百合LoveStory~香澄と紬~

Sei

序章 新しい生活

望月香澄もちづきかすみは、とても内気な女の子だった。
 内気な性格の為に、人と話す事が上手く出来なくて、入学した高校でもいつも一人だった。
 結局転向するまでに、一人も友達は出来なかったから、一人寂しく1ヶ月だけど通った高校を去る事になった。
 転向の理由は、両親が事故で亡くなった為だった。
 身内のいない香澄を引き取ってくれたのは、母親の親友の園崎忍そのざきしのぶだった。
 「ここが、香澄ちゃんが暮らすお家よ」
 忍は、優しく微笑みながら香澄に言う。
 忍は、シングルマザーだった。
 娘が一人いて香澄と同じ高校一年生だと、忍が説明してくれた。
 香澄は、女の子で良かったと思った。
 内気で、人と話す事が苦手な香澄は、女の子とも上手く話せないが、男の子とは更に話せなかったから。
 忍の話しだと、名前はつむぎちゃんと言って、幼い頃の怪我が原因で、左足が不自由だけど明るい性格で、忍曰くもう少しお淑やかにしてくれたらとの事だった。
 (紬ちゃんって、どんな女の子なんだろう?)
 優しい女の子ならいいなと、香澄は思った。
 もし怖い女の子だったら、間違いなく泣いてしまう自信があった。
 香澄は、内気で泣き虫な女の子だった。
 「ただいま~香澄ちゃん入って」
 香澄は、小さな声でお世話になりますと言うと、忍に続いて入る。
 「お帰り~」
 リビングの方から聞こえてくる。
 「今行くから、紬は待ってなさい」
 そう言うと、忍は靴を脱いで香澄を案内する。
 リビングに入ると、瞳の大きくて、とても可愛い女の子がいた。
 私と全然違って可愛いなと、香澄は思ってしまう。
 決して香澄は、可愛くない訳ではないのだが、自分に全く自信のない香澄は、いつも他の女の子と自分を比べてしまっていた。
 「香澄ちゃんだよね?あたし紬よろしくね」
 「よろしくお願いします」
 香澄が、俯きながら言うと、紬は椅子から立ち上がって、香澄の方に来る。
 その途中で、転びそうになる。
 「わぁっ!」
 「危ない!」
 咄嗟に紬を支えようとするが、小柄な香澄では、支えきれる筈もなく二人して倒れてしまう。  
 「失敗失敗って!香澄ちゃん大丈夫?」
 香澄は、紬の下敷きになってしまった。
 何とか頭は打たなかったけど、お尻と腰を打ってしまった。
 痛みから声は出せないし、涙が滲んでくる。
 「泣くほど痛いの?本当に大丈夫?」 
 紬が心配そうに、顔を近づけて来る。
 香澄は、恥ずかしくなって、紬から目を反らしながら大丈夫ですと答える。
 「本当に?あたし重いから怪我してない?」
 そう言いながら、香澄の腰やお尻を触ってくる。
 香澄は、もうどうしていいかわからずに固まってしまう。
 「いい加減どいてあげたら、セクハラ娘」
 忍がそう言うと「セクハラ娘って酷いなぁ~女の子同士だからセクハラになりません」と力説した後どいてくれた。
 「本当にごめんねかすみん」
 かすみん?そう思いながら大丈夫ですと再度答える。
 「後で痛くなったら言ってね」
 紬が心配そうに言ってくれる。
 香澄は、紬ちゃんは優しい女の子なんだと思って安心する。
 「セクハラ娘は、早く香澄ちゃんを部屋に案内しなさい」
 「だから、セクハラじゃありません!」
 そう言いながら、香澄を部屋に案内してくれる。
 紬は杖をつきながら、器用に歩いていた。
 そんな紬を見ながら、紬ちゃんって器用なんだと香澄は思った。
 「あたしと同じ部屋だけどいいよね?」
 「はい」
 紬は、なら良かった~って顔をしている。
 香澄は荷物を置くと片付けを始める。
 紬が手伝ってくれたのは、助かったけど香澄の下着を見ながら、ニヤニヤするのだけはやめてほしかった。
 荷物を片付けた後は、香澄も手伝って夕食の準備をする。
 「香澄ちゃんは、いいお嫁さんになるね」
 「そ、そんな事ないです」
 「謙遜しなくていいのよ。うちのエロ娘なんて料理の一つも出来ないんだから」
 忍は、紬をエロ娘と言う。
 香澄は、紬ちゃんはエッチなのかなと思ってしまう。
 「エロ娘は酷いと思います母様」
 「ムッツリだから仕方なしね」
 「確かに、やっぱりエロ娘なのかあたしは!」
 そんな二人の会話を聞きながら、引き取ってくれたのが、忍で忍の娘が紬で良かったと思った。
 勿論エロ娘の部分ではなくて、明るくて楽しい母娘と言う意味でである。
 「年頃の娘としては、エロい事の一つや二つや十位は考えるのが普通なのですよ。ねぇかすみん」
 いきなり振られて困ってしまう。
 考えた事は、多分なかったから自信がないので多分になってしまう。
 「そ、そんな事考えないよ」
 「かすみんが裏切ったー」
 「馬鹿言ってないで、あんたはお皿用意しなさい」
 「かすみんだって、絶対考えるのに」
 どうしても、香澄を仲間にしたいらしい。
 夕食の時間はとても楽しかった。
 両親を亡くしてから、初めての楽しい夕食だったけど、紬がどうしても香澄をエロ娘仲間にしたがったのは、困ってしまった。
 夕食が終わって、お風呂の時間になった時に忍が香澄にお願いしてきた。
 「紬と一緒にお風呂入ってほしいんだけど」
 女の子同士だしと思い「大丈夫です」と答える。
 「あの子足が不自由だから、お風呂で何度も転んだ事あって、今までは私が入れてたんだけど、あの子も同い年の香澄ちゃんの方がいいかなって」
 やっぱり忍は、優しい人だと思った。
 香澄は、わかりましたと言うと紬と一緒にお風呂に向かう。
 「やっぱり若い娘はいいのぉ~」
 紬のオヤジ発言は無視して、お風呂に入る。
 「かすみんつれないなぁ~」
 ボキャブラリー0の香澄には、どう対応していいかわからなくて、困り果ててしまう。
 オヤジ発言連発の紬に、困りながら何とかお風呂を終えて、二人で部屋に行く。
 布団に入ると「かすみんも、あたしと同じ学校なんだよね?」と紬が聞いてきた。
 「うん」
 「同じクラスならいいね」
 「うん」
 香澄も、紬と同じクラスならいいなと思った。
 紬がいてくれたら、一人で過ごさなくていいし楽しいと思った。
 「明日の為に寝ますか、かすみんお休み」
 「紬ちゃんお休みなさい」
 最初は、不安一杯だった新しい生活は、初日から楽しい1日になった。
 香澄は、紬と忍に感謝していた。
 明日からの学校生活は、不安だったけど紬がいてくれたら、楽しくなるそんな予感がしていた。
 紬との楽しい学校生活を想像しながら、香澄は眠りについた。

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