本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
バトラーを目指す方向性に決まりました。【3】
「篠宮……?」
遠くで名前を呼ばれた気もするが、ふわふわとした気分のまま、意識が遠のく───……
いつの間にか寝てしまい、少しの間、夢を見ていた。以前の職場のリゾートホテルで支配人と一緒に働いている夢。
従業員は変わってなく、大好きな仲間達がそこには居た。
「………!?」
幸せな夢を見つつ寝返りを打った時、コツンと何かに頭をぶつけて、目が覚める。
うっすらと目を開けると、支配人がすぐ側で寝息を立てて寝ている。寝ぼけている頭での状況判断に時間がかかったが、ベッドの上で支配人に腕枕をされながら寝ていたらしい。
私を運んでくれたのかな?
腕が疲れるだろうと思って、支配人の体制を直そうとすると、捕らわれて深く囲われる形になった。
「……依子?…篠宮?こっちおいで…」
完全に寝ぼけているみたいで、依子ちゃんなのか?私か?を迷いながらも抱きしめられて身動きが取れない。
高鳴っていく鼓動と共に目が覚めた。
支配人は私の心境などおかまいなしに、スヤスヤと眠っている。
一度目が覚めてしまったが、こんな状態では再度眠る事など不可能に近い。
…けれども、抱きしめられているのは心地良くて、ドキドキしながらも前側に回された腕をキュッと掴む。深く眠っていて気付かないから、便乗しても良いよね?
当分眠りにつけそうもないけれど、支配人の寝息を聞きながら再び瞼を閉じた。
「……おはよ、篠宮」
しばらくの間、瞼を閉じても眠る事が出来ずにいたが、自然の流れで眠りについていたのだろう。
「…朝食、作っておいた」
目が覚めた時には支配人の姿はなく、ソファーに座り、ニュースを見ながらコーヒーを飲んでいた。
「…すみません、朝食から作ろうって決めてたのに…。しかも、遅くまで寝てしまって…」
「気にするな。疲れてるのに手料理食べたいって無理強いしたのは俺だから…。逆に悪かったな。歯ブラシとタオルは洗面所に置いてある。支度が出来たら朝食にしよう」
「……はい」
気合いを入れて買い物して来たのに全然役にも立たず、逆に迷惑をかけている私。
洗面所で支度をしながら、反省をする。
いくら背伸びしてみても追いつきそうもないのは、私がまだまだ子供だからだ。
"好き"だって自覚しても、このままじゃ、気持ちを伝える事すらも躊躇してしまう。隣に居ても釣り合いのとれる女性になる為にはどうしたら良いのだろう?
「…ふわふわ、あっ、チーズ入ってる!美味しそう…」
手短に支度を済ませた後、キッチンで二人だけの朝食タイム。
支配人はふわふわのチーズ入りオムレツとサラダ、トーストを準備してくれていた。
オムレツもトーストも、私が洗面所で支度をしている時に準備してくれたらしく、アツアツのまま。
「そんなに喜んでくれるなら、作りがいがあるな」
オムレツを前にキラキラと目を輝かせてしまった私に対して、支配人はクスクスと笑う。きっと子供っぽい、と感じて笑ったのだろう。
それじゃ駄目なのに!…でも、目の前の美味しい誘惑には勝てません。
「美味しいです、とっても。私なんかより、料理が上手ですね。支配人って器用に何でもこなしますよね?」
「一人暮らしが長いからな。…器用貧乏で何でも自分でやってしまうから、30を過ぎた今も独り身だ」
否定しないところが、自信家の支配人らしい。
「……最近は忙しくて、女の影もないから、見合いを進められてもいるが気乗りしない」
女の影はないって、やっぱり私の事は範疇にないのか、ポメラニアンの依子ちゃんと同じようにペットとして可愛がっているだけなのか…。
本気で相手にされてないのが浮き彫りにされたようで、イラッとして反抗してしまう。
「まぁ、さぞかし、おモテになるでしょうからね…。お見合いなんてしなくても、その気になれば沢山寄って来ますよね!」
お皿を見ながら、ムスッとした顔でイライラをぶつけてしまう。
その後、チラリと支配人を見た時に目が合い、
「…そうだな。適度には寄って来るが、肝心な女はどっちつかずで、弄ばれてるとしか思えないんだが…。なぁ、篠宮?」
と言って見つめられる。
「し、知りません、そんな事!誰の事を言ってるのかも知らないし!」
ムキになり、焦りながら否定をしてしまう。
「…ふうん?まぁ、いいや。ゆっくりと時間をかけて落とすから」
