桜花は一片の約束

アオカラ

第3話 探偵見習い

神代じんだいと交わした約束を果たすために、あたしは調査を始めた。
まず最終目標を『神代が外に出られるようにする』とし、それに向けて必要な情報を探す。神代が言う「あたしと似た顔をした若い女の子」もそれなりに調べはしたようで、分かっていることを粗方聞いておく。とりあえず確認できていることは、神代は境内を出ることはできずあたしが腕を引っ張っても透明な壁に阻まれるようで行き来ができない。あと外の景色もその壁の所為で見えていない。
他にも、晴れの日しか神代は姿が見えない。彼から見ると境内にある桜は常に満開。ここはおよそ千年近く前にできた神社であるなどなど。その女の子が調べて得た情報の中で神代にも知らされた事を教えてもらう。
しかし、約束をしたはずの女の子はとある日から姿を消したかのようにここへ訪れなくなったらしい。喧嘩別れでもしたわけではなく、理由は不明とのこと。
どんな人だったかを聞いて、あたしは身内のリストを葬儀で集まった時の出席簿から調べることにする。



「いやー実里ちゃんと会うの久々! 前会ったのって結構前だったよね?」
「うん、そうだね……」
身内の中で、一番歳の近い従姉妹の家にお邪魔した。彼女はあたしと同い年で、改めて会うと顔つきも似ている気がして、候補の一つかと考えたが空気感の違いになかなか話が乗らない。
「最近何してるのー?」
「あたしは、まぁ色々」
「そっかー。あたしこの前彼氏と別れてさー。良い人探してるんだけど知ってる?」
「……」
絶句する。同い年なんだよな? そんなほいほい男替えられるのか?

「ごめんね実里ちゃん、この子男癖悪いから気にしないで?」
お茶とお菓子を持ってきた彼女のお母さん、つまり私から見て叔母さんは困ったように言う。
「男癖悪いのは遺伝ですよーだ」
「お母さんはそんな遺伝子残した覚えありません」
「じゃあお父さんの方が悪いよーだ」
他愛ない掛け合いをしている二人の姿は、今のあたしには眩しかった。母親とこんな気兼ねないやりとりなど、ニートになってから出来てない。それはきっと、あたしの持つ後ろめたさの所為。

「けれど実里ちゃん、おばさんびっくりしたわ」
「え」
ぎくりとする。
「急に会って聞きたいことがあるなんて連絡が来るとは思わなかったからねぇ。最近はあまり元気ないって聞いてたから」
「えっ、実里最近やばいの?」
二人して心配するような目でこちらを窺がう。
「あー、全然そんなことないよ。元気なかったら、連絡すらできてないでしょ?」
「それもそうね」
母と娘は納得する。嘘をつくことばっかり上手くなったものだ。

「それで、さ。話は戻るけど聞きたいことがあってね?」
本題をさっさと持ち出し、話を聞いていくが結論から言えば従姉妹がその女の子ではなかった。あたしと似た顔つきをしていて、年齢が近いのは身内だとあまりいないことも、叔母さんから教えてもらう。

「けど身内を調べるって、何か良くない事でもあったの? 叔母さんが相談に乗ろうか?」
「あーいや、大丈夫。わざわざごめんね、休日に」
「いいのいいの、生きている姿を見られただけでも嬉しいわ!」
「あー、お母さん実里を勝手に死んだ扱いしてたんだー」
「こら、失礼なこと言わないの」
微笑ましいものだ。けど弟ともこんなやりとりはしているから、家で過ごすことが苦痛なわけでは無い。

「でもなんか、実里ちゃんがそうやって色々聞き込みしている姿、私のお母さんを見ているみたいだわ」
「ん? えっと、叔母さんのお母さんっていうとあたしから見ておばあちゃん?」
「そうそう。娘の私が言うのもなんだけど、おばあちゃんは超有能な探偵さんだったから。それに顔つきも若い頃のおばあちゃんと似ているし、実里ちゃんを見ていると少しだけ懐かしくなるわ」
おばあちゃんとあたしは、顔つきが似ているのか。歳は離れすぎているが、まさかな。
それを聞いていた従姉妹は聞いてくる。
「おばあちゃんの事あんまり知らないんだけど、実里もそうだよね?」
「あ、まぁそうだね。結構前に亡くなってたよね」
「そうそう、従姉妹みんな集まってわいわい遊んだことぐらいしか覚えてないよねー」
寂しげに笑いながら、叔母さんが言葉を添える。
「二人はまだ4歳だったものね。憶えていなくても仕方ないわ」

あたしは、憶えている。あの葬儀の日を。
それはわいわい遊んだ事でも無く、おばあちゃん本人の事でもなく。
集まる叔父叔母に、知らない大人たちが、みんな本当に悲しそうな顔をしていたことが、強く深く記憶に根付いている。
大きくて強いはずの大人達が、こんなに悲痛な表情をするのかと。
その時は春真っ盛りで、黒く暗い葬儀に似合わない桜が満開の時期であったから、あたしは今も桜の香りを感じると何となく思い出してしまう。だから春が苦手。

「えーっと、ちょっと聞いても良い?」
「良いわよ、何でも聞いてくれて」
「おばあちゃんが探偵だったって言ってたけど、それって結構若い時からだった?」
「そうらしいわ。おじいちゃんと会う前から探偵業でご飯を食べてたみたいだし。それに解決せずに終わった依頼は全くないと言われるぐらい、信頼されてたらしいわ。時代に比べて珍しい人よね」
「解決しなかった事件は無い……。あと一つ、聞いても?」
「まぁ! それ一言一句そのままお母さんの口上よ! びっくりしたわ!」
「……あ、そう。んで聞きたいのは、おばあちゃんが生きてた時に使ってた資料とかは今残ってたりする?」
「えっと確か……実里ちゃんの家が遺品を多めに残しておいてくれたはず。今も捨てていなかったらあるんじゃないかしらね?」
「ふむ、なるほど」
日記を取り出し軽くメモするあたしを見て、従姉妹は面白い物を見るように声を上げる。
「実里は探偵向いてるかもね!」
従姉妹が根拠の見えない言葉を吐き、はて? となる。
「そうね、向いてるかもしれないわ」
叔母さんまで同意するから余計に分からなくなる。

「えーと……なんで?」
「そりゃあねー?」
「そうね?」
二人は母娘らしく似たような仕草でうんうんと頷いている。
「「実里ちゃんはおばあちゃんと似ているから」」
寸分違わず言葉がハモる二人は、きゃーきゃーと騒ぐ。やっぱり空気感が違う家庭だ……。

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