無敵のフルフェイス

ノベルバユーザー458883

3話 一応聞いてみた。

 夜の内に猪の解体をしたが、翌朝まで何も寄って来なかった。


 僕としては猪の血抜きとかすると、その匂いでもっと魔物が集まって来るかと思った。来れば戦えたのに残念だ……寝よう。


 そして待ちに待った食事の時間。朝出てきた食事は硬いパンと少し甘い飲み物を温めたもの。


「これは……甘い。」
「それは牛の乳を絞ったミルクってもんだ。」
「元々は【トゥリーン】の名産品なんだが、たまに露天に出回るから買ったんだよ。」
「これは貴重な飲み物なのでは?良いんですか?」
「あぁ。日持ちもしないし、シノブには頑張ってもらうわけだしな。」
「そうそう。旅は楽しく行こうじゃないか。ケチケチする旅なんてつまらない。」
「それは僕もそう思います。」


 こっちに世界でも牛乳はあるんだな。しかしあまり日持ちしないから、今日で無くなってしまうものらしい。【トゥリーン】の名産品って言ってたな。いつか行ったらまた飲もう。


「んじゃ、あまりゆっくりしてもだし。行くか。」
「おう。」
「はい。」


 軽く食事をして昨日解体した猪を乗せて出発する。牙も毛皮もお肉も……。


「全部乗せたら、今後何も乗らないのでは?」
「皮は馬車の上で干したら、纏めるし。牙は最悪どこかにくくりつける。状態がいいからこれは残しておきたいんだよ。」
「そうなんですね。」


 余す事なく素材にできるなんて、この猪は美味しいだけじゃないんだな。


 ♦︎


 森に向かう僕達はあるものを見つける。


「ここは昨日シノブに助けられた所か。」
「目印が分かりやすいな。魔物のカケラも残ってないんだな。」
「火に弱い魔物だったのかな。何の魔物かも分かりませんね。」


 昨日僕が倒した魔物が居たであろう大穴がある。素材も料理としても美味しい魔物だったらと考えると、少し勿体無かったかも知れない。


 そして馬車に揺られる事数分。森の入口が見えてきた。


「あれが森の入口だ。」
「来ましたね……いまだに信じられんよ。」
「2人は初めて来たのですか?」
「あぁ。俺達が商人の資格を取った時は、ここの討伐採集は無くなっていたからな。」
「いつかここに来るって目的は一つ達成できたな。」
『忍様。敵影です。』


 2人が感動しているところに言いづらいんだけど。入口が真っ黒って言うか魔物だらけ。


「せっかくの感動中すいません。魔物がいますよ。」
「そう思ったよ。俺らの悲願は簡単に達成させられない事を。」
「どうするアマン?引き返すか?」
「そうだな。あの数はおかしいな。引き返そう。」


 入口にこれでもかと押し寄せる魔物を見た2人は、引き返すと話している。


「あれがいなければ行きますよね?」
「行きたいが……。さすがにあの数にシノブを放り出す程、俺らは人を棄てたりしない。」
「そうだぜ。シノブはもう俺らのダチだからな。またいつか一緒に来ようぜ。」
「ダチ……。」


 友達が困っていたら助けないと。


「アイさん。僕であいつらを倒せる?」
『はい。あれくらい問題ありません。』
「出来る限り素材は駄目にしたくないんだけど。何か良い方法ある?」
『森には水分が豊富にあるので、水系統の魔法をお勧めします。』
「水か。どうすればいい?」
『火と同じ要領ですが、水で小さな球を作るイメージを。』
「水玉ね……。」
「「水玉?」」


 僕はアイさんと素材を活かし、敵を殲滅する手を考える。提案されたのは水の魔法。確かに火だと魔物を燃やすし、下手をすれば森が燃える。言われた様に水玉をイメージする。


 ―ポン。


「水玉って言うかビー玉みたいだな。」
『イメージがあれば良いのです。』
「そっか。あと馬車ごと近づきたくないから、早く動きたいんだけど。」
『分かりました。補助はしますので、自由に動いて下さい。マッスルレインフォース、ポスチャーコントロール、ダイヤモンドアーマー。』


 新しい単語がこっそり入っている。ポスター?コントロールは何となく意味は分かるけど。きっと何か意味があるんだろう。


 右の手にビー玉サイズの水玉を握り振りかぶる。


「ちょっと戦ってきます。お2人はここに。」
「まじか?あんな魔物がいるんだぞ?」
「アマン。シノブなら出来ちゃうんじゃないか?だがいいか、無理なら戻れよ。いつでも走る準備はしておく。」
「ゾンは逃げる気満々だもんな。」
「ありがとう。じゃ、まずは先制。水玉!」
「「水玉ってそんな可愛い名前の……。」」


 ―ビュン。


 僕は振りかぶり投げた。一つの小さな水玉を。


 魔物が小さな水玉に見向きもしないで、こっちに近づいてくる。あー小さいから見えないか、威嚇にもならないな。


「大きくすれば良かったかな。」


 ―パァァァン!


