異世界女将 温泉お宿においでませ♪

ひさら

18

 
 
 
良くいえば目標に向かって脇目もふらないタイプ、というかまぁ、ストレートに言ってせっかちで大雑把な私は、知らないうちに痣や擦り傷を作っている事がよくある。

小さいものなら構わないんだけど、ギョッとするような濃い痣や流血する程の傷を負っている時もあって、大人の女性としてどうよ?と肌色の絆創膏と消毒液は常に持ち歩いているのだ。
 
「私の持っている消毒液を使ってみてもいいですか?」
「・・・かまわない」
 
小さくそう聞くと、クバードは諦めがまざった悲痛な声で了承してくれた。
男の子の名前を聞いて、そっと話しかける。
 
「ナルセ、消毒液をかけてもいいかな?少しでも楽になれたらって思うの」
 
ナルセは熱で潤んだ目でクバードを見た。
クバードが頷くのを見ると、私に目を戻してかすかに頷いた。
 
「ごめんね。ちょっとしみるかも」
 
奇跡起これ! 

私は祈りながら、大きな傷に消毒液をかけた。
 
わっ! 

驚いた私と、クバードもビクッと大きく身体が跳ねたよ!
消毒液をかけた傷はシュワシュワと泡が立っている。
いや、泡が立つのは知っているけど、私の知っている泡立ち方の何倍にもなってるよ!
何なのこの泡?どうなっちゃってるの??これ、大丈夫なの?! 
三度のパニックだ。
 
少したって、泡が消えると・・・。
 
「ナルセ・・・。 お前・・・、どうなんだ?」
 
化膿していた傷は、すっかり綺麗な新しいピンクの肌になっていた!!
 
「痛く・・・、ない? 苦しくない・・・。 え? ・・・え?」
 
奇跡きたーーー!!!

やったやった!! 
異世界産すごーい!!
こういうのなら、私はどんどん受け入れるよ!!
 
「ごめんね、ちょっと触るよ」
 
断りは入れたけど、返事を聞く前に触っちゃったからか、ナルセはビクリと身体を震わせた。
 
「あぁまだ熱はあるね。痛みが軽くなったからってムリしちゃダメよ」
 
ホッとして笑顔で言うと、ナルセもふにゃりと笑った。
 
「ありがとう・・・」
 
そう言うと、いきなり、寝た?! 気絶か?!
どうした?!どうなった?!
 
「やっと眠れたんだろう。今まで眠れているとはいえない状態だったからな・・・。 あの泡には驚いたけど、ありがとう。こいつに代わって礼を言う。 ところでそれは高回復薬か?すまない、高価なものを使わせてしまった」
 
パニクッてあわあわしている私に、クバードさんが言う。
 
「眠ったのね・・・。よかった。 よかった!ビックリしたよ~!」
 
さっきとはまた別の意味でホッとした。
 
「あ、これは回復薬ではないので回復はしないですよ?ただの消毒液です」
「あんな傷が治ったのに、ただの消毒液って訳がないだろう?」
 
いえ消毒液です。いや回復薬だろう?と言い合いながら、別の重症者を見て回る。
後の三人も大きな傷を負っていて、骨折もしてそうな人もいた。

傷にはナルセと同じく消毒液をかける。そして同じくビックリする程泡が立って、泡が消えたら傷が治っていた。
骨折には効かなかったけど、痛みは半分になったって。
三人からお礼を言われる。
異世界産すごいな。私はしみじみ消毒液を見た。
 


「では痛みを軽くする薬と、他に何か効きそうなものがあったら持ってきます!」
 
部屋を出て子供たちに事情を説明してから、クバードさんにそう声をかける。
 
「また来るのはいいけど、コハルさん、カゴはどうするの?」
「忘れてた!シリンありがとう! 先にカゴを取りに行って、置いてからまた来ることになっちゃうな。君たちいい?」
「「いいよ!」」

子供達は快く了承してくれた。
ほんとに何ていい子たちなんでしょ!

