パラサイト・ワールド 寄生される世界
裏切りの閣議会議
・首相官邸
高級なソファーに大理石のテーブル、クリスタルの灰皿がある、高級感溢れる会議室。政府高官達が状況説明をしていた。目くじらを立て猛り狂うは官房長官。
当然の事だ。寄生虫研究で日本は確固たる地位を築いたが、非人道的な人体実験をしただけでも驚きであるばかりか、それが長年秘匿され軍事目的で研究されていて、しかも研究関係者の汚職を巡るトラブルでこのような事が起きるとは。
山田官房長官:
「そんな危険な寄生虫、初めて聞いたよ!本当に治療法は無いのか?!」
沼淵厚生労働大臣:
「はい。国立感染症研究所の説明では、寄生虫は寄生対象に寄生してすぐ、自律神経を破壊。その後脊髄に独自の根を広げ、繁殖を繰り返す為だけの人形にします。
寄生に対する治療法は始めから考えられていなかったようで、寄生されればそれまでです。その為全市民への対応は不可能という結論に達しました。最短で24時間以内、遅くても48時間以内に、全市民が全て寄生されるとの事です。甚大な被害が予想されます」
“寄生虫ノーミン”がどれほどの危険かは、既にKS社の関係者から説明を受けていた。だから改めて聞くまでもなかった。かと言ってこの事態に対して有効な手段が、滅菌するほか無い等と納得出来る訳が無い。
山田官房長官:
「滅菌作戦、狩矢崎市市民全員を皆殺し……そんなの許可出来るわけないだろ!!
何人居ると思っている!25万人、25万人だぞ?!
そもそも何でこんな危険な寄生虫が、隠蔽されて軍事研究されていたんだ!?
軍事目的というなら防衛省も、何か関わっているのか?!」
鬼塚防衛大臣:
「……いいえ、自らの与り知らぬ所です」
山田官房長官:
「だとしたら問題だ、大問題だ!!国の行政機関を介していないというのであれば、これはテロだよテロ!!公安は何をしている!国家の危機だぞ!!
誰の責任だ?!誰がこんな研究で日本の国益に繋がると思ったんだ?!」
このやり取りを窓から外を眺めていた人物が、口を開く。
総理:
「………責任の追及は必ず行います。ですが問題は『誰の責任か』ではなく、『どう対処するか』が問題です」
森総理補佐官: 「緊急マニュアルがこちらです」
総理:
「緊急マニュアル、か………」
___緊急マニュアル第37564号___
複写厳禁・持出厳禁 ・本マニュアルの必要並びに許可無き閲覧を禁ずる。
・本マニュアルは最高決裁者の決裁を以ってのみ適用する。
如何なる簡易決裁もこれを認めない。
・最高決裁者とは国の長、内閣総理大臣の事である。
総理大臣に不測の事態に陥った場合、次の決裁者は副総理大臣とする。以下下降。
・決裁者は事態発生から24時間以内に決行しなければならない。
早急的解決は以下の手順である。
◯交通遮断及び外内部の隔離:
・交通封鎖部隊を編成、その後は町を外部より遮断する事。
・部隊の装備は常時使用に備え維持点検を怠らない事。
・外部からの侵入に対しては退去命令を以ってしても応じない場合、発砲を許可するものとする。
・内部からの脱出は臨機応変に、交通封鎖部隊隊長に任意するものとする。
総理:
「………滅菌作戦を行わない場合のシュミレーションを聞かせてください」
鬼塚防衛大臣:
「はい。異常を感知してから10時間が過ぎ、狩矢崎市はほぼ壊滅。
このまま行けば24時間で狩矢崎市はおろか、群馬県が壊滅。3日で群馬県に隣接する 新潟県、埼玉県、栃木県、長野県、福島県が壊滅。僅か一週間で日本が崩壊します」
中村総務大臣:
「……人間以外の寄生も報告されているので、鳥類等に寄生されれば被害はさらに拡大、海外にまで及ぶと思われます。 そうすると一ヶ月で世界は、終焉を迎えると予想されます」
総理:
「25万人程度では済まなくなる、という訳か……」
◯通信手段の遮断:
・通信工作部隊を編成、その後は町から外部へ発する優先無線を含む全ての通信手段を遮断する 事。
・遮断に当たり外部に不信感を抱かれぬよう厳重に注意する事。
