異世界女将 温泉お宿においでませ♪

ひさら

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ジダンの見習い先にはお昼少し前についた。今日は三人娘も一緒だ。
今日もマリカのお店でランチにするかと聞いたら、三人共に肉巻おにぎりがいい!と言われたのだ。
 
「うちの店の料理よりコハルさんのご飯の方が美味しいからね!」
 
と、マリカも言っていた。
うんうんと頷く三人娘。
じゃあそうしようと、早お昼を食べてやってきた。
 
お店の前を見回す。ジダンいるかな~?
前はこの隙間にジダンと先輩がいたんだよな・・・。
思い出したらちょっと気分が悪くなった。
いけないいけない。気持ちを切り替える。
 
あら。
ジダンはいなかったけど先輩が店先でボケッとしていた。
 
「こんにちは。ジダンか親方さんはいらっしゃる?」
 
先輩は、うんと頷くと、先にお店の中に入って振り返った。
もしかして待っててくれたのかな?
 
「ありがとう。ついでにこれを持ってもらえる? ありがとう。前に持って来た肉巻おにぎりよ。先輩好き?」
 
うんと頷く。
 
「よかった。たくさん作ってきたから、後でみんなで食べてね」
 
また、うんと頷く。
女性にシャイなタイプなのかしら?ジダンの事は殴ったくせに・・・。
 
小春さんはちゃんと憶えてるんですからね!悪かったと改心してジダンに謝るまで許さないんだから!
なんて顔には出さない腹黒です。
まぁ三十も過ぎた社会人ならこんなの普通。普通。
 
じっと先輩を見ていたら、先輩の目が挙動不審に泳ぎまくった。
あら、何か感じましたかね?
 
まぁ、それは置いといて。
なにかキョドっている先輩の後をついて店内に入る。
今日はジダンはいないのかしら?どこか外仕事に出てるのかな?なんて思っていると、奥には変わらないインパクトの親方がいた!
 
おぉっ!
顔を見ただけでも謝りそうになるわ!!
親方は全く変わらない悪人顔で(まだそんなに経ってないしね、そりゃあ変わらないか)迎えてくれた。
私は根性で踏ん張って笑顔で挨拶をした。
 
「お久しぶりです。温泉の時はお世話になりました。おかげ様でとても快適に過ごせています」
「気に入ってもらえたならよかった」
「今日はまたお昼にお邪魔しましてすみません。少しですが、後で皆さんと召し上がってください」
 
先輩を見ると、先輩は肉巻おにぎりの入った包みをテーブルの上に置いてくれた。
 
「ご丁寧にどうも。前に頂いたやつですか?ありがとうございやす、みんな喜びますや。
おぅ、それを持って作業場に行ってな!」
「はい!」
 
親方はニヤリと笑って(怖っ!!)先輩を顎で促した。
先輩は大きな声で返事をすると、肉巻おにぎりを持って出て行った。
ちゃんとしゃべれるんじゃん。
なら挨拶はしっかりしないとね。次回はがんばれ!
 
「ご依頼なんで時間は気にしないでくだせぇ。さっそく聞きやしょうか」
「はい、よろしくお願いします」
 
 
 
前の時と同じように絵に描きながら要望を伝える。
 
うちは町外れに建っていて、町を囲む壁際にある。
とはいってもちゃんと住宅地というか集落の一角にあって、町の中心地からは道も通っている。
うちはその公道から五分程私道を入った先にある。
敷地面積がだいぶあるようだ。
 
ようだというのは、スーさんマジックなんだろうなぁ・・・。
裏の林とか、どこまでも広がっている・・・ように見える。
行った事がないからどのくらいかわからないけど。
町を囲む外壁がある筈なんだけどね?周りの家々と比べても前庭が広すぎる。前どころか両サイドも広い。ただの空き地だけど。
お隣さんがお隣といえないくらい遠い・・・。
 
まぁそんな感じだから、今住んでいるうちの前庭にお宿を建ててもらおうと思っている。
お宿を建ててもうちが陰る事がないくらい敷地が広い。
 
お宿は、私道を入ってきて中庭を通って(日本庭園っぽく造る予定)正面にフロントの建物。両サイドに渡り廊下で繋いで離れが一棟ずつ、コの字型で計画している。
ここは靴を脱がない生活様式だからフロントと渡り廊下は靴のまま、部屋に上がる時は靴を脱ぐようにしたい。
裸足の解放感を知ってもらいたいわ!
 
離れに入ったらまずは靴脱ぎ場。
一段上がって引き戸(旅館なんかの襖のイメージ)を開けると、少し先に食事をするテーブルと椅子、その先にはゆったりと大きめのソファが置いてあって、一番奥が寝るスペースになっている。
特に間仕切りはなく、広いワンルーム(日本人的感覚で言うと三十畳くらい)にしたい。
解放感というか、ゆとりの空間を贅沢に過ごしてほしい。
 
ソファが置いてあるあたりの中庭と逆にある引き戸の外には、部屋付きの露天風呂。
もちろん源泉かけ流しね!
温泉に一番力を入れたいから、できれば檜のお風呂がいいんだけどなぁ・・・。この世界にあるかわからないから、同じようないい香りの木で作ってもらいたい。
というか、建物全部を香木で造ってもらえば、滞在中ずっといい香りに包まれているか!
 
