異世界女将 温泉お宿においでませ♪

ひさら

10

 
 
 
サイードは何やら考え込んでしまった。
でもさっきまでの泣き笑いの顔じゃなくなったから・・・、大丈夫かな? 
考える時間も必要だよね。

私は子供たちに、夕ご飯の支度まで休憩ね~!と告げて、裏の林に出た。
 
一応周りを見回して、源泉に話しかける。
 
「スーさん、スーさん。聞こえますか?ど~ぞ」
『・・・コハル。また何かあったか?』
「そうなんです!最初からある問題もまだ色々解決していないってゆーのに!新たに問題が起きました!」
 
そこで私は、昨日サイードが来た事。独り立ちした報告に来たと言うと、スーさんは喜んでいたよ。
塩とコショウを売ってもらうことになった事。
さっき、売ってもらった代金を持ってきてくれたけど、それが予想以上に大金だった事。
 
「こんな大金、家に置いておいて大丈夫ですかね?泥棒とか・・・。ここには私と子供たちしかいませんし」
『おぉそうか。それならコハルが許可した者しか入れないよう、結界を強化しておこう。許可した者でも悪心を抱いている者も入れないようにしておく』
「ありがとうございます!それなら安心ですね! あ、それとお礼が後になってしまいましたが温泉もありがとうございました!とても嬉しいです!」
『喜んでくれてよかった。コハルには子供たちの世話を頼んでいるからな。わたしにできる事はしてやろう』
 
それだった!
私は脱衣所と洗い場と仕切りの話をした。
それとできれば椅子と桶もほしい。
 
『それならばジダンのところに頼めばいい。すぐに作ってくれるだろう。椅子と桶は道具屋だ』
 
その手の発注は大工さんか!
それから道具屋さんね!
幸いお金ならたくさんある。
 
わかりましたとお礼を言いつつ、さらに相談は続く。
頼りっぱなしに、ちょっと声が小さくなっちゃう。
 
「もうひとついいですか?」
『なんだ?』
 
何とかしたい洗濯機だよ!
この世界に家電がないのは想像つく。洗濯機なんてないし作れないだろう。
でも同じような性能の物はできないだろうか?
全自動なんて言わない!二層式の物で十分です!!
 
『そうだな・・・』
 
お!何とかなりそうだ!
 
『洗濯用のたらいに水流をおこさせる水属性の小型の魔獣を入れておこう。よく言い含めておくからしばらく使ってみろ。脱水の方はいらぬだろう。その国の陽気は、手で絞っただけでも十分乾く』
「ありがとうございます~~!!温泉の次に嬉しいです!!もうもう、洗濯めっちゃ大変だった~~!!」
 
私は大大感謝をしつつ、では夕ご飯の支度に戻りますと通話を切った。

スーさん神!! 
じゃなくて魔王妃だったか!

何でもいいや!
これで洗濯の重労働から逃れられるぞ~!
手荒れや腰の痛みを気にせずたくさん洗えるしね!!
 
 
 
家に戻るとサイードが子供たちと遊んでくれていた。
 
「サイードもご飯食べていくでしょう?きっとお風呂も誘われますよ」
 
笑いながらそう言うと、子供たちも、サイ兄食べていきなよ!コハルさんのご飯美味しいよ!とか、一人で食べるのは淋しいよ!と合唱が始まった。
 
「すみません。二日続けて・・・。お世話になります」
 
子供たちの圧に負けたサイードは、ちょっと申し訳なさそうに言った。
 
「風呂といえば、髪も身体もすっごい綺麗になっていて、今朝びっくりしました!」
「あぁ、明るいところで見るとわかりますよね。ツヤツヤピカピカだけじゃなくて、手触りもスベスベだったでしょ?」
「はい。ちょっと気恥ずかしい程でした。お客さんにも色々言われたし」
 
仕事に行っている上の子たちも色々言われたらしい。
詮索する人も出てくるだろうと、お湯で丁寧に洗ったと言うように言っておいた。
そうは聞いても、きっとお湯は使わないと思うけど。何故かって?
 
この国の(というかこの町がある地域なのかな)気候は、元の世界の亜熱帯くらいと思われる。
一応四季はあるけれど、春と秋ははっきりとはなく、夏と冬を緩やかに結んでいるようなものらしい。
今は初夏だけど、真夏になっても今よりもう少し暑くなるくらいだそうだし、冬場も晴れた日中なら半そでで過ごせるくらいだという。
超冷え性の私にはありがたい気温だよ~!
 