「あれ?破裂した。」
「「あぶねー水玉だな、おい!」」
『忍様が力を抜いたので、圧縮された水が弾けました。』
「あー気抜いたからか。」
「気を抜いてあの威力は……。」
「気を入れたらどうなるんだ。」


 魔法はやっぱり難しいな。後ろが森で魔物だけだから良かったけど。人がいる所は多少危険だな、気をつけよう。


「そうなると近づいた方が危なげなく戦えそうか。」
「先に言っておくが俺達は戦えんし、魔法も使えないからな。」
「さっきの魔法に巻き込まれたら死んじゃうぜ!」
「そんな自信満々に……いや、気をつけますね。」
「「くれぐれも頼みます。」」


 必死だな。まぁ戦えない人だっているわけだし、それはしょうがないか。


「じゃ、ちょっと行ってやっつけてくるよ。アイさん、フォローよろしく。」
『畏まりました。』


 ―ッダ!


 素早く動いて攻撃……っと。行き過ぎた。馬車から逃げる時より走るのに違和感が。あ、アイさんがフォローしてくれてる何かだな。次は過ぎない様に。


 ―ッダ!チュン!チュン!


 水玉を銃の要領で人差し指の先から撃ってみる。


「ん。これならイメージも崩れないで、撃ち抜くことが出来そうだ。」


 ―ドシーン!ドシーン!


 水玉を食らった魔物が2体倒れて動かない。


「これ倒せたの?」
『はい。』
「弱くない?ここって討伐を止めるくらい強いんじゃ?」
『強いかどうかは分かりかねます。どのの戦力か規模も分かりませんので。』
「……なんか違った言葉に聞こえたような。てかアイさんでも知らない事があるんだね。」
『忍様に必要ない事ですから。必要とあれば調べますが。』
「いや、過去の出来事は別にいいや。知ってても参考にならなそうだし。」


 小さな水玉を撃ち出す。


 ―チュン!チュン!
 ―ドシーン!ドシーン!


 撃ち出す。


 ―チュン!チュン!
 ―ドシーン!ドシーン!


 別に狙ってやっている訳では無いけど、水玉は脳天を貫き倒れる魔物達。


「ふふ……。」
『どうかされましたか?』
「これ楽しい!どんどん行くよ!」


 ♦︎


「ゾン。俺は何か夢でも見ているかの様だ。」
「奇遇だなアマン。俺もそう思う。」


 味をしめた忍は動き回り、水玉で仕留めて行く。


「初めの水の魔法もそうだが。あの小さい水玉も物騒極まりないな。」
「そうだな。さっきから魔物の脳天直撃で、全て一撃だぜ。」


 水玉とか可愛らしい名前からは想像出来ないくらいエグい。なんと恐ろしい威力だ。


「敵に回しちゃいけない人間って、こういう人なんだな。」
「俺達がシノブと味方として会えたのは幸運だな。」


 2人の商人は自分達の運を、神様に感謝する様になったのは言うまでもない。


 ♦︎


「ふぅ〜大方片付いたかな。」
『はい。近くに魔物の反応はありません。』
「じゃ、2人を呼んでこよう。」


 倒してみれば呆気なく、30匹しかいなかった。


「終わってみれば少なかったね。狭い森の入口に溜まるから、もっといるかと思った。」
「なんか、シノブがいれば世界も征服できるんじゃ無いか?」
「騎士団とか要らないな。」
「いやいや、そんな面倒な事しないし。政治とか国民の事を考えるのは、王様がすれば良いよ。」
「「無欲だなぁ。」」


 素材の回収をするのに戦闘時間の倍以上の時間がかかりそうだ。


「入口でこれだと。この先持たんな。」
「そうだな。」
「素材回収するのに時間かかりますもんね。」
「それもそうなんだが。」
「もう既に馬車に積めない。」


 あぁ。そっちか。猪の牙も馬車の横に既に括り付けてある。ちょっと馬車が攻撃的に改造されている様だ。


 しかし素材も沢山あると決まるもんなんだな。


「要らなさそうなの燃やします?」
「「そんな、勿体ない!」」
「それじゃ、どこかに置いといて取りに来ますか?」
「ここまで簡単に来れないぞ。」
「馬車で何日もかかるからな。」
「困りましたね……。」


 教えて貰いながら、魔物を捌いていく僕。やっている途中にふと思った。魔法で素材を捌けるもの無いのかな…...さすがに無いか。聞けばありますとか言われそうだけど、そこは教えて貰える機会だし聞かないでおこう。


「あ。」
「どうした?」
「いえ、この世界に収納魔法とか無いのかなって。」
「そんな魔道具が存在はしてるらしいが、国宝と呼ばれていて持っている奴を見た事すらないぞ。」
「もしかしたら、どこかのお伽話で実際は存在しないのかもな。」


 まぁそんな便利なものあったら、馬車とか必要ないよな。一応無いか聞いてみた。


「じゃ、後はワープとか転移出来る魔法くらいか。」
「ふはは。それこそいないだろうよ。」
「だな。出来るなら遥々馬車で来たり、討伐部隊を派遣したりせんだろう。」
「そりゃそうだよね。」