中庭に向かっては全面窓・・・というか、開け放し?
美しい中庭を楽しんでもらいたい。
雨風の日や、朝晩が寒くなる時期には窓を閉める。
掃き出し窓のタイプにして、ガラス越しでも広く庭が見えるようにしたい。
 
ありがたい事に、開け放しでも虫の心配はない。
こういった暑い国なら虫がいっぱいいそうなもんだけど(実際、広場や市場なんかにはいたよ!)これまたスーさんマジック?うちにはいないんだな。にっくき蚊とか、見ただけでパニックになるGとかね。
スーさん様々である。
 
離れは向かい合わせといっても中庭が広いからプライバシーはバッチリだ♪
ここにいる間だけでも、広々とした空間で(できる限り)最高のサービスを。
温泉に入って、美味しいご飯を食べて、ゆっくり過ごして、癒された~と思ってもらえるように、心からおもてなしをしたいと思っている。
 
一日二組なら家族経営でもやっていけるんじゃないかと思う。
一棟四名様まで余裕で入れる造りだから、最多で八名。まぁなんとかなるでしょ!
もちろんトイレと洗面室もあるよ!離れだけで過ごせるように設計する。
 
フロントの建物には厨房も作らなければ!
お料理は部屋出しにする。離れといっても屋根つきの渡り廊下で一分足らず。熱々は熱々のまま召し上がってもらいたい。
 
お宿のいいところは上げ膳据え膳だよね。お布団も敷いてもらえるとか。
食事以外は自分時間を過ごしてほしいから、お布団は敷きには行かないけど。
この国はベッドが一般的だから、ダブルサイズのベッドをふたつ置く予定。ツインルームの設定だけど、二人以上の時の事を考えて簡易ベッドも用意しておこう。
それからこれは曲げられない、ふかふかお布団を敷く!
敷き布団のよさをわかってくれる人はいる筈!
 
この国の、というか町の?お宿事情は知らないけど、食事ってどうなってるんだろう?日本のたいていの宿と同じ一泊二食なのかな?
サイードが来たら聞いてみよう。
あ、クバードたちは宿屋暮らしっていってたな。クバードが来たら聞いてみよう。
エラムを送ったら話に来てくれる事になっている。
なんせ往復十日程だからね。
その他必要な仕度もお願いしてある。
 
なんて脳内で色々脱線しちゃってたけど、親方に頼む建物的にはそんな感じだ。

親方は建てる前に整地しなければならない事、それにはまた別の職人さんが関わる事。
まぁそういうのも全部込みでひと仕事らしいけど。
建物にかかる木材を用意するのに時間がかかるから、その間に整地は終わるだろうとの事。
それに親方も今手掛けている仕事がある。うちの依頼は親方の店の全員でかかる規模らしいから、今の仕事を終わらせてからという事になった。
 
建築期間はざっと三ヶ月くらい。
料金は材木屋さんと話し合ってから。
ほぉほぉ、脱衣所と洗い場の時とはだいぶ違うのね。
まぁ大きな建屋を三つと、渡り廊下・・・はそれ程でもないかな?
まぁ、贅沢な造りにしてもらうからね。
私は、目で見て肌で感じる贅沢もサービスだと思っている。
 
「それにしてもずいぶん豪勢な宿屋ですね。料金も高そうだ。あっしなんかにはとても泊まれそうにない」
「イヤですねぇ親方ったら。親方ならどこでも行けますでしょ?」
「どこでもは行けやせんや。ただのしがない大工ですからね」
 
裏の親分・・・。 
ではないのね。失礼失礼。
 
「うちができましたら是非お出でくださいね」
 
親分は曖昧に笑った。 
いや、親方だ。

何か、殺人計画でもたててそうな薄ら笑いに血の気が引くけど!
たぶんそんな物騒な考えじゃなくて、さっき言ったように料金が高いと思ってるんだろうな。

私はそんなに高い設定にするつもりはないよ。
半分湯治目的なんだし。
 
「あぁそれと、仕事終わりにはどうぞ汗を流していってくださいね」
「そいつはありがてぇ。みんな喜びやす・・・」
 
ニッコリ笑って言えば、親方も嬉しそうに笑顔になった。
だいぶ凄味のある笑顔だけど!
 
ん・・・? 
親方は、ちょっと何かを言いよどんだ?
ほんの少し瞳も揺れたような・・・。
 
・・・・・・
 
一秒、二秒、見つめ合う。
親方はフッと目をそらし、もう何でもないような顔になった。
 
ん~~? 
もしかして?
 
「湯上りには、冷たいのも一杯お出ししますね!」
 
親方は参った!というように破顔した。 

当たり♪




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