パラサイト・ワールド 寄生される世界

MK マッチー

第11話 最後の戦い




銃声が轟いた。

黒田:
「よせッ! 何をする!!」

叫び半狂乱になりながら、散弾によってヒビが入った培養液カプセルを庇う。的確な意志を持ってクイーン・ノーミンを狙い撃ったのは、ショットガンを持った宮部だ。

「……何故だ、何故!! 何故お前はあの苦しみに戻るのだ! 何故心を満たす山を登らぬのだ!! それこそが完全な喜びの始まりであり、その理でもあると言うのに!!!」

宮部:
「………私からすれば今のおじさんは、私を虐めていたクラスメイト達と大差ないんですよ。あなたこそ人の人権を無視し虐める様な愚か者です。もうこれ以上罪も無い人達を巻き込まないでください。…………世の中の為に、何よりもあなたの為に楽になってください……」

黒田に銃口を向ける宮部の目は決意した想いと、悲しみの想いを交錯していた。

落合:
「宮部さん……」

山田:
「止めは俺が……。これ以上貴女に悲しみを背負わせません」

宮部:
「……太郎、さん………」

宮部にショットガンを下ろさせ、拳銃を黒田に向ける。黒田は尚も三人を見下し続けるが、その眼差しには怒りが込められているように見受けられた。引き金を引こうとした瞬間、何かがぶつかる音がした。

黒田の真後ろからだ。培養液カプセルのガラスにヒビが入り、それに動転したのであろうクイーン・ノーミンが、ガラスに頭突きを何度も当てる。その度にヒビが大きくなっていく。黒田が慌ててクイーン・ノーミンに向き直る。

黒田:
「ああ、我が子よ落ち着いてくれ。すぐにコイツらを排除するから、大人しくしててくれ。これ以上は頭が傷付いてしまう!」

さらに身を乗り出したその直後、クイーン・ノーミンがガラスを割り黒田の首に絡み付いた。

「ぐわあああーーー!」

血しぶきを撒き散らし断末魔を上げながら、黒田は機材の後ろへ倒れる。機材の隙間から大量の血が流れ広がる。

山田:
「………因果応報、自業自得とは皮肉だな………」

宮部:
「これが、あなたの終わり方なんですか?……叔父さん………」

落合:
「まぁ、何ともあっけない終わりですけど、終わりよければ全て良し! ここから脱出しましょか?」

落合に賛同して歩みを進めようとしたその時、機材の影から何かが飛んで、三人の目の前に着地した。

黒田?:
「まだ、終わっていないぞ……」

落合:
「な、何だ?!」

宮部:
「叔父さん………」

山田:
「ウソだろ、おい……」

そこにはボロボロになった白衣を着た黒田がいた。首にはクイーン・ノーミンであろう大きな、コブが出来ていた。そのコブを軸にして顔の右半分に、赤黒い血管の様なものが浮き出ていた。

そして右目は大きく丸くなり、赤く光るように、右手には大きな鉤爪、右足はノミの足、口にはノミの注射器の様なものが出来始めていた。灰色の肌になった黒田が、憎しみの目を向け哮った。

ノーミン黒田:
「終わらぬ終焉を見せてやろう」

喉が大きく膨らんだかと思えば、口から白濁した何かを勢いよく吐き出した。山田達は咄嗟に避け、吐き出された何かは壁に叩き付けられた。山田は肩越しに壁に叩き付けられた、何かを見て
ギョッとする。それは無数のベビー・ノーミンで蠢いていた。

落合:
「気色悪い化け物め! 大人しくしてりゃ今すぐに、あの世にいる奥さんの所に送ってやるよ!」

ノーミン黒田:
「ガハハハハハハ! 我妻が死んだと言うのか? 死んではおらん、蘇るさ。何度でも蘇るさ!! その為の寄生虫なのだぁぁあああーー!!」

黒田は跳躍する。ノミの寄生虫だけあってそのジャンプ力は、人間の能力の限界を超えていた。黒田が山田の真上に落ちて来る。山田は前へと身を投げた。その瞬間黒田が彼がいた場所に鉤爪を下ろした。激しい動きをして左肩に痛みが走った。だが気にしては埒があかない、傷みを無視し山田は黒田に向き直り、銃口を向ける。しかしそれよりも早く黒田は、床に刺さった鉤爪を掬い上げ、床の破片を山田に投げた。瓦礫に当たり後方へ倒れる。