 やっぱりゲームやアニメの様な、便利な魔法も道具も無いみたいだ。


「アイさん。一応聞いてみるけど。収納系や転移系の道具や魔法はあるの?」
「だからある訳ないって……。」
『御座いますよ。』
「あ。あるんだ。」
「シノブの相談役って何でも知ってんだな。」


 2人が僕の会話を聞いていて、そんな受け答えをする。


「シノブ。俺も聞いて貰いたい事があるんだが。可能か?」
「ってアマンさんが言ってるけど。出来る?」
『直接語りかける事は出来ませんが。可能ですよ。』
「直接語りかけられないけど出来るって。」
「ふむ。答えられたらで構わんのだが。シノブは出来るのか?」
「はは。そんな国宝級とかお伽話の様な事が出来る訳……。」
『可能ですよ。』
「訳が……。」


 え?今なんて言ったの?可能?何が?どっちが?


「どうしたシノブ?」
「まさか出来るなんて事……。」
「……可能だって。」
「だよな。出来る訳……。」
「「えぇぇぇぇ!?」」


 2人がが揃って驚く。その声に僕もびっくりしたよ。


「な、何が出来るんだ!?」
「待て待て、アマン。可能と言ってるだけで、この場でできるとは言ってない。」
『この場で出来ますよ。』
「……。」
「シノブ?まさか……。」
「この場で出来るって。」
「「まじかぁ。」」


 驚き過ぎたか逆に静かになる2人。


「まぁ聞こうじゃないか。そのなんだ?相談役さんに。」
「ですね。アイさん、どっちもこの場で出来るの?」
『それくらい可能です。転移の方は多少の制限は御座いますが。』
「転移は制限あるんだ。そりゃそうだよね。」
「「……。」」


 アイさんの声が聞こえない2人は、僕の言う事に耳を澄ませる。


『転移に関しては忍様が言った事のある土地のみです。あ、元の世界へは行けません。』
「まぁそうだろうね……。」
『はい。なので転移については制限があります。』
「なるほど。その制限以外は?例えば機能のテントのとこまでは行けるの?」
『はい。』
「ちなみにアマンさんとゾンさんも一緒に行ける?」
『可能です。やろうと思えばその馬車も一緒でも可能です。飛びますか?』
「ちょっと待ってね。」
「「……。」」


 息を飲む2人に僕が答える。


「昨日のテントの所に行けるって。しかもアマンさんとゾンさんに馬車も一緒に。」
「おぅ……お伽話がお伽話じゃなくなった。」
「興味があるが、今は素材を回収しないとだしな。」


 教える事を忘れているのか2人が作業に戻る。そうなると収納は制限ないのかな?手持ち無沙汰だし聞いちょおう。


「収納系は制限ないって事?」
「「……!!」」


 2人とも聞いちゃうのか!って顔でこっち見ないで下さい。


『あると言えばありますね。生きた者は収納出来ません。』
「そりゃそうか。」
「な、何だって?」
「生きた者は出来ないって。」
「そりゃ出来たら、生きたまま何でも捕獲出来るからな……。」
「なぁ、それって何でか聞けるか?」
「ゾン!?そこまで踏み込むのか!」


 この2人もはや楽しそうだな。でも理由か……知っておけば色んな解決策が思いつくかもしれない。


『では、まとめてお話し致します。転移は異動先のイメージが必要な為。収納はされたものの時を止めてしまう為、生きているものは時空干渉し生命活動も止める可能性があります。』
「転移はイメージが必要。」
「それは何となくだが、想像がついたな。」
「収納は時間を止めるから、干渉して生命活動も止めちゃうかもだって。」
「こっちのは怖い理由だった。止めるつもりなら出来るのか?」
『止めるだけなら別の方法がいくらでも。』
「止めるだけなら別の方法がいくらでもだって。」


 確かにわざわざ収納しなくても、水玉一撃で死んじゃうような魔物ならその方が早い。しかしそんなすごい事が出来たのか。聞いてみるもんだな。


「では、ここにあるの収納しちゃいましょう。どうやればいい?」
『収納する物に触れて、コレクトと言って下さい。』
「触って?コレクト。」


 ―シュン。


「「おお。」」
「じゃ、とりあえず回収しようか。」


 解体したものも、途中のやつも全て収納した。


「そろそろお昼時ですし、テントまで戻りましょうか。これはどうすればいい?」
『お一人の時はイメージをしてテレポートと。同様に複数は触れて、トランステレポートと。』
「馬車に触って、馬は繋がってるからいいとして。アマンさんとゾンさん。僕に触れて下さい。」
「こ、こうか?」
「何かドキドキするな!」
「では、トランステレポート。」


 瞬きする僅かな時間で、景色が変わった。周りを見渡すとテントのあった丘まで来ていた。


「出来ましたね。ここなら安全にお昼たべれますね。」
「凄えな。本当に転移したぞ。」
「それよりも、お昼を食べる為に転移を使う事の方が……。」
「ゾン。もう驚く事はない。だってシノブだぞ?」
「そうかアマン。シノブだったな。」


 2人は斜め上を見ながらそう言って笑っていた。


 今の何が面白いの?



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