本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~

桜井 響華

支配人は公休日でも仕事目線です。【1】

カーテンの隙間から入り込む朝の日差しが私の目を覚まそうとしているけれど、まだ眠り足りない。身体が重ダルく起き上がる事を拒んでいるかのようにフカフカなベッドから離れられない。

隣で寝息を立てている支配人、もとい一颯さんも同じ状況なのか起きる気配がなかった。

もう少しだけ寝ていようと思いながら横向きになり、一颯さんの左腕に両腕を絡める。

「…恵里奈?」

眠っていると思い腕を絡めたのだが唐突に名前を呼ばれて心臓が跳ね上がる。まだ寝ぼけ気味の頭の中が無理矢理に再起動された。

「起きたの…?」

「まだ寝てますっ…」

寝ている振りをして目を閉じたままで掛け布団の中へと潜り込む。

「寝ている時に返事をする奴がいるか!……おはよ、恵里奈」

「おはようございます…」

顔の部分だけ掛け布団を剥ぎ取られて、寝起きだというのに整った顔立ちで見つめられる。

「朝から可愛い事してくれたから、寝た振りしてようかとも思ったんだが…生憎、今日は予定が詰まってるから泣く泣く起きた」

「……そ、その割には、な、な、何してる…ん、ですかっ!」

「恵里奈が隣に居る事を確かめている」

一颯さん宅にお泊まりをしてベッドで一緒に朝を迎えた。

露わになった肌に無数の赤い斑点が広がり一颯さんに抱かれたという証拠が残されている。

一颯さんは私の胸元に顔を近付けて赤い斑点をなぞるように肌に触れている。

「 明るい中で改めて見ると本当に綺麗な白い肌をしている。他の男に渡したくない…」

「じ、時間がないんじゃないんです、か?…」

「そうだな、…でも、今、抱きたい」

されるがままな甘い束縛から逃れる事など出来ずに時が過ぎていった。

今後の予定は聞かされていなかったけれど二度寝する事は許されずに、更に重ダルく感じる身体をベッドから降ろされてシャワーを浴びた。

シャワーを浴び終わり、準備が整い次第に車に乗せられて行先の分からないドライブへと出発。

「朝も昼も食事が一緒になって悪かったな…」

「大丈夫です。仕事上、そんな時もありますから慣れっこです」

目が覚めてからもベッドに居る時間が長く時間短縮の為に朝食も取らずに出かける事になった。

車で出発するまで行先も伝えられず、先程、ランチブッフェに向かっていると知った。

「そうか、なら安心した。それより…身体は大丈夫か?」

「……あ、えと…大丈夫じゃないです。何だかダルいです…」

身体を気遣って信号待ちの時に私に問いかけて来たけれど…誰のせいで、身体がダルいのか今一度考えて下さい!信号待ちだからって流し目で見るの止めて下さい!

昨日の夜の事、朝の事、色々と頭の中を駆け巡ってしまうから───……

「……なら、行くの辞めてベッドに戻るか?添い寝ならいくらでもしてやる」

「だ、だからっ、そうじゃなくて…!」

「顔真っ赤…、本当に可愛いな恵里奈は…」

一颯さんが余裕過ぎて憎たらしいので嫌味を言ったつもりが逆手に取られた。

まるで子猫を撫でるかの様に優しく髪の毛をクシャクシャと撫でクスクスと笑っている。

恋愛経験も乏しい私は一颯さんみたいに余裕がある訳ではなく、ちょっとの事でも過剰な程に反応してしまう。

「い、…一颯さんみたいに…よ、余裕なんて私にはないんです」

「余裕…?恵里奈に対しては俺も余裕なんてないつもりだったけど。見張ってないと危なっかしいし、悪い虫は寄って来るし…。不安要素だらけで毎日のようにハラハラさせられてるんだけど…!」

「そうは見えませんけど…?」

「まぁ分かって貰おうとは更々思ってはいないけど恵里奈に逃げられないように日々頑張ってるところです」

「逃げたりしませんよ、私…?」

運転をしている一颯さんの横顔を見ながら笑みを浮かべる。

大切に扱われているのは分かる。

一颯さんと共に歩んで行く為には私自身もステップアップしなきゃ!

「一颯さんと一緒に居られるように私も頑張りますね。いつか一颯さんがドキドキする位の女性になって跪いてくれるようになりたいです」

「…ははっ、気長に楽しみに待ってる」

「気長には余計ですよっ!」

私は本気で言っているのに冗談半分に聞いているのか笑っている。

「今でも充分、綺麗だよ。あんまり綺麗になられると悪い虫を追い払うのも楽じゃないから、程々に…」

優しく頭を撫でて小さな声で呟く。

余りにも声が小さ過ぎて聞き取れなかったけれど横顔はほんのり赤みを帯びていた。

何となくだけれど少しだけ照れているのかな?珍しい、新たな一面の一颯さんを見れて嬉しい。

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