中学生の頃に死んだ彼女が十年後、教え子になった ~アンチェリーブロッサム~

アオカラ

最終話 18年越しのプロポーズ


卒業式を終え、生徒達は泣いたり笑ったり忙しそうに高校最後の日を楽しんでいた。
吹き抜ける風は三月中盤のまだ寒さを感じられる風であり、桜の気配は薄い。

けれど、約束の地へ向かうと桜子は制服姿のまま、待っていた。

「寒くないか?」
「全然? むしろ今から起こることに対する緊張と興奮で、体の中はあったかいぐらいだよ」
「そうか」

桜子はぷらぷらと足を振って俺の言葉を待っている。小さな箱を入れているポケットの中に手を突っ込みながら、話し始める。

「春川、まずは卒業おめでとう」
「ありがとう、秋田先生」
「そして、桜子。本当に、待たせてすまなかった。だが待たせた相応の準備はしてきた」

そう言って俺はポケットから箱を取り出し、開けて中身を見せる。そこには細めの指輪が静かに佇んでいた。

「俺と、結婚を前提にお付き合いして下さい」

堂々と、迷いなくはっきり告げる。
一年生の頃とは比べ物にならないほど、女性らしく大人びた顔を見せるようになった桜子は、頬を桜色に染めてはにかむように笑い、答える。

「はい、よろこんで」

安心のあまり、俺は「はあぁ……」と長い溜息を吐きながら項垂れる。

「えっ、どしたの葉太?」
「いや……良かったと思って……。断られたらどうしようとか思ってたから……」
「何言ってるのさ。高校生活の間、告られはしても付き合ってこなかったのを見てきたでしょ? 逆に葉太の愛はそんな物だったのか聞いてみたいね」
「娘ほどの歳の女にプロポーズとか、普通に犯罪だよなぁ……」
「今更っ!? 私最初に言ったじゃん!」
「けど中身は三十三歳だからなぁ…」
「おいこら、十八歳だぞ、これからJDだぞ」
「キャンパスデートとかしたかったなぁ……」
「わかったよ! 文化祭とか誘うからさ! そんな落ち込むなって!」

満開には遠い、細々と花を咲かせる桜の下で、二人は十八年ぶりに恋人らしい会話をすることができた。
とある中学生のカップル二人がベンチで楽しくお喋りしている光景は、ある時片方が居なくなったことで終わりを迎えてしまっていた。

それを寂しく思っていた木は、一度だけ願った。二人の再会を。

予期せぬ形で叶えられた恋人との再会は、それでも彼らにとって喜ばしい出来事であり、魂を売ってでも叶えたい夢だった。

桜の花はまだ散らず、二人の門出を祝い、彼らの恋心を代弁するような甘い色で彩りを添えたのだった。


*数年後


五月。
桜の花は散り、すっかり新緑の景色に包まれた公園のベンチで、葉太は穏やかで平凡な休日を満喫していた。
ぽかぽかと暖かい陽気に肌を撫でるような風が吹き、まさに外出日和な天気であった。

「お母さんこっちー!」
「はいはい、行くからちょっと待ってー」

公園の遊具で遊んでいるのは、僕の息子と僕の奥さん。
二人とも元気で良いことだ、きっと帰ったらすぐ寝てしまうだろう。

「あなたー? ちょっと飲み物買ってくるからこの子お願いー!」
「オッケー」
手を上げてOKサインを送る。ベンチから立ち上がり、息子のそばへ向かう。

「お父さん! お父さんの名前って何からできてるの?」
「名前か、五月に生まれたからだよ」
「へー、なんで?」
いまいちよく分かっていなかった息子のために、しゃがみ込んで肩に手を置きつつ、説明を始める。

「葉太の『葉』はあの木にある緑色のものなんだ。葉っぱのように若々しく、散っても散ってもまた付ける強い姿を取って、付けられたんだ」
「えー、難しい! お母さんは桜って言ってたよ!」
「あー、まぁそうだな」

今は飲み物を買いに行っている奥さんのことを思い出し、そういえば彼女の名前の由来は聞いたことがなかったと考える。

「はいはいお二人さん、ちゃんと水分補給しなさいよー」

戻ってきた桜子は三人分のスポーツドリンクを持っていた。一度水分補給のためベンチに家族三人で座り、並んでごくごくと飲む。

ちょっと飲んだらすぐ遊びたくなったらしく、息子はまた遊具の方へ向かった。四十歳を越えた身体はなかなか融通がきかず、まだ休憩タイムである。
隣に座る桜子に、何気なく問いかける。

「なあ、お前の名前の由来って何かあったっけ?」
「話したことなかった? 桜のように散っても散ってもまた花をつけるしぶとさ? みたいなイメージで付けられたの」
「おお、僕とは別方向で似ているな」
「そうかな? 私は葉太も似たような物だと思ってるけど」
「えっ?」
「ほら、桜のあとには『葉桜』が付くじゃん? わりと似た物同士じゃないかな、私たち」

「はは」と自分の言った言葉に柄も無く照れて、その熱を冷ますようペットボトルに口をつけ、くいっと飲む。飲み終わるとそれをベンチに座る葉太に預け、桜子は息子の元へ駆け寄った。

葉桜、か。
桜色の花びらが散っても、そうやって再評価されるのだから、人気者だよな、君はさ。

葉太は顔を上げて、後ろにある葉桜を眺めながら、ニヤッと笑う。
青い桜は五月の風に揺られる。まるで、笑い返すように。

二人は夫婦となり、子供が生まれた事で、葉桜が見届ける人間はまた一人増えましたとさ。

          

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