


「では、換金もありますし。一度ギルドに戻りますか。」
「そうね。」
「ま、またのご来店を……。」


 武器屋の店主は乾いた笑いで僕らを送り出す。


「レブルのお陰ですんなり買い物ができたよ。」
「いえ。私はただ案内しただけよ。」
「いえいえ。あ、せっかくですし、どこかでご飯食べましょう。お礼に奢りますよ。」
「お食事!?いえ、私こそ助けて貰ったお礼も出来ていないのに。」
「そしたら、安くて美味しいお店を紹介してくれれば。」
「でも……。」
「何も知らない僕に案内してくれるだけで、十分お返しですよ。それに女性に奢るのは男の見栄です。今日の所は奢られて下さい。」
「ええ。それなら美味しいお店を紹介するわね!」
「お願いします。」


 おススメしてくれたお店はとても美味しかった。銅貨5枚したけど、ギリギリ払えて少しホッとした。


 明日から少しお金も稼がないと……カッコ悪いことは出来ないし頑張ろう。

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