・通信施設は交通遮断の周囲であるため、通信工作部隊は通信施設に接近する全ての民間人の射殺を許可するものとする。
山田官房長官:
「……滅菌作戦は隠密に実行出来るのか?!この事が発覚されれば寄生虫の軍事利用以上の大問題だぞ!?」
鬼塚防衛大臣:
「ご安心ください。それにつきましては自衛隊内の機密保持に特化した部隊が、既に狩矢崎市の封鎖に当たっております」
森総理補佐官:
「……やけに早いんですね?」
鬼塚防衛大臣:
「……恐縮です」
◯施設関係の隠匿:
・施設処理部隊を編成、その後は関係施設の重要物を回収並びに証拠の隠匿を行う事。
・重要物回収にあたり関係する者の指示を仰ぐ事。危険物が含まれるため搬出に細心の注意を払うためである。
・秘匿区画は厳重封鎖とする。地下区画注水封鎖。全ての出入り口の扉は溶接。
・施設処理部隊は関連施設へ接近する全ての民間人を暗殺する許可するものとする。ただし危険物もある為発砲は許可しない。止む得ない場合に限る。
総理:
「……滅菌作戦を行った場合のシュミレーションを、まだ聞いてませんでしたね」
鬼塚防衛大臣:
「はい。研究所の大事故を装いますがやはり対応の不手際で、野党の追求は避けられませんね。ですが寄生虫の軍事研究は隠蔽出来るかと……」
山田官房長官:
「当たり前だ!!もしこの事が発覚されてみろ、政権奪取はおろかこの国の世界的地位は、文字通り地に落ちるぞ!」
沼淵厚生労働大臣:
「国際世論は一斉に日本を非難。近隣諸国は政府主導で大バッシングキャンペーンを展開、それにより国際信用は無くなるかと」
総理:
「…………竹下君、外務省主体で情報操作を頼めるかね?」
竹下外務大臣:
「ええ、できますわ。近隣諸国への根回しは済んでおりますので、後は情報を弄るだけですわ」
総理:
「ふむ、後はこれだ……」
◯NBC兵器による証拠隠蔽
・5キロトンの核爆弾を使用する事。確実な隠蔽を行う為である。
・生存者の有無如何のいかなる事態に遭遇しようとも特例は認められない。
・上記の全部隊は任務未遂行であっても各自撤退を命ずる。
山田官房長官:
「日本に原爆が再び落とされるという事だな。……しかし!!全てを隠す為の犠牲が25万人は多すぎる!」
総理:
「………この国において、生物兵器の研究が行われていた事が露呈する事だけは、避けねばなりません」
何処からとも無く溜息が漏れた。 国の国益を守る為に国益を損なう行為をする矛盾。
いつからだろうか、矛盾を矛盾と理解し混沌の世界を歩むようになったのは。
若者の活字離れが叫ばれているのなら、ここでは政府高官達の人間離れが叫ばなければならない。
「……………隊員達から真実が漏れる事は無いのですか?」
鬼塚防衛大臣:
「いいえあり得ません。精鋭を選別し愛国心の高い、忠誠心を持つ者のみで
構成されております。ご心配は杞憂かと」
竹下外務大臣:
「国を愛した国民を、国が殺すのね………」
鬼塚防衛大臣:
「総理、どうか緊急マニュアルにご決裁を」
総理:
「……この作戦は成功しますか?この国の犠牲を最小限に抑えられますか?」
鬼塚防衛大臣:
「はい。既に作戦準備に入っております。ご決裁されれば直ちに出動し決行します」
総理:
「…………。…………」
目を瞑り顔の前に手を組む。いつからだろう?矛盾した存在になったのは。
娘に胸を張れる父親でなくなったのは、いつからだったか………。
中村総務大臣:
「総理、ご決断ください」
沼淵厚生労働大臣:
「ご決断ください、総理」
竹下外務大臣:
「ご決断をお願いしますわ、総理」
鬼塚防衛大臣:
「ご決裁ください、総理」
山田官房長官:
「……心中をお察しします。総理」
森総理補佐官:
「ご英断を、………総理」
総理:
「…………。………25万人の犠牲者に、幸あらん事を………」
緊急マニュアル執行書に自らの名をサインする。
___これにより狩矢崎市は国から見捨てられた。___
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