追撃しようとした黒田に落合がショットガンを連射した。背中を撃たれていた黒田は降り返り際に、近くにあった機材を振り投げた。落合はそれに当たり、壁に叩き付けられる。もう一つ機材を投げようと、手に触れた瞬間、後頭部に数発の銃弾が貫いた。振り返り撃った宮部に、寄生虫入りの弾を吐き出す。それに当たった宮部はベビー・ノーミンに塗れて床に倒れる。

宮部:
「きゃああ!!」

ノーミン黒田:
「貴様には失望した、そのまま果てるが良い下女が!」

山田:
「その言葉を訂正しろ、老害が!」

拳銃で黒田の側頭部に連射する。さらに引き金を引こうとした瞬間、鉤爪を振り回し銃を弾いた。そして鉤爪を大きく振り上げ、真横に振り下ろした。が、空間を切り裂いただけで山田には当たらず。山田は後退しながらショットガンに持ち替え、胴体を撃ち続けた。

ノーミン黒田:
「おのれぇ、ちょこまかと鬱陶しい。……下等生物が!!」

再び喉を膨らませ寄生虫の弾を吐き出そうとしたが、落合が黒田にスリーパーホールドを決めた。しかし数秒で黒田の肘打を食らい、スリーパーホールドから解放してしまう。山田に向き直った黒田が鉤爪を、下から掬い上げて山田の持っていたショットガンを、バラバラに破壊した。

すかさず山田が黒田の顔面に、右ストレートを入れた後左フックを食らわせた。だが効く筈も無く山田は黒田の裏拳によって、地に伏してしまう。
倒れた山田の胸を踏みつけながら言った。

「何か言い残す事はあるか?」

山田:
「……あんたへの恨み節しか無いな」

鉤爪を振り下ろそうとしたその瞬間、プチッと奇妙な音がした。

黒田が肩越しに振り向いた。落合が何かを踏んでしたり顔をしている。良く確認すると、先ほど黒田が吐き出したベビー・ノーミンの一匹だ。

落合:
「おっとすまない、これあんたの次男坊か? じゃあこっちが長女かな?」

そう言って次々とベビー・ノーミンをプチッ、プチッ、と踏みつぶしていく。

「次女に三女に三男かな? しっかし大家族だな~、誰が誰だか分かりゃしねぇ。 それぞれ名前がついてんのか?教えてくれよお義父さん」

怒りの形相で落合を睨み、傍まで近づき目の前に立つ。鉤爪を大きく振り上げ落合を引き裂こうとした。振り下ろそうとしたその瞬間、黒田の首に刃が貫いた。背後から山田が首に寄生した、クイーン・ノーミン目掛けて刀を突き刺したのだ。クイーン・ノーミンだったコブから大量に血潮が舞い、黒田が悶え苦しんだ。苦しみながら勢いよく振り返り、山田を引き裂こうとした。しかし目の前に銃口が見えた。

宮部:
「さよなら、叔父さん」

宮部は引き金を絞った。

ノーミン黒田:
「ぐぉぉぉおおおおーーー!!!」

右目を撃抜かれ空間が揺れる程の断末魔を上げた後、黒田は仰向けに倒れる。宮部は倒れた叔父を数秒凝視した後、目を逸らした。山田が宮部の方に手を置き、宮部は山田を無言で悲しそうな表情で見つめた。すると警報音が鳴り響き、室内が赤く点滅する。

アナウンス:「汚染レベルが限界に達しました。これより10分後に爆破します。所員は速やかに避難してください。繰り返します___」
山田:
「………本当に潮時のようです、ここから出ましょう」

落合:
「そうですね、もう邪魔して来る奴はいないでしょうし、もうここに用はありません。行きますか」

宮部:
「はい……」

培養液カプセルの裏にあった、屋上用と書かれた扉を開け三人は階段を駆け上がった。 黒田の指が僅かに動いたと気付かずに。

・KSコーポレーション屋上(ヘリポート)

17:50

長い階段を駆け上がり、屋上へ繋がる階段室の扉を勢いよく開け放つ。案の定雨ざらしになった三人は、即座にびしょ濡れになる。濡れるのを気にせず目を見開いて、当たりを見渡し注意深く見ても、屋上には何もない。

