本日、総支配人に所有されました。~甘い毒牙からは逃げられない~
レストランの研修期間です。【3】
昨日の仕事終わりに支配人から、「明日、セッティングが終わり次第、星野にレストランサービスの特訓をしてもらう様に頼んである。あぁ見えて、仕事のスイッチが入ると厳しくなるから気をつけろよ、二人共…」と言われた。
その後直ぐに支配人が口角を上げてニヤリと笑ったが、その微笑の意味は後々、痛い程に理解する事となる。
私達は星野さんが豹変するなんて有り得ないと思っていた。
…が、そのまさかで、披露宴のセッティングが終わった後のスパルタとも言えるサービスの特訓は半泣きになりそうな位に辛かった。
基本的なトレーの持ち方、歩き方、グラスの置き方、皿の下げ方などダメ出しがなかった項目は一つもなく、落ち込む。
唯一、褒められた点は、お辞儀の仕方と笑顔のみ。
支配人は溜まっている自分の仕事をこなしつつも様子を見に来てくれたが、ただ見守るだけで声はかけずに遠くから見ては去って行くを繰り返していた。
特訓の成果もあり、披露宴のサービスは粗相する事もなく無事に終了。
配膳会(派遣のレストランサービススタッフ)から来ていた方々は、手馴れたもので立ち回りも早く、私や中里さんは唖然に取られていたが、負けたくない!との一心で乗り越えた。
披露宴が終了し、お客様をお見送りした。動きすぎてふくらはぎがパンパンになり、重だるく疲労感がどっとのしかかる。
「良く頑張ったね、二人共。お疲れ様!」と言って星野さんが私達の肩を叩いた時、無事に終わったんだと安心した。
披露宴の最中、星野さんは披露宴のバンケットマネージャーとして新郎新婦に付き添い、各関係者との連携を取りながら成功へと導いた。
星野さんの立ち回り、凄く素敵で惚れ惚れしたし、披露宴の介添人(別名アテンダー)の女性も輝いていて憧れな存在。
自分自身も輝けた一日になったと思う。
「篠宮、中里、お疲れ様!片付けが終了したら上がりなさい」
披露宴サービスの関係者は終了後に遅めのお昼休憩を取り、現在は片付け中。
支配人が様子を見るついでに、ぐったりしている私達に上がり時間のお知らせに来たらしい。
従業員食堂に行き椅子に座ると、披露宴の最中の緊張感が解き放たれると同時に疲労感が身体中を襲った。
重だるい脚を無理矢理に動かし、配膳会の方々と一緒に会場の片付けをしているが手慣れているのか作業が早すぎる。必死でついて行こうとするが、身体がついて行かない。
「篠宮さんって言うんだね。どこかで見た事があるんだけど…?」
ナイフやフォーク、食器を下げもの用の台車に分別しながら片付けていると隣から話をかけられた。
振り向くと話をかけてきたと思われる人物は、配膳会から来ている大学生のアルバイトみたいな若い男性。
私の事を見た事があると言っているが、頭の中で思い出してみるけれど私には記憶の片隅にも残っていなそうだ。
「もしかして、系列ホテルに居た?」
「は、はい、居ました。リゾートのホテルで…」
「やっぱりー!そうだよね、フロントに居た女の子でしょ?可愛い子は皆、覚えてるからさぁ。俺は大学四年の…」
「は…、はぁ…」
返答に困り、眉間にシワを寄せていた私に助け舟が舞い降りる。
「私語、禁止」
私と彼の間に割り込み、皿を重ね始めたのは支配人で鬼軍曹が降臨した。
私達の様子を見に来た後も滞在し、私の場所とは別な場所で片付けのヘルプをしていたらしい。
冷たく低い声で注意を促され、大学生の男の子はいつの間にか別の場所へと移動していた。
「お前の見かけの幼稚さが軟派な奴らを引き寄せる。変わりたいなら明日の公休は空けておけ」
明日の公休…?