…多分、いや絶対に近い程、私の事を指しているのだと思うけれども、違っていたらショックを受けて沈むのは私だ。
支配人の隣に堂々と立つ為には、恥を欠かせる事がないように職場でも一流のサービススタッフにならなくてはいけない。
現段階で一流のサービススタッフになる近道はやっぱり、アレだ。
アレしかない。
「支配人…私、バトラー目指します。ベッドメイクと婚礼サービスとかの仕事も楽しいですけど…もっともっと人と触れ合うサービスをしたいんです。一流のサービススタッフになれるように頑張りますから…」
決心を固めたのは、貴方に相応しい仕事の出来る女性になりたいからだなんて、口が裂けても言えない。
元々、お客様との触れ合いは大切にしてきたし、サービススタッフとして成長したいのも確か。頼ってばかりいたら、本気になってくれる前に呆れられてしまうもの。
職場での人間関係は後回しで、今は自分が出来る事を精一杯頑張ろう。
「いきなりどうした?でも、そうと決めたなら頑張れよ」
支配人はいつになく優しい笑みを浮かべて、段取りをしてくれると言った。
予定としては三ヶ月間、本店で研修をしてからこちらのホテルでのプランを企画するそうだ。
「所有期間がまだ半月以上はある。ゴールデンウィークのピークが過ぎたら、本店に送り届ける。それまでに準備をしておけよ?」
「はい、よろしくお願いします…」
朝食後、寮に戻って着替えをして、先日の待ち合わせ場所で再び会う。
春の暖かい陽射しと新緑に癒され、車でドライブをした後は、夕食を二人で作って食べて、誰かに見つからないか冷や冷やしながら寮付近まで歩きで送ってもらった。
恋人同士のデートと変わらない過ごし方。キスまで交わして、同じベッドで眠りについたが、恋人だと確定はされていない曖昧な関係。
バトラー研修に行った三ヶ月後には、何事もなかったかのように振り出しに戻っているかもしれないけれど…、今の子供じみた中身の自分では想いを伝える事なんて出来ない。
精一杯、努力して釣り合いがとれる女性を目指そう───……
遠くで名前を呼ばれた気もするが、ふわふわとした気分のまま、意識が遠のく───……
いつの間にか寝てしまい、少しの間、夢を見ていた。以前の職場のリゾートホテルで支配人と一緒に働いている夢。
従業員は変わってなく、大好きな仲間達がそこには居た。
「………!?」
幸せな夢を見つつ寝返りを打った時、コツンと何かに頭をぶつけて、目が覚める。
うっすらと目を開けると、支配人がすぐ側で寝息を立てて寝ている。寝ぼけている頭での状況判断に時間がかかったが、ベッドの上で支配人に腕枕をされながら寝ていたらしい。
私を運んでくれたのかな?
腕が疲れるだろうと思って、支配人の体制を直そうとすると、捕らわれて深く囲われる形になった。
「……依子?…篠宮?こっちおいで…」
完全に寝ぼけているみたいで、依子ちゃんなのか?私か?を迷いながらも抱きしめられて身動きが取れない。
高鳴っていく鼓動と共に目が覚めた。
支配人は私の心境などおかまいなしに、スヤスヤと眠っている。
一度目が覚めてしまったが、こんな状態では再度眠る事など不可能に近い。
…けれども、抱きしめられているのは心地良くて、ドキドキしながらも前側に回された腕をキュッと掴む。深く眠っていて気付かないから、便乗しても良いよね?
当分眠りにつけそうもないけれど、支配人の寝息を聞きながら再び瞼を閉じた。
「……おはよ、篠宮」
しばらくの間、瞼を閉じても眠る事が出来ずにいたが、自然の流れで眠りについていたのだろう。
「…朝食、作っておいた」
目が覚めた時には支配人の姿はなく、ソファーに座り、ニュースを見ながらコーヒーを飲んでいた。
「…すみません、朝食から作ろうって決めてたのに…。しかも、遅くまで寝てしまって…」
「気にするな。疲れてるのに手料理食べたいって無理強いしたのは俺だから…。逆に悪かったな。歯ブラシとタオルは洗面所に置いてある。支度が出来たら朝食にしよう」
「……はい」
気合いを入れて買い物して来たのに全然役にも立たず、逆に迷惑をかけている私。
洗面所で支度をしながら、反省をする。
いくら背伸びしてみても追いつきそうもないのは、私がまだまだ子供だからだ。
"好き"だって自覚しても、このままじゃ、気持ちを伝える事すらも躊躇してしまう。隣に居ても釣り合いのとれる女性になる為にはどうしたら良いのだろう?