落合:
「………クソ! ヘリが無いってどういうことだ!どうやって脱出すればいいんだ!!」

宮部:
「まさかヘリがあると思ってここまで来たんですか?!」

落合:
「大企業の屋上なんですから、ヘリくらいあるってそう思うでしょう!」

宮部:
「緊急事態の時にヘリを使って、逃げたに決まってるでしょ! 無計画すぎるんですよあなたは!!」

落合:
「じゃああなたはどうやって、ここから脱出するつもりだったんですか?! まさかわざわざ戻ってエレベーター乗って、一階のロビーから出ようとでも思ってたんじゃないんですか?あなたの方が無計画ですよ!!」

宮部:
「あなたより単純な思考じゃありません!!」

落合:
「あー!言ったな!言っちゃいけない事言ったな! あなたはね黒田さんと同じように、時々偉そうなんですよ!でも一階に戻って出られると考えてる所を見ると、黒田さんよりかは馬鹿みたいですけどね!!」

宮部:
「叔父さんと私を同一視してるあなたの方が、馬鹿ですよ!!」

2人の不毛な喧嘩を止めさせようと、山田が声を掛けようとしたその時、激しい爆発音が聞こえた。振り返ると遠くの方で大きな火柱が見える。

山田:
「………(あそこは確か、発電所があった場所だ。 あんな燃え方見た事無い、何か爆発物でもあったのか?)」

一瞬心の中でそう考えたが、対象の興味を引っ込めて、今するべき事を優先した。バカバカと言い合っている2人をなだめる為に、山田は近づいた。すると上空から強烈な光に照らされ、轟音が轟いた。薄目で上空を見ると、黒塗りのヘリがホバリングをしていた。持っていた無線から声が聞こえて来た。

無線
:『……ザザザ……。 こちら三木だ、通信出来るなら応答願う』

山田:
「大佐! 無事だったんですね!」

無線(三木):
『それはこちらの台詞だ。無線から君の声が聞こえてまだ生きていると、確信して戻って来た。
無事で何よりだ。……ところで黒田博士は会ったか?』

宮部:
「……叔父さんは、もう………」

無線(三木):
『……そうか、残念だ。 取りあえず今からヘリを下ろす、少し離れてもらえると………』

その直後だった。階段室を破壊しながら、ヘリポートのど真ん中に跳躍して来た。撃たれた右目は赤い丸い目が再生し、周りに小さい目が出現していた。肌は赤黒くより筋肉質になり、筋肉の繊維が所々剥き出しに。人間の名残だった左手は収縮して、鋭い槍の様なものが生えた、にさらに変異した黒田がそこにいた。

ノーミン黒田:「……グォォオオオ!!」

無線(三木):
『な、何だ!この化け物は!!』

山田:
「……黒田です!」

無線(三木):
『何?! コレが黒田博士なのか? 何て恐ろしい………。 ……ここからの援護は無理だ、着陸も出来ない。済まないが君達だけで何とかしてくれ 』

落合:
「おいおい、こちとらただの一般市民だぞ? 無茶ぶりも良い所だぜ」

宮部:
「でもやらないと、やられるのは私達です」

落合:
「そ、それは分かってますけど……」

宮部:
「ここまで乗り越えて来た三人なんです、脱出する為にケリをつけましょう!」

山田:
「ええ終わらせましょう。 これが俺達の最後の戦いです!」

山田はマシンガンを、宮部は銃を、落合はショットガンを持ち、憎しみの目を向けて来る黒田と向き合った。怒りと憎しみに狂った獣が咆哮した。それは空間を揺らし、豪雨の闇夜を切り裂いた。
マシンガンの引き金を絞った。狙いは特に決めず、体のどこかに当たれば僥倖だと思った。

しかし黒田は、いや黒田だったものは跳躍した。
ヘリの底スレスレまで飛び、下降して来る。降って来るという表現が正しいか。降って来る雨粒より速い速度で、地面に激突する。
山田達は大きくスライディングして避けた。三人がいた場所に、大きな鉤爪が深々と突き刺さる。

