中学生の頃に死んだ彼女が十年後、教え子になった ~アンチェリーブロッサム~

アオカラ

第2話 少年少女が恋夢のあと


公園で春川はるかわはベンチに座り、ぷらぷらと足を振っている。新緑に染まり悠遊と佇んでいる葉桜を彼女はどこか楽しそうに眺めていた。
葉太の足が自然とそこに向いていたのは、そのベンチが散歩の休憩ポイントであるのに、彼女に占領されていたから。決して、話しかけるためではなく。
しかし、それすらも分かっていたかのように彼女は葉太を見据える。

「……春川はるかわ
「よっ、葉太ようた
「お前……担任の教師に向かってなんて口の利き方だ」
「あんたこそ、元恋人に向かってなんて可愛げのない口の利き方してるのよ」
「双子の空似だろう」
「双子だったら葉太と同い年でしょ? ほら見てよ、なりたてぴっちぴちのJKだよ」

そう言って胸を無理やり寄せて女性の体つきをアピールしてくる春川はるかわだが、元々華奢な身体つきのために少しあどけない。

三十路みそじが無理をするな、痛い」
「体はJKだっつの」
「精神の方が問題だろうが、三十路がそんなことしてるから余計痛いと言ってるんだ」
「ガワが良ければ何でもいいでしょ?」
「良くない。人を動かすのは心だ」
「本好きが言いそうな言い訳してるね~」
「ほっとけ」

彼女は座りながらベンチの右側へと移り、スペースを空ける。促されるよう俺は隣に座り、少し間を空けて本題に入る。

「……本当に桜子さくらこなのか?」
「十五年振りだね、葉太ようた
「十五年前、交通事故で死んだ。あの桜子なのか?」
「うん。そう」
「このベンチで告白して、俺の彼女になって、高校生を迎えられずに3月の終わりに亡くなった、あの『春川桜子はるかわさくらこ』なのか?」
「その通り。不思議だよね、同姓同名の女の子が4月に生まれたからなのか、怨念なのか、その子に乗り移っちゃったみたいでさ」
「記憶は、残っているのか……?」
「うん、わりとしっかり」
「じゃあ、本当に心は三十路なんだな?」
「15+15=30だけどさぁ、もう少し言い方あるでしょうが。女だぞ? 歳の話はタブーって腐るほど言い回されてるじゃん」
「同い年にそれは通用せん」
「言われてみればそうかも……」

幼馴染の年齢を知らないと言う方が合理性のかけらも話の面白さもない。

「俺の『名前の由来』をお前が質問してきたのは、分かってたからなのか?」
「あれで私を分かるって思ったからね。秘密の質問ってやつだ」
「姿まで瓜二つというのは、どういう原理なんだ。DNAまで一緒なのか?」
「うーん、なんて言うのかな」

桜子さくらこは長い髪の先にある枝毛をいじりながら、準備してきた物を並べるかの如くつまらなさそうに言う。

「ペットは飼い主に似るって言うじゃん? 精神が私だからすこーしずつ体つきも似てきたんだよね。まぁ食事の好みが一緒だったら食習慣も私好みだし、似てきて当然かもね?」
「赤ん坊のころから、中学生並みの知能を持っていたのか?」
「あー、それはどうだろ。赤ちゃんの時は脳がその程度しか大きさが無いから、結局知能も赤ちゃんレベルなんだよ。しかも、知識や記憶はあっても時代は違うじゃん? 基礎を絶えず押さえておかないといけないのはあったよ」
「……記憶を持って転生は必ずしも便利ではないのか」
「うん、実際子供の頃は遊んだらすぐ眠くなってたし、身体もちっさいから動ける範囲が狭くて効率悪いよ。それに……」
「それに?」

彼女は言いかけて音も無く立ち上がり、おもむろに歩き始める。散って砂に溶け込んでいる桜の花びらをわざと踏みつける足取りで。

「十五年、探し続けてようやく見つかったと思ったら……葉太は三十歳なんだもん。当たり前だけどさ」

そのまま、またどこかへ消えてしまいそうな背中をかろうじて呼び止める。

「それが、どうかしたのか?」

俺の言葉で振り返る彼女の頬は赤く染まり、涙のあとができていた。

「十五歳と三十歳で……教師と生徒って……。あはは……! 犯罪じゃん!」

気丈に振る舞う桜子は、何かを諦めたように枯れた笑顔を見せる。

「おい、桜子さくらこ……」
「じゃあね秋田先生! いい彼女さん見つかると良いね!」


応援したくない物を応援する、という嫌々な感情は感じ取れないほど屈託のない少女の笑みを浮かべて。なのに春の川のような生温い背中で、桜子は走り去ってしまった。
それを追いかける事ができなかったのは、葉太ようたが教師であり、春川はるかわは生徒であるという隔たりを捨てきれなかったから。

元恋仲である男女の別れを見届けたのは、公園に咲く葉桜だけであった。

「中学生の頃に死んだ彼女が十年後、教え子になった ~アンチェリーブロッサム~」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く