「ありがとう! クバードさん、ちょっと遅くなります」
「あぁ、それはかまわないが・・・。やっぱり俺が一緒に行こう。そうすればあんたたちがまた来る手間が省ける。 や、すまない。もらう立場で偉そうに」
「ダメですよ!クバードさんだって足を痛めてるんですから!ここで待っててください」
 
クバードさんは私をジッと見て、深みのあるハスキーボイスで言った。
 
「クバードでいい。コハル」
 
グッ! 好みの男性の不意打ち!!

いや、私はここに恋愛をしに来たんじゃない。子供たちもいるし浮ついてちゃダメだ!
私は緩んだ気持ちを蹴とばした。
 
ついでに、丁寧語で話さなくてもいいと言われ、流れで年齢の話になった。
クバードは二十八歳だって。同じくらいか、少し上かと思っていたら四つ下だった。
クバードも私が四つ上と知ると驚いていたよ。私とは真逆の意味で。
 
「じゃあクバード。なるべく早く戻るから!」
「すまない。待っている」
 
年下なら特に遠慮はしない。
私たちはちょっと急ぎ足でカゴ職人さんのお店に向かった。
 
 
 
「こんにちは~。お願いしていたカゴを取りに来ました」
「はーい。待ってましたよ」
 
教会からカゴ職人さんのお店は近かった。元々近くまで来ていたしね。
おかみさんが愛想よく迎えてくれる。
作業中だったご主人はわざわざ立って、出来上がっているカゴを渡してくれた。
 
「お前さんの言っていたように作ってみたが、気に入らない所があったら言ってくれ」
 
持ったカゴは軽くて丈夫そうだった。見た目も、記憶にある温泉や銭湯にある物と同じような感じだ。
 
「ありがとうございます!とても素敵です!」
「そりゃあよかった」
 
私が笑顔になってお礼を言うと、ご主人も満足そうに笑った。
後金を払って、みんなでカゴを二つずつ持つ。
このくらいの軽さならいけそうだ。
 
「またご用の時はぜひどうぞ」
「はい!その時はお願いします」
 
おかみさんに見送られて、いったん家に帰る。
 
「ローラ、重くて大変になったら持つから言ってね」
「ありがとう!まだ大丈夫!」
「コハルさん、ローラの分はおれが持つよ。コハルさんだって大変になるよ」
 
十歳の子に心配されてる・・・。
もっと体力をつけようと決意した。
 
 
 
家に着くと、子供たちにはおやつを食べさせる。エネルギー補給だ。

その間に私は持っていくものを用意する。
痛み止めと、一緒に飲む胃薬と、冷却シート。
あまり元の世界の物は見せないほうがいいと思うけど、冷却シートはそのままじゃないとダメだよね。とりあえずカラフルなイラストの箱からは出して、家にある適当な物に入れ替える。
痛み止めと胃薬は一つずつシートから外して小さい入れ物に入れる。
 
包帯はいるかな?あぁもう傷はふさがっているからなくて大丈夫か。
こっちの世界にあるかわからない綺麗な色のタオルはやめて、元々家にあった古い手ぬぐいを(タオル地じゃないから)持つ。これなら血で汚れてもそのまま捨てちゃっていい。
 
食べ物・・・。
こっちの世界でも変じゃない物はパンくらいしかない。
血が足りなくなってるならお肉か?お肉は調理しなければならない。時間的にそんな余裕はないし、普通は胃に負担のない軽い物から食べていくよね?
うちの夕ご飯を作る時間もあるし、今回はパンだけ持っていく事にする。
 
「コハルさん、食べ終わったよ!」
「私たちもう行けるよ」
「ちょうどよかった。こっちの支度も終わったよ」
 
エネルギー補給した子供たちは元気いっぱいだ。
私たちは、また町まで歩いて行った。




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