山田と宮部は事なきを得たが、落合は右足に傷みを覚え顔をしかめた。
ふくらはぎからの出血を一瞥し、腹這いの体勢のままショットガンを連射した。

赤い大きな右目を中心にした、数個の小さな目玉達が落合を睨む。肩の肉片を散らし咆哮した後、ライトの外側の闇へと消える。
三人は目を凝らし、辺りを注意深く見渡す。闇に潜むものを選別出来る目を、養っていたなら三人に取っては、何の事も無い単純な動作だっただろう。
しかし三人にはそういう類いの目を持っていなかった。

だから何かが蠢いていると、認識した時には既に遅かった。
闇から出現して山田の背中を、通りすがりに引っ掻いた。半回転しながら地に伏した山田は、目の前に大きな槍が掲げられているのが見えた。
貫かれる事を覚悟したが、銃弾に弾かれ胸に数発被弾。苦しみの呻きを上げた後、再び闇へ消える。感謝を目に宿して宮部とアイコンタクトを取る。



落合:

「……クソ! どこにいやがる、暗すぎて見えやしねぇ!」


山田:

「……大佐!ちゃんと照らしてください! 何も見えなければ対処のしようがありません。目隠しプレイは趣味じゃないんですよ!」


無線(三木):

『この豪雨で操縦が難しい状況で、無茶ぶりも良い所だが何とかしてみよう』


無線:『操縦してるの大佐じゃありませんけどね!!』


無線(三木):

『細かい事は良いんだよ!』


再びライトの光によって、照らされた黒田。余程眩しかったのか、左右に顔を振る。その隙を三人は見逃さなかった。銃、ショットガン、マシンガンの集中砲火を黒田に浴びせる。肉片や血しぶきを散らしながら、黒田は再度闇に消える。闇に身を隠し数秒、また光に照らされ銃弾の的となる。

しかしまたしても跳躍し、三人のいた場所に降って来る。間一髪の所で避けたものの、山田は背中の痛みに悶絶した。蓄積されたダメージは、着々と山田の体を蝕んでいる。短期で決着をつけなければならない、と一瞬焦った。それが原因だったのか。目を瞑ってしまった山田は、槍で横一文字に斬られる。

傷はそんなに深くはなく、浅いが出血と共に激痛が走る。顔をしかめた山田にノミの足で、蹴っ飛ばされ地面を滑っていく。黒田の頭を中心にショットガンを連射していた落合は、落ちていた瓦礫を大量に投げられ気絶する。

雄叫びを上げながら銃を撃ってくる宮部に気付いた黒田は、臆する事無く槍で宮部の右肩を貫き、階段室の壁に串刺しにする。悲鳴を上げ苦痛の表情に歪む宮部の顔を覗き込む。まるで命乞いを聞きたいがために、止めを刺さないように。 宮部は黒田の顔に唾を吐き捨てる。

宮部:
「………もう男に媚びへつらう事に飽きたのよ」

鉤爪を上げ振り下ろそうとした。しかし先に左手の槍が地面に落ちた。山田が渾身の力で刀で叩き斬った。

ノーミン黒田:「グガォォオオオーーー!!!」

叫び、振り向き際に裏拳で山田を後ろへ吹っ飛ばす。倒れた山田に追撃しようとしたその瞬間、落ちた筈の槍が自身の胴体を貫いた。宮部がなけなしの力を振り絞り、黒田に一矢報いた。振り返ろうとした黒田の頭に、瓦礫が投げつけられ視界が揺れる。落合に寄る咄嗟の判断だ。

無線(三木):
『山田君!今からそちらにマグナムを投げる、それでケリを付けろ!!』

再び天を仰いだ。暗闇から落ちて来る銀色に輝く、何かに手を伸ばす。黒田が無線に気付いたのか、自身に取って次の脅威を察知し、素早く動いた。鉤爪を突き立てるために、右手を伸ばした。

デザートイーグルを両手でキャッチし、そのまま向かって来る黒田に放った。
右目諸共右側頭部から頭頂骨にかけて、大きく抉られる。小さな呻きを上げ、黒田は地に伏した。

宮部:
「……やった……やった!」

落合:
「……よっしゃー!ついに倒れたー!!」

山田:
「……はぁはぁ、大佐何とか倒せました……」

無線(三木):
『よくやった。今からヘリを下ろす。あまり時間がない、すぐに乗ってくれ』

ヘリが徐々に下降していく。三人は歩み寄りほっと安堵する。

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