「…ふわふわ、あっ、チーズ入ってる!美味しそう…」
手短に支度を済ませた後、キッチンで二人だけの朝食タイム。
支配人はふわふわのチーズ入りオムレツとサラダ、トーストを準備してくれていた。
オムレツもトーストも、私が洗面所で支度をしている時に準備してくれたらしく、アツアツのまま。
「そんなに喜んでくれるなら、作りがいがあるな」
オムレツを前にキラキラと目を輝かせてしまった私に対して、支配人はクスクスと笑う。きっと子供っぽい、と感じて笑ったのだろう。
それじゃ駄目なのに!…でも、目の前の美味しい誘惑には勝てません。
「美味しいです、とっても。私なんかより、料理が上手ですね。支配人って器用に何でもこなしますよね?」
「一人暮らしが長いからな。…器用貧乏で何でも自分でやってしまうから、30を過ぎた今も独り身だ」
否定しないところが、自信家の支配人らしい。
「……最近は忙しくて、女の影もないから、見合いを進められてもいるが気乗りしない」
女の影はないって、やっぱり私の事は範疇にないのか、ポメラニアンの依子ちゃんと同じようにペットとして可愛がっているだけなのか…。
本気で相手にされてないのが浮き彫りにされたようで、イラッとして反抗してしまう。
「まぁ、さぞかし、おモテになるでしょうからね…。お見合いなんてしなくても、その気になれば沢山寄って来ますよね!」
お皿を見ながら、ムスッとした顔でイライラをぶつけてしまう。
その後、チラリと支配人を見た時に目が合い、
「…そうだな。適度には寄って来るが、肝心な女はどっちつかずで、弄ばれてるとしか思えないんだが…。なぁ、篠宮?」
と言って見つめられる。
「し、知りません、そんな事!誰の事を言ってるのかも知らないし!」
ムキになり、焦りながら否定をしてしまう。
「…ふうん?まぁ、いいや。ゆっくりと時間をかけて落とすから」
…多分、いや絶対に近い程、私の事を指しているのだと思うけれども、違っていたらショックを受けて沈むのは私だ。
支配人の隣に堂々と立つ為には、恥を欠かせる事がないように職場でも一流のサービススタッフにならなくてはいけない。
現段階で一流のサービススタッフになる近道はやっぱり、アレだ。
アレしかない。
「支配人…私、バトラー目指します。ベッドメイクと婚礼サービスとかの仕事も楽しいですけど…もっともっと人と触れ合うサービスをしたいんです。一流のサービススタッフになれるように頑張りますから…」
決心を固めたのは、貴方に相応しい仕事の出来る女性になりたいからだなんて、口が裂けても言えない。
元々、お客様との触れ合いは大切にしてきたし、サービススタッフとして成長したいのも確か。頼ってばかりいたら、本気になってくれる前に呆れられてしまうもの。
職場での人間関係は後回しで、今は自分が出来る事を精一杯頑張ろう。
「いきなりどうした?でも、そうと決めたなら頑張れよ」
支配人はいつになく優しい笑みを浮かべて、段取りをしてくれると言った。
予定としては三ヶ月間、本店で研修をしてからこちらのホテルでのプランを企画するそうだ。
「所有期間がまだ半月以上はある。ゴールデンウィークのピークが過ぎたら、本店に送り届ける。それまでに準備をしておけよ?」
「はい、よろしくお願いします…」
朝食後、寮に戻って着替えをして、先日の待ち合わせ場所で再び会う。
春の暖かい陽射しと新緑に癒され、車でドライブをした後は、夕食を二人で作って食べて、誰かに見つからないか冷や冷やしながら寮付近まで歩きで送ってもらった。
恋人同士のデートと変わらない過ごし方。キスまで交わして、同じベッドで眠りについたが、恋人だと確定はされていない曖昧な関係。
バトラー研修に行った三ヶ月後には、何事もなかったかのように振り出しに戻っているかもしれないけれど…、今の子供じみた中身の自分では想いを伝える事なんて出来ない。
精一杯、努力して釣り合いがとれる女性を目指そう───……
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