という訳で、この町の人たちのお風呂事情ではお湯に入る習慣はない。
お湯を沸かすのも燃料費がかかるしね。燃料費といっても薪だけど。
お金持ちなら燃料費を考えなくてもいいだろうけど、見習いの子供たちはそんな人との接点はない。
ないからわからない。
 
あぁ、そういえば。
 
「サイード、お風呂に脱衣所と洗い場と、男湯と女湯の間に仕切りがほしいんです。それをジダンのところに頼みたいと思うのですが、直接頼みに行っていいものですか?」
「ジダンのところですか・・・。まぁ、ジダンがいるのに余所で頼む訳にもいきませんが・・・」
 
おや?ジダンのところは問題でも?
サイードは私の表情を見て苦笑いをした。
 
「親方は腕は悪くないんですが、人柄がちょっと・・・。料金もだいぶふっかけられますよ」
 
あらまぁ。
それはちょっとどうかな。
う~ん・・・。
 
「あ、でも!ジダンが行っているんですもの、余所に頼めませんし。考えるだけムダですね!」
「まぁそういう事になります」
 
親方がどんなに阿漕な人でも、ジダンのために不義理はできないよね。
幸い腕は悪くないって事だし。
 
「仕事の依頼をするのに、子供たちを連れて行っても大丈夫でしょうか?」
 
サイードはちょっと考えて。
 
「乗りかかった船です。お付き合いしますよ。コハルさんが依頼に行っている間、俺が子供たちを見てます」
「え!サイードのお仕事は?」
「俺も自分の仕事をさぼる訳にいかないので、お昼頃でどうでしょう?こいつらと一緒に昼飯を食ってます」
「ありがとうございます!助かります!」
 
やったやった!!
やっと脱衣所と洗い場と仕切りができるよ~!
勝手の分からない異世界で人と接するのに不安はあるけど、私もいい年した大人だし何とかするわ!
それよりも切実にお風呂に快適に入りたい!!
 
「ユーリン、シリン、明日の昼の鐘の頃、東の広場にみんなで来てくれ」
「「うん!わかった!」」
「明日町まで行くの?にいにもローラも?
「みんなで行くよ!」
 
わーい!とみんな大騒ぎになった。
ずっと家にいて、家の事だけをしていたんじゃつまらないよね。
遠足のようなはしゃぎように、こっちまで楽しくなる。
 
「さぁそれじゃ夕ご飯を作っちゃおうね!みんなが帰ってきちゃうよ!」
「「はーい!」」
 
今夜のメニューは、またもや忙しくなっちゃったので簡単に生姜焼きにしちゃおう!
ご飯を炊いている間に具だくさんのお味噌汁を作る。上の子たちは初お味噌汁だけど大丈夫だろう。お昼に下の子たちが喜んで食べているからね。
野菜切りはローラも手伝ってくれた。ちょっとあぶなっかしい。
 
それからキャベツの千切りを大量に作らなければ!
これはお手本を見せたらユーリンとシリンがやってくれた。
この二人は手先が器用だな。お料理が好きだし。色々教えよう♪
 
豚肉は軽く塩コショウで下味をつける。お醤油とお酒とお砂糖で合わせタレを作っておいて、焼けてきたらからめる。すりおろした生姜は香りが飛ばないように最後に入れる。
 
「おかえり!手洗いうがいをしておいで!もうすぐできるよ!」
 
帰ってきた子供たちにいつものように声をかける。
いい匂い~!とか、腹減った~!とか言いながら井戸に向かう子供たち。
戻ってくる間に熱々を食卓に運ぶ。今日はサイードも手伝ってくれたよ。
 
生姜焼きは大好評だった。美味しい美味しいとみんなガッついている。
わかるけどね!甘辛味は美味しいし、香ばしい匂いも食欲をそそるよね!
ちょっとオリエンタルな感もあるけれど、見た目西洋人っぽいのにお醤油系の味を喜んでくれている。
元の世界でも日本食は世界中で食べられていたし、いけるね!
 
タレのかかったキャベツもモリモリ食べている。
お味噌汁も予想通り大丈夫だった!
お肉も野菜もいっぱい食べなさい♪
元々そんなに凝った料理ができる訳じゃないけど、成長期の子供たちのために栄養のあるものをたくさん食べさせたい。
 
賑やかな食卓を見ながら、私もお味噌汁を一口。
あぁ、やっぱりほっとする。
日本人のソウルフードだね!




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