非青春男子と超青春JK

もり フォレスト

第五話 『自分の好きなもの』

 先程まであたふたしていたせいで気付かなかったが、悠介の部屋は男子高校生にしては整理されている綺麗な部屋だった。
「意外と綺麗な部屋なんだね。男の子ってもっと汚いと思ってたよ。掃除してあげようと思ってたんだけどなぁ。」
「残念だったな。こんな俺でもちゃんと部屋の掃除はするんだよ。」
「あっ、分かった!お姉さんに掃除してもらってるんでしょ?」
「違うわ!ちゃんと自分で掃除してるからな。」
「お姉さん達には見せられないHな本とか隠してるからね〜。」
「そうそう。見つかったら色々大変……ってバカ!そんなもんね〜よ!」
ノリツッコミをする悠介。誤解を招く前に言っておこう。悠介は、友達を作るのが嫌いなわけではない。単純に興味がないだけである。そう、悠介はあくまで『青春』が嫌いなだけで、ある程度のボケやツッコミはしてくれるのだ。千咲斗は部屋を見て回った。ドアを入って左隅に机があり、周りには本棚がずらりと並んでいた。
「本ばっかりだね。マンガか参考書しかないよ。」
「まぁ、勉強するかマンガ読むかしかしてこなかったからな。」
参考書に関しては、英語の本ばかり並んでいた。
「英語好きなの?」
千咲斗が聞く。
「あぁ、母さんが死ぬ前に俺にくれた、最後の置き土産だったんだ。母さんのおかげで、俺に『英語』っていう好きなものができた。本当に感謝してるよ。凪畑は何か好きなものないのか?」
「私はやっぱり『青春』が好き!悠介君に青春の素晴らしさを知ってもらえるよう、ビシバシしごいていくから覚悟しててよね!」
「まぁ、せいぜい頑張ってくれ。」
悠介は言った。しばらくして、
「俺トイレ行ってくるわ。」
と言って、悠介は部屋を出ていった。一人になってしまった千咲斗。部屋の中を見て回っていると、あることに気付いた。そう、マンガのほとんどがラブコメだったのである。しかも、そのうち1/3はドロドロ系や不純愛系のものだった。これも悠介の過去と何か関係しているのだろうか。千咲斗が不思議そうに眺めていると、本棚の端に何か紙らしきものが挟まっていることに気付いた。
「なんだろう、これ。」
気になった千咲斗は、それを手に取る。原稿用紙だった。欄外には『自作ラノベ1』という文字が書かれていた。千咲斗が読み始める。


 「あんたみたいなヲタクを誰が好きになるのよ。あんたは私の財布よ。さ・い・ふ!分かったらとっとと消えてちょうだい!」
 皆さんは自分の好きなもの、あるいは人を否定されてしまったとき、どのような気持ちになるだろうか。人は人、自分は自分、というように開き直るか。あるいは、ショックで立ち直れなくなるか。これは、そんな否定された俺の青春を描いた物語である。


最初の部分を読んだ千咲斗は、過去に悠介に何があったのか、少し分かったような気がした。予想通り、過去に恋愛関係のトラブルがあったのだろう。覚悟を決めて、千咲斗は続きを読もうとした。しかしそのとき、部屋の外から足音が聞こえてきた。悠介が戻ってきたのである。千咲斗は慌てて原稿を直すと、急いでベッドに座った。
「ごめんごめん。飲み物取りに行ってたんだ。」
「ううん、大丈夫だよ。」
千咲斗が返事をする。
(あのことは黙っておこう)
そう思う千咲斗であった。

 悠介の家は、玄関に入ってすぐに廊下があり、左側にリビング、右側に階段、少し奥にトイレとお風呂へのドアがある。悠介が階段を降りると、ちょうど紗都美もリビングから出てきた。
「あっ、ゆーくんさっきはごめんね。私が無神経だったわ。」
「姉さんは悪くないよ。俺もちょっと取り乱しただけだから、気にしないで。」
「あぁ〜もう、なんて良い子なの!」
そう言うと、紗都美は悠介を抱きしめた。そのとき、顔を胸にうずめる形になってしまった。普通の男子なら、鼻血を出して倒れてしまうだろう。もちろん悠介も、例外ではない。鼻血が出るのを堪えながら、胸の感触を楽しんでいた。
「それで、何しにきたの?」
いつの間にか、真美が紗都美の後ろに立っていた。
悠介は慌てて顔を上げる。
「ト、トイレに行こうと思ってたんだよ。」
「ふ〜ん、まぁ良いけど。そんなことしてたら、彼女さん嫉妬しちゃうよ〜。」
「だから彼女じゃね〜よ!!」
何気ない家族の会話。こんな楽しそうな悠介は、心の中に何を秘めているのか。

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