身代わり婚約者は生真面目社長に甘く愛される
22
ちゃんと悠馬さんの部屋に来たのは初めてかもしれない。プライベートにはあまり触れないようにしてきた。同棲していても自分だけのテリトリーは大事だと思っていたからだ。
黒を基調としたシンプルな部屋。すべてのものが使いやすいように考えて配置されているのが分かる。過ごしやすそうだとひと目で思った。
ベッドに座る。
「……悠馬さんのにおいがする」
「男臭いとかそういう?」
「ううん。安心するにおい」
「俺も君のにおいは安心する」
悠馬さんは笑って、そっと額に口づける。まぶた、頬、唇。喉まで下りて私の部屋着の裾に手を触れた。
「その前に、電気消してほしいな」
「そうか。真っ暗だと見えないから、小さいのだけつけていい?」
「……うん」
部屋の隅にある間接照明だけを残し、部屋の電気が落とされた。おぼろに悠馬さんの輪郭が見える。
服を脱いで下着だけになる。
探るように悠馬さんの指が私の皮膚を滑り、くすぐったかった。その後を追うように唇が落ちる。
左肩に鈍い感触。あまり傷跡の感覚は良くない。
「あんまり、触らないで……」
「なんで?」
「面白いものではないでしょう?」
「君の一部だから、もっと知りたくて」
……どんな顔して言ってるのだろう。そして私はどんな顔して聞いているのだろう。
つぅ、とあばらからへそまでなぞっていく。ショーツまで届くと指が止まる。
「いい?」
「……ん」
顔なんて見えないと分かっているけど、腕で顔を隠しながら私は返事をした。
○□○
『これ、あげる!』
痛みに耐えながら、私は宝物を差し出す。
『この子がいたらもうさみしくないよ』
ねえ、だからもう泣かないで。
また会おうね。絶対だよ。
○□○
何か夢を見ていた。疲労感にたゆたいながら目覚める。
頭を動かし見たデジタル時計は夜中の二時を示していた。人の布団で寝るのは緊張して、よく眠れない。
水でも飲もうかと起き上がろうとすると身体が動かない。どうしてだろうと働かない脳で考える。
理由は簡単だった。悠馬さんが私を抱きまくらみたいにしているのだ。ちょっと重い。
だけど起こすのも悪いなあ……と悩んでいるうちに、悠馬さんが起きた。
「んー……寝れない?」
「ううん、ちょっと起きちゃっただけ。寝直そうかなって思っていたところ」
「そっか……」
寝ぼけているのかむにゃむにゃしている。かわいい。
傷跡がズキズキし始めてとっさに庇う。至近距離の場にいるのだから当然悠馬さんも気づいた。
「どうかした?」
「あの……傷跡が。疼いて」
「……」
手探りで悠馬さんが私の肩に触れた。
「痛い?」
「痛いというか、変な感じがする。この感じだと明日は雨かな」
「天気も分かるの?」
「気圧とかでなんとなく。特技というかなんというか」
傷跡そのものがコンプレックスなので大々的に特技と言ったことはない。もし天気が知りたいなら普通にニュースを見ればいい話だし。
「雨か。月曜日に雨だとちょっとテンション下がる」
「分かる。だから明るい色の傘で乗り切っているよ、私は」
「あのミントグリーンの?」
「そう。水に濡らすと模様が浮かび上がるんだ。……でもこれ、さしている人には分からないんだよね」
「面白いね」
「悠馬さんもなにか明るい色の傘を買おうよ。きっと雨の日でも楽しくなるよ」
小学生みたいなことを言っている自覚はあるが、半ば眠りながらなので仕方がない。
「どんな色がいいかな。俺、ビニール傘か黒い傘しかないからな……」
「今度探しに行こうよ」
「……うん、今度。今度……」
少しの間のあと、すぅ、と悠馬さんが寝息をたてる。
サイドテーブルの時計に手を伸ばして目覚ましをオンにした。これで寝過ごすことはないだろう。情事で遅刻しましたなんて恥ずかしすぎる……。
悠馬さんの腕の拘束が緩んで動けるようになったけれど、やっぱりこのまま寝ることにした。じっと横たわり、彼の気配を感じる。
窓の外では雨のかすかな音が聞こえ始めた。しずくの落ちる音を追いかけているうちに、私の意識は再び沈んでいった。
黒を基調としたシンプルな部屋。すべてのものが使いやすいように考えて配置されているのが分かる。過ごしやすそうだとひと目で思った。
ベッドに座る。
「……悠馬さんのにおいがする」
「男臭いとかそういう?」
「ううん。安心するにおい」
「俺も君のにおいは安心する」
悠馬さんは笑って、そっと額に口づける。まぶた、頬、唇。喉まで下りて私の部屋着の裾に手を触れた。
「その前に、電気消してほしいな」
「そうか。真っ暗だと見えないから、小さいのだけつけていい?」
「……うん」
部屋の隅にある間接照明だけを残し、部屋の電気が落とされた。おぼろに悠馬さんの輪郭が見える。
服を脱いで下着だけになる。
探るように悠馬さんの指が私の皮膚を滑り、くすぐったかった。その後を追うように唇が落ちる。
左肩に鈍い感触。あまり傷跡の感覚は良くない。
「あんまり、触らないで……」
「なんで?」
「面白いものではないでしょう?」
「君の一部だから、もっと知りたくて」
……どんな顔して言ってるのだろう。そして私はどんな顔して聞いているのだろう。
つぅ、とあばらからへそまでなぞっていく。ショーツまで届くと指が止まる。
「いい?」
「……ん」
顔なんて見えないと分かっているけど、腕で顔を隠しながら私は返事をした。
○□○
『これ、あげる!』
痛みに耐えながら、私は宝物を差し出す。
『この子がいたらもうさみしくないよ』
ねえ、だからもう泣かないで。
また会おうね。絶対だよ。
○□○
何か夢を見ていた。疲労感にたゆたいながら目覚める。
頭を動かし見たデジタル時計は夜中の二時を示していた。人の布団で寝るのは緊張して、よく眠れない。
水でも飲もうかと起き上がろうとすると身体が動かない。どうしてだろうと働かない脳で考える。
理由は簡単だった。悠馬さんが私を抱きまくらみたいにしているのだ。ちょっと重い。
だけど起こすのも悪いなあ……と悩んでいるうちに、悠馬さんが起きた。
「んー……寝れない?」
「ううん、ちょっと起きちゃっただけ。寝直そうかなって思っていたところ」
「そっか……」
寝ぼけているのかむにゃむにゃしている。かわいい。
傷跡がズキズキし始めてとっさに庇う。至近距離の場にいるのだから当然悠馬さんも気づいた。
「どうかした?」
「あの……傷跡が。疼いて」
「……」
手探りで悠馬さんが私の肩に触れた。
「痛い?」
「痛いというか、変な感じがする。この感じだと明日は雨かな」
「天気も分かるの?」
「気圧とかでなんとなく。特技というかなんというか」
傷跡そのものがコンプレックスなので大々的に特技と言ったことはない。もし天気が知りたいなら普通にニュースを見ればいい話だし。
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「分かる。だから明るい色の傘で乗り切っているよ、私は」
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