非青春男子と超青春JK

もり フォレスト

第四話 『悠介の過去』

 二階の悠介の部屋に着いた。先程まで慌てふためいていた悠介も、どうやら落ち着きを取り戻したようだ。悠介が振り返ると、千咲斗の腕は悠介の手形で真っ赤になっていた。
「八本君痛いよ〜!」
「す、すまん!!慌ててたからつい……」
謝ると同時に、悠介は土下座をした。その姿を見て、千咲斗は驚く。
「べ、別にそこまでしなくて良いよ。」
「いや、ダメだ!女の子を傷つけることは死刑に等しいと父さんに教わったんだ!だから、この通り!」
八本家では、なかなか変なことも教えているようだ。だが、それも意味としては間違っていないだろう。悠介は地につけた頭を上げなかった。悠介のあまりの必死さに、千咲斗は思わずクスッと笑ってしまった。
「まだ何か不満か!?ちょっと待ってろ!今何か冷やすもの持ってくるから!」
そう言って悠介は慌てて部屋を出ようとした。すると、千咲斗が悠介の腕をガッと掴んだ。驚く悠介。
「やっぱり、根は優しいんだね。」
千咲斗は笑顔で言った。その瞬間、悠介の頭の中で彼の今までの行動が脳内再生されていき、とても恥ずかしくなった。顔も真っ赤である。
「あっ、照れてるの〜?やっぱり可愛い。」
「うるっさいな〜!これくらい誰でもするだろ!」
真っ赤な顔で反論した。すると、千咲斗は悠介の腕を引っ張っていき、ベッドに並んで座った。
「それで、さっき紗都美さんが話そうとしてたことって何?」
当然の質問だった。しかし、悠介の真っ赤だった顔は、一気に真っ青になった。何かを考えている顔にも見えたが、何かに怯えているようにも見えた。しばらく黙っていた後に、悠介は言った。
「俺は凪畑のことをもう友達だと思っている。凪畑にとって、俺が友達じゃなくて、俺一人の思い込みならそれでも良い。ただ、このことを話すのはもっと凪畑のことを知ってからにしたい。ダメか?」
それは、今までに見たことがない程真剣な顔だった。過去に余程のトラブルがあったのだろう。
「良いよ。ちゃんと待つ。」
千咲斗は笑顔でそう言った。そして更に、千咲斗は悠介に言った。
「後、私にとって八本君も立派な友達だよ。」
悠介の真剣な表情は笑顔に変わった。
「あぁ、ありがとう。」
こうして、悠介と千咲斗の間に新たな友情が芽生えた。
 一方その頃、一階には真美の怒鳴り声が響き渡っていた。
「紗都美あんた何してるのよ!あの話はしないって約束したんでしょ!?」
「だって、あの子ならきっとゆーくんを良い方向に導いてくれるかもって……」
「確かに千咲斗ちゃんみたいな子は今までにいなかった。でも、まだ悠介の心の傷は完全に治ってないのよ!さっきの反応見たら分かるじゃない!まだ話すタイミングじゃないのよ!」
真美はそう言うと、多少スッキリしたのか、少し落ち着きを取り戻した。
「とりあえず、あの話は悠介の決めたタイミングで話すわよ。それで良い?」
「う……うん。」
紗都美は小さく頷いた。
「でも、紗都美の言ってることは間違ってないわ。あの子ならきっと悠介を変えてくれる。あの子には、私達にない何かがある。でも、私達は何も手出しは出来ないわ。今はひとまず、様子を見ましょう。」
真美はそう言うと、お茶をすすった。紗都美も真美の言葉に安心したのか、胸を撫で下ろした。真美は家族のことを誰よりも考えている。だが、家族が大切であるが故に、このようにカッとなってしまうのだろう。これも彼女なりの愛情表現なのだ。一体過去に悠介に何があったのだろうか。

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