「明日は出勤ですよ?月曜日が公休ですが…」
「月曜日と交代した。篠宮と中里は私と一緒の公休にした方が面倒見れるから、そうした。とにかく、用事がなければ出かけるぞ。詳しい話は後だ、片付けに専念しろ」
自分の言いたい事だけを言い、私の側を離れた支配人。
片付けている音に紛れて、他の社員達には聞こえてないと思われるが支配人はとんでもなく自己中心的な行動と共に特別だと勘違いをしそうな誘いをしてきた。
『変わりたいなら明日の公休は空けておけ』という言葉を思い出し、片付けが進まない。
片付けをしながら繰り返し、繰り返し、表情や仕草、声のトーンを思い出しては頬に火照りを感じて、目線は支配人を追ってしまう。
確かに私は化粧も下手くそで、26歳になった割には20歳そこそこに見られてしまい、大人の女性には程遠い。
足が疲れてしまう為にヒールの高いパンプスも履けないし、口紅もつけた事はなく、色つきのリップだけ。
黒髪が基本なホテルマンの髪色に地味なまとめ髪。
支配人から見たら私は子供過ぎて、恋愛対象外どころか、サービススタッフとしても認められていないのかもしれない。
クビにならない為にも、支配人好みのサービススタッフになれる様に折角のお誘いなんだし、お言葉に甘えよう。
本当は…そんな綺麗事の思いは建前で、心の奥底では素直に喜んでいる自分が存在する。
支配人に惹かれ始めている気持ちを否定しつつも、何かあるかも?なんて下心も持ち合わせていた私だった───……
その後直ぐに支配人が口角を上げてニヤリと笑ったが、その微笑の意味は後々、痛い程に理解する事となる。
私達は星野さんが豹変するなんて有り得ないと思っていた。
…が、そのまさかで、披露宴のセッティングが終わった後のスパルタとも言えるサービスの特訓は半泣きになりそうな位に辛かった。
基本的なトレーの持ち方、歩き方、グラスの置き方、皿の下げ方などダメ出しがなかった項目は一つもなく、落ち込む。
唯一、褒められた点は、お辞儀の仕方と笑顔のみ。
支配人は溜まっている自分の仕事をこなしつつも様子を見に来てくれたが、ただ見守るだけで声はかけずに遠くから見ては去って行くを繰り返していた。
特訓の成果もあり、披露宴のサービスは粗相する事もなく無事に終了。
配膳会(派遣のレストランサービススタッフ)から来ていた方々は、手馴れたもので立ち回りも早く、私や中里さんは唖然に取られていたが、負けたくない!との一心で乗り越えた。
披露宴が終了し、お客様をお見送りした。動きすぎてふくらはぎがパンパンになり、重だるく疲労感がどっとのしかかる。
「良く頑張ったね、二人共。お疲れ様!」と言って星野さんが私達の肩を叩いた時、無事に終わったんだと安心した。
披露宴の最中、星野さんは披露宴のバンケットマネージャーとして新郎新婦に付き添い、各関係者との連携を取りながら成功へと導いた。
星野さんの立ち回り、凄く素敵で惚れ惚れしたし、披露宴の介添人(別名アテンダー)の女性も輝いていて憧れな存在。
自分自身も輝けた一日になったと思う。
「篠宮、中里、お疲れ様!片付けが終了したら上がりなさい」
披露宴サービスの関係者は終了後に遅めのお昼休憩を取り、現在は片付け中。
支配人が様子を見るついでに、ぐったりしている私達に上がり時間のお知らせに来たらしい。
従業員食堂に行き椅子に座ると、披露宴の最中の緊張感が解き放たれると同時に疲労感が身体中を襲った。
重だるい脚を無理矢理に動かし、配膳会の方々と一緒に会場の片付けをしているが手慣れているのか作業が早すぎる。必死でついて行こうとするが、身体がついて行かない。
「篠宮さんって言うんだね。どこかで見た事があるんだけど…?」
ナイフやフォーク、食器を下げもの用の台車に分別しながら片付けていると隣から話をかけられた。
振り向くと話をかけてきたと思われる人物は、配膳会から来ている大学生のアルバイトみたいな若い男性。
私の事を見た事があると言っているが、頭の中で思い出してみるけれど私には記憶の片隅にも残っていなそうだ。
「もしかして、系列ホテルに居た?」
「は、はい、居ました。リゾートのホテルで…」
「やっぱりー!そうだよね、フロントに居た女の子でしょ?可愛い子は皆、覚えてるからさぁ。俺は大学四年の…」
「は…、はぁ…」
返答に困り、眉間にシワを寄せていた私に助け舟が舞い降りる。
「私語、禁止」
私と彼の間に割り込み、皿を重ね始めたのは支配人で鬼軍曹が降臨した。
私達の様子を見に来た後も滞在し、私の場所とは別な場所で片付けのヘルプをしていたらしい。
冷たく低い声で注意を促され、大学生の男の子はいつの間にか別の場所へと移動していた。
「お前の見かけの幼稚さが軟派な奴らを引き寄せる。変わりたいなら明日の公休は空けておけ」
明日の公休…?
「明日は出勤ですよ?月曜日が公休ですが…」
「月曜日と交代した。篠宮と中里は私と一緒の公休にした方が面倒見れるから、そうした。とにかく、用事がなければ出かけるぞ。詳しい話は後だ、片付けに専念しろ」
自分の言いたい事だけを言い、私の側を離れた支配人。
片付けている音に紛れて、他の社員達には聞こえてないと思われるが支配人はとんでもなく自己中心的な行動と共に特別だと勘違いをしそうな誘いをしてきた。
『変わりたいなら明日の公休は空けておけ』という言葉を思い出し、片付けが進まない。
片付けをしながら繰り返し、繰り返し、表情や仕草、声のトーンを思い出しては頬に火照りを感じて、目線は支配人を追ってしまう。
確かに私は化粧も下手くそで、26歳になった割には20歳そこそこに見られてしまい、大人の女性には程遠い。
足が疲れてしまう為にヒールの高いパンプスも履けないし、口紅もつけた事はなく、色つきのリップだけ。
黒髪が基本なホテルマンの髪色に地味なまとめ髪。
支配人から見たら私は子供過ぎて、恋愛対象外どころか、サービススタッフとしても認められていないのかもしれない。
クビにならない為にも、支配人好みのサービススタッフになれる様に折角のお誘いなんだし、お言葉に甘えよう。
本当は…そんな綺麗事の思いは建前で、心の奥底では素直に喜んでいる自分が存在する。
支配人に惹かれ始めている気持ちを否定しつつも、何かあるかも?なんて下心も持ち合わせていた